Subject/Contents |
誘電体中のμ+粒子 -水素・励起子のシミュレーター
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Period |
from 13:30 to 14:30 Wed., Aug 21 , 2019
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Venue |
Kamitsubo Memorial Hall
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Host/Organizer |
JASRI
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Format |
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Abstract |
Speaker: ITOU TAKASHI
Language: Japanese
Affiliation: 日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター
Title: 誘電体中のµ+粒子 -水素・励起子のシミュレーター
Abstract:
ミューオンスピン回転・緩和法(µ+SR)は物質中にµ+粒子を静止させ、それをスピン1/2の磁気プローブとして利用する磁気的分光手法であり、1970年代以降、物性研究に広く応用されるようになった。µ+SRはNMRやメスバウアー分光と強い類似性を持つため、ユーザー層も共通しており、それゆえ磁性・超伝導研究における需要が高い。その一方で、物質中に打ち込まれたµ+粒子はそれ自身が+1価の電荷をもった不純物として振舞うため、µ+SRは本来、そのような粒子による「不純物NMR」として捉えるべきものである。本講演では、このような観点からµ+粒子を水素および励起子のシミュレーターとして用いた研究について紹介する。
µ+粒子は陽子のおよそ1/9の質量を有する。したがって、µ+粒子と電子の束縛状態であるミューオニウムMuは水素原子とほぼ同じ換算質量(0.995倍)を持ち、ゆえに水素化学種の電子状態をよく再現し得る。µ+SR法はその黎明期より半導体中の不純物水素の研究に応用され、深い不純物準位を作る原子状Mu0や電子を緩く束縛した浅いMu0などの観測を通して物質の理解に貢献してきた[1,2]。今回、我々は誘電材料SrTiO3中の水素とそこから放出される余剰電子の振舞いを研究するためにµ+SR法を適用し、イオン化ドーパントMu+による格子歪が電子の局在状態(スモールポーラロン)を安定化させることを初めて見出した[3]。さらに、この電子の有効束縛エネルギーは30 meV程度と小さく、局在電子は熱エネルギーによって容易に遍歴状態へと遷移し得ることが分かった。本研究により明らかになったイオン化ドーパントと余剰電子の関係は、他の手法でn型化したSrTiO3において観測されたスモールポーラロンと遍歴電子の共存状態[4,5]をよく説明するものである。
Muと水素のアナロジーは換算質量の一致に依拠している。これを敷衍すると、Muは重いホールと軽い電子より成る励起子のシミュレーターとしても一定の役割を果たし得ると考えられる。このような期待の下、ナローギャップ半導体SmSに対して行ったµ+SR実験についても紹介したい。
講演では、上述の話題に加え、J-PARC MLFミュオン実験施設の現状と最近の研究の動向についても言及する予定である。
References
[1] B. D. Patterson: Rev. Mod. Phys. 60, 69 (1988).
[2] S. F. J. Cox et al.: J. Phys.: Condens. Matter 18, 1079 (2006).
[3] T. U. Ito et al., submitted to Appl. Phys. Lett.
[4] M. Lee et al., Phys. Rev. Lett. 107, 256601 (2011).
[5] Y. Ishida et al., Phys. Rev. Lett. 100, 056401 (2008).
Organizer:JASRI Diffraction and Scattering Division Tsutsui Satoshi
e-mail:satoshispring8.or.jp/PHS: 3479
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Contact Address |
SPring-8 Seminar secretariat Shinobu Miyoshi / Minako Koujibata General Administration Division/
SPring-8/Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI)
+81-(0)791-58-0833
+81-(0)791-58-0830
minako@spring8.or.jp
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Last modified
2019-08-07 16:38