下記の9件の実習テーマを予定しています.受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます.ただし,特定のテーマに希望者が集中した場合,ご希望に添えるとは限りません.ご了承下さい.
なお,装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合があります.
題目 |
ビームライン |
担当者 |
資料へのリンク |
非晶質物質構造解析 |
BL04B2 |
小原 真司(JASRI) | |
結晶性薄膜のX線構造評価 |
BL13XU |
坂田 修身(JASRI) | |
X線の異常分散 |
BL14B1 |
西畑 保雄(原研) | |
マイクロビーム形成とその評価 |
BL24XU (注1) |
高野 秀和(兵庫県立大) | |
円偏光軟X線による磁気材料解析 |
BL25SU |
中村 哲也(JASRI) | |
タンパク質の結晶構造解析 |
BL26B1 |
引間 孝明(理研播磨研) | |
単結晶構造解析 |
BL46XU |
水牧 仁一朗(JASRI) | |
レントゲン写真の撮影と像解釈 |
BL47XU |
淡路 晃弘(JASRI) | |
炭素化合物の軟X線吸収スペクトル測定 |
ニュースバル BL9A |
新部 正人(兵庫県立大) |
2.結晶性薄膜のX線構造評価 BL13XU 坂田 修身(JASRI)
薄膜に新しい機能や物性を期待し新しいデバイスを創出する方法の一つとして、基板結晶とは化学組成や構造の異なるヘテロ薄膜を成長させて利用する。その薄膜の結晶性や界面の構造が設計する機能に影響する。例えば、用いる基板結晶と薄膜の間に格子定数差や化学的性質の違いがあると、核形成されるため島状成長が起こり、成長膜の結晶品質が低下する。こういった結晶性の劣化を防ぐため、種々の製膜方法が提案され、また条件が工夫されている。
実習の目標:1)薄膜の結晶性の評価とは、どんな内容を指すのか? 何を、どうやって調べ、どこまで分かるのかを理解すること。2)物質との相互作用が電子線に比べて小さいX線回折法で数nm-数10
nmの薄膜を破壊せずに調べることの利点を体験すること。 理解事項:薄膜の厚さの評価、C軸配向有無の評価、薄膜の格子整合性(エピタキシー性)の評価、薄膜、基板の2個を同一の逆格子空間で取扱うこと。
3.X線の異常分散 BL14B1 西畑 保雄(原研)
X線異常分散とは原子散乱因子がX線のエネルギーに依存する現象であり、多波長異常分散法(MAD)や左右対掌の絶対構造決定、材料中の元素のサイトの決定などに応用される。通常、原子散乱因子は実数として扱われており、X線のエネルギーを変えても構造因子は変わらない。しかしX線の異常分散は内殻電子の励起に関わっているために、X線吸収端エネルギーの近傍では原子散乱因子は著しく変化し、複素数として扱われる。この実習では比較的簡単な構造をもつ化合物半導体のブラッグ反射を測定する予定である。構成元素のX線吸収端エネルギー近傍でのブラッグ反射の強度変化は、構造因子を反映した特徴のあるエネルギー依存性を示すことを観察する。このテーマは必要なエネルギーを自由に選ぶことができるという放射光の特徴を活かすものであるが、ビームラインの分光器やミラーなどの重要な光学素子を直接操作することになるので、「基礎講座」の内容を充分に理解していることが望まれる。
4.マイクロビーム形成とその評価 BL24XU 高野 秀和(兵庫県立大)
より小さく、高強度なX線ビームのサンプルへの照射〜 X線マイクロビーム技術はSPring-8に代表される高輝度放射光光源の出現により、急速な発展を遂げている。現在では100
nm以下の集光サイズが実現されており、様々なX線分析法において光学顕微鏡に勝る空間解像力を与えることが可能な基幹技術として極めて重要である。現在のX線マイクロビーム技術においては、X線を光波と捉え光学的に取り扱うことが必要であり、本実習を通してX線の空間コヒーレンス及び光学的集光について理解してもらうことを目的とする。具体的には、フレネルゾーンプレートというX線集光素子を用い、様々な条件下でX線の集光及びビームサイズ評価を行う。また、空間コヒーレンスとの対応をX線ホログラフィ等、光波としての干渉現象を視覚的に捉える実験を通して評価を行う。参加する学生においては光学の知識を有していることが望ましいが、高校程度の光学知識で充分楽しめるような内容にするつもりである。
5.高輝度円偏光軟X線を利用した先端磁気材料解析 BL25SU 中村 哲也(JASRI)
軟X線は波長約10-100Åの光(電磁波)です。光は電場と磁場の振動面が垂直という関係を保ちながら伝搬して進行します。太陽光のような一般の光では、小さな光の束(波束)毎の電場の振動面が揃っていない状態で、この状態を「無偏光」といいます。一方、放射光はその発生原理によって電場の振動面が揃った「偏光」となります。さらに、放射光では挿入光源や偏光子によって、光が進行しながらその電場の振動面が螺旋状に回転する「円偏光」を作り出すことができます。
