SPring-8, the large synchrotron radiation facility

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The 214th SPring-8 Seminar

Period from 10:30 to 11:30 Tue., May 29 , 2012
Venue Lecture Hall, Public Relation center
Host/Organizer JASRI/SPring-8
Format Lecture
Abstract

Speaker : Koki Takanashi

Language : JAPANESE

Affiliate : Institute for Materials Research, Tohoku University

Title : スピン流とスピントロニクス

Abstract :
 最近、電流とは異なる新たな物理概念として、スピンの流れ、すなわち「スピン流」が注目を集めている。磁性材料をナノ構造化すると、磁気的な性質と電気的性質(伝導)や光学的性質などのさまざまな物理的性質がお互いに強く相関するようになり、一方によって一方を制御できるようになる。スピン流はそのような物理量の変換・制御の基礎であり、スピン流を理解し、スピン流の高効率の創出と高精度の制御を実現することは、スピントロニクスの格段の発展につながる。本講演では、まずスピン流の概念と歴史的背景について述べ、最近の研究成果のレビューを行う[1]
 電流が上向きスピンも下向きスピンも含めた電子のトータルな流れであるのに対して、スピン流は上向きスピンと下向きスピンの電子の流れの差と考えられる。これまでは主として電流を伴うスピン流(スピン偏極電流)の研究が行われていたが、最近では電流を伴わないスピン流(純粋スピン流)の研究が注目を集めている。純粋スピン流とは、上向きスピンの電子と下向きスピンの電子が逆方向に動き、電流は相殺しゼロになるが、スピン流は存在する状態であり、非局所スピン注入という手法やスピンホール効果によって実際に作り出ることができる。また、磁性絶縁体におけるスピン波や磁壁の移動も、純粋スピン流ということができる。
 スピン流研究の歴史的背景には、最近のスピントロニクスの発展がある。スピントロニクスの原点は、1988年の金属人工格子における巨大磁気抵抗効果(GMR)の発見であると一般に考えられている。GMRの発見以後、TMRを含むスピン依存伝導の研究が全盛を迎えた。一方、半導体分野でも独自の大きな発展があり、さまざまな強磁性半導体が作製され、キャリヤ誘起磁性の研究が盛んに行われるようになった。1990年代の末には、金属分野においても半導体分野においても、このようなスピンと伝導に関係する分野をスピントロニクスと呼ぶようになった。その頃から、磁化が伝導に影響を与えるスピン依存伝導の研究から、さらに伝導が磁化に与える影響(スピン注入磁化反転など)に興味が持たれるようになり、金属や半導体といった既存分野の枠を超え、磁化と伝導、光などの諸物性との相互変換・制御の基礎になる概念として、スピン流に多くの研究者の注目が集まるようになってきた。
 最近数年間で、スピン流に関わる原理的な研究が著しく進展している。スピン起電力の予言と実証[2,3]、巨大スピンホール効果の発見[4]、絶縁体中におけるスピン流の伝搬[5]などである。また、スピンゼーベック効果[6]の発見を契機に、スピン流と熱流の相関についても興味が持たれている。このような基礎的な成果の上に立って、まさに革新的なデバイスの創成が期待されている。
 本講演では、特に材料学的な立場から、規則合金を用いた我々の研究成果を紹介したい。規則合金と呼ばれる物質群には、磁性材料として従来最も一般的に用いられているFe, Co, Ni系の遷移金属合金と比して、スピントロニクス材料として優れた特性を有するものが少なくない。ホイスラー合金の一部は、伝導電子のスピン偏極率が100 %である、いわゆるハーフメタルであることが知られている。このことを活かせば高効率にスピン流を創出することが可能で、その結果として巨大な磁気抵抗変化を実現できる。我々は、Co2MnSi/Ag/Co2MnSiという積層構造で、ハーフメタル性に基づく大きなCPP(Current-Perpendicular-to-Plane)-GMR[7]の観測に成功している。また、FePtに代表されるL10規則合金は大きな磁気異方性を有し、室温でもナノスケールまで磁化が熱的に安定であるというメリットがある。同時に、良好な垂直磁化膜を作製できるので、デバイスの高集積化に適している。我々は、FePt/Au面内多端子素子において巨大なスピンホール効果も観測しており[4]、FePtが垂直偏極したスピン流の創出源として有用であることを示している。

[1] スピン流に関する総説としては,高梨弘毅,応用物理,77 (2008) 255. を参照されたい.
[2] S. E. Barnes and S. Maekawa, Phys. Rev. Lett., 98 (2007) 246601.
[3] P. N. Hai et al., Nature, 458 (2009) 489
[4] T. Seki et al., Nat. Mater., 7 (2008) 125; B. Gu et al., Phys. Rev. Lett., 105 (2010) 216401.
[5] Y. Kajiwara et al., Nature, 464 (2010) 262.
[6] K. Uchida et al., Nature, 455 (2008) 778; Nat. Mater., 9 (2010) 894.
[7] T. Iwase et al., Appl. Phys. Expr., 2 (2009) 063003; Y. Sakuraba et al., Phys. Rev. B 82 (2010) 094444.

Organizer : Takayuki Muro
Mail : muro@spring8.or.jp
PHS : 3869

Contact Address SPring-8 Seminar secretariat JASRI/SPring-8 Shinji Kakiguchi
+81-(0)791-58-0949
+81-(0)791-58-0830
spring8_seminar@spring8.or.jp
Last modified 2015-05-01 15:00