本テーマでは、薄膜磁気材料の機能発現のメカニズム解明に挑戦していただきます。具体的な手法としては軟X線の円偏光と磁気の相互作用の一つである「磁気円二色性」を用います。今回は、近年目まぐるしいほどのスピードで高密度、大容量化が進むハードディスクの心臓部である薄膜磁気材料を取り上げ、磁気円二色性による磁気解析を行います。このテーマは先端磁気材料の研究として非常にホットなものです。実習においてもどんな実験結果が得られるか予想できませんが、答えの用意されない、まさに最先端研究への参加をお待ちしております。
6.タンパク質の結晶構造解析 BL26B1 引間孝明(理研播磨研)
全ての生命現象は生体を構築するタンパク質を含む生体高分子の構造変化(化学反応)
を伴う現象である。従って、タンパク質を含む生体高分子の立体構造の解明は生命現象を理解する上で重要である。
放射光を利用したタンパク質のX線結晶構造解析では、数十分から数時間で原子分解能レベルに近いX線回折データの収集が可能となった。本実習ではタンパク質の結晶化を実際に体験し、重原子を含むタンパク質結晶のX線回折データの収集を行なう。さらに、得
られたX線回折データから回折強度を積算するとともに重原子の異常分散効果を利用して位相を決定することによってタンパク質の電子密度を計算し、タンパク質の立体構造の決定までの一連の解析を体験してみる。
7.単結晶構造解析(2次元検出器による構造相転移のその場観察) BL46XU 水牧 仁一朗(JASRI)
単結晶X線構造解析法は、分子構造や結晶構造を決定する最も有力な手段として、物質科学などの広汎な領域で日常的に利用されている。本実習ではX線回折法の原理を解説するとともに、逆格子空間を一度にマッピングできる2次元検出器を用いた結晶構造相転移のその場観察を行う予定である。X線回折点は対象物質に長距離秩序が存在すると出現する。このことを鑑みれば、外場(温度、磁場、圧力など)により秩序がどのように発達、あるいは崩壊していくのかを観察することができる。このような構造情報は物質の示す性質を理解する上で非常に重要な情報である。今回は電荷が2種類(Fe2+とFe3+)ある系についてその2種類の電荷が温度変化により結晶中でどのような長距離秩序を発達させるのかを観測する予定である。またその秩序の発達過程が逆格子空間中でどのように現れるかを2次元検出器による測定で視覚的にとらえていく。
8.レントゲン写真の撮影と像解釈 BL47XU 淡路晃弘(JASRI)
1895年、Wilhelm Conrad
Roentgenにより物体を透過する未知の放射線(X線)が発見された。物の内部が透けて見えるという素晴らしい性質を持つことから医学診断に応用され、今日では人体内部のみならず広く医学、生物学、材料科学において光学顕微鏡や電子顕微鏡では不可能な情報を探る重要な手段としてゆるぎない地位を確立している。撮影されたレントゲン(X線)写真は濃淡(コントラスト)によって表現されるが、この画像を解釈するためにはコントラストの生じるメカニズムを理解しておくことが必要である。BL47XUでは、吸収によるコントラストと屈折によるコントラストを例に、撮影した像がどのように違って見えるのかを実際に体験してもらう。学生諸君には実験装置のセットアップ作業から野外でのサンプル収集、写真撮影、像解釈、後片付けまで自ら進んで参加して頂くとともに実験の楽しさ、難しさなども身近に体験して頂ければと願っている。
9.炭素化合物の軟X線吸収スペクトル測定 ニュースバル BL9A 新部 正人(兵庫県立大)
本年度よりSPring-8に併設されている兵庫県の中型放射光実験施設「ニュースバル」でも実験実習することになりました。ニュースバルではSPring-8と異なり、利用可能な光子エネルギーは1
keV以下の軟X線、真空紫外線が中心です。このエネルギー領域の光子は物質との相互作用が非常に強いため、ほとんど物質表面で吸収されます。そのため、ニュースバルは表面分析や光微細加工を得意とする放射光施設です。
放射光を用いた物性研究において、物質の吸収スペクトル測定は基本的な手法のひとつです。本テーマでは炭素化合物の軟X吸収スペクトル測定を実習します。標準試料となる代表的な固体炭素化合物(高配向性熱分解グラファイト、フラーレン(C60)、カーボンブラック、ダイヤモンド、ポリエチレン等)のCK吸収スペクトルを測定し、化学結合の差異とスペクトルの形状の差異について考察する予定です。
光源にはニュースバルの長尺アンジュレータ(11
m)を用います。ビームラインはBL9Aで、回折格子分光器を用いて軟X線を分光します。軟X線は硬X線と違い、試料を真空中で取り扱うなど特有の技術が必要となりますので、これらの技術についても実習します。なお、現在ニュースバルにおける軟X線XAFS測定技術は(講師も含めて)発展途上にありますので、例えば吸収スペクトルの入射角依存性等について、どの程度の実験ができるか、保障のかぎりではありません。