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SPring-8の利用促進に資する
利用者の動向等調査


平成25年2月
SPring-8 ユーザー協同体


目次

1. 緒言    4
2. 施設者が発行したSPring-8 Upgrade Plan Preliminary Reportに関する意見    5
2.1  SPring-8アップグレードについて    5
2.2 Report 全体に対する意見    5
2.3 光源に対する意見と要望、質問と研究分野における期待    6
2.3.1 光源に対する意見    7
2.3.2 光源に対する要望・質問    7
2.4 実験ハッチ・検出器に関する意見、要望、質問    9
2.5 Upgradeに向けた今後のSPring-8における研究に関する意見    10
2.6 次期計画についての研究分野の意見・要望等    11
2.7 上記以外のUpgrade に関する一般的な意見    14
2.7.1 Upgradeの時期と期間に対する意見と質問    14
2.7.1.1 時期と期間に対する意見    15
2.7.1.2 時期と期間に対する質問    15
2.7.2 予算に対する意見    16
3. 現行のSPring-8 に関する事項    17
3.1 ビームライン、ハッチ及びステーション機器等の改廃に関する意見    17
3.1.1 ビームラインの改廃についての意見・要望・質問    17
3.1.1.1 全体的な意見    17
3.1.1.2 全体的な質問    18
3.1.1.3 分野、ビームラインに特化した意見・要望    18
3.1.2 ステーション機器の改廃に関する意見    19
3.1.2.1 全体的な意見    19
3.1.2.2 個別意見    19
3.2 現状のビームラインの情報公開に関する意見    20
3.3 他の量子ビーム研究施設との連携に関する意見    21
3.3.1 全体的な意見    21
3.3.2 中性子との連携    21
3.3.3 他の放射光施設(SACLAを含む)との連携    22
3.4 JASRI が利用者へ行う支援業務に関する意見    23
3.5 課題募集・採択に関する意見    23
3.5.1 課題募集・採択に関する意見    24
3.5.2 課題募集時期に関する意見    24
3.5.3 ビームタイム割り当てに関する意見    24
3.6 その他    25



1.  緒言

本報告書は、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)と公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)との、特定放射光施設の利活用に関する 協力協定書(平成24年5月15日締結)第2条、第3条に基づき行われた、平成24年度のSPring-8の利用促進に資する利用者の動向等調査を取りま とめたものである。

2019年に予定されている大型放射光施設SPring-8のUpgrade計画は、それを利用する者の意見等も十分に考慮した計画にする必要がある一方 で、Upgradeされるまでの間においても、利用成果の質的、量的拡大を目指し、現行のSPring-8が持つ能力を余すことなく最大限に発揮する必要 がある。そのためには、JASRIにおいて、SPring-8利用者のニーズや意見及び利用研究の動向等を、十分に把握し、各事業における検討に適切に反 映することが重要となる。

本報告書は、平成24年5月15日に作成されたSPring-8の利用促進に資する利用者の動向等調査計画書に基づき、SPRUCに組織された9分野30 研究会からそれぞれ提出された「利用者の動向調査報告」をSPRUC執行部にて取りまとめたものである。各研究会からの報告をUpgrade計画と現行の SPring-8に分類した上、意見分布に基づきさらに細かく分類し、各項目について、SPRUC全体としての意見と、個別研究会からの意見を並べる形で 作成された。分類に際して、JASRIに要望を正しく伝えるため、各研究会からの意見の分解、統合、重複の削除をSPRUC執行部にて行っている。必ずし も、個別研究会からの意見が完全に反映されていないと思われる部分についてはご容赦願いたい。なお各研究会からの報告書は、末尾に資料として添付した。

平成24年4月に発足したSPRUCにとって、今回の報告書作成は最初の試みであり、意見の収集方法について改善すべき点があったことは否めない。今回の 経験が次年度以降に生かされるよう改善を続けていく所存である。動向調査に尽力いただいた各研究会とSPRUC会員の皆様に御礼を申し上げるとともに、本 報告書が、JASRIの今後の運営に適切に反映されていくことを期待する。


平成25年2月28日
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)
会長
雨宮 慶幸

2. 施設者が発行したSPring-8 Upgrade Plan Preliminary Reportに関する意見

2.1  SPring-8アップグレードについて
 光源のアップグレードについてSPRUCに寄せられた意見は、概して好意的な内容であった。SPring-8の発展的改造は望ましく、アップグレードに賛成するという意見が多かった背景には、施設が放射光のトップランナーとしての立場を今後も維持しようとする意欲が高く評価されていることや我が国の科学技術の水準をある一定以上に保つために必要であるとの認識があることが挙げられる。次期計画案は現状を踏まえて特徴ある内容として受け止めた研究会が多かった。加速器技術はアップグレードしないと次世代の技術養成ができないためぜひ進めるべきであるという、ユーザー研究会でありながら加速器技術の観点からの意見も見られた。施設が長期間にわたり停止されることが見込まれるため現状で利点が明確でないとの指摘はあったが、光源のアップグレードを望まない否定的な意見は少なかった。次期計画案を実現することにより、多くの研究会が対象分野の研究の質的向上で恩恵を受けると期待している。研究会から寄せられた代表的な意見を以下に紹介する。

 非常に魅力的な計画であると考えている。X線ビームのコヒーレンスやフラックス密度の大幅な向上を柱としていると受け止めている。基本的には賛成である。SPring-8 Upgrade Plan計画の内容は良いので特に問題はない。次期計画が実現すれば、ユーザーの実験研究の質が向上すると考えている。
 SPring-8は世界有数の放射光施設であり高性能・高精度のX線源として維持するべきである。このことは世界のX線科学の基盤を支える標準器としての役割を持たせることが、広く展開されている応用利用研究とともに、重要であることを意味する。そのための最高精度の基礎データを取得し、提供するビームラインを構築し、確保することが必要である。
  研究の進捗を考えると次期計画の時期は早いほど良く、10年後ではなく直ぐにパフォーマンスを上げることが望ましい。直ぐに実施できない場合であっても、10年後にも何か必要なテーマは存在するはずであり、その具体的な実験や試料を現時点で想像するのが難しいが、その基盤としての高性能リングであることは重要である。消費電力を抑えて社会状況を反映した技術が開発されるとなお良い。

2.2 Report 全体に対する意見
 SPRUCとして、これだけの内容を英文でまとめあげた施設側に対し敬意を表するとともに、SPring-8がカバーする広範なフィールド全体からの意見を集約するためにも、内容を噛み砕いて、放射光の専門家以外にもわかりやすく要点をまとめたレポートの作成をお願いしたい。可能ならば英語版、日本語版両方での作成をお願いしたい。これは、光源のパラメータ等が成果に直結する分野の研究会からの意見は、概ね吸い上げられたものの、それ以外の研究会からは、むしろ質問事項や、内容説明に対する要望が多く寄せられたためである。個別の意見は、次節以降に記述するため、まず全体に対する意見を記述する。

現状で非常にベクトル幅の広い研究が行われているので,先端性と汎用性の両立が重要だと思われる。SPring-8は広範なフィールドをカバーしているが、レポートはそれらすべてのフィールドの将来を十分に俯瞰したものとは必ずしも言えない状態でまとめられている。レポートには記載のない分野も多数ある。SPRUCの前身であるSPring-8利用者懇談会の各研究会から原稿を集めて2009年に「SPring-8における近未来の利用研究の展望」を発行している。研究会からみると、Upgrade Plan Preliminary Reportはこの内容を踏まえた意見交換が必要である。現状ではそのような記述が見られるようには感じられないため、これに応えた記述が欲しい。また、専門用語が多く、それらの言葉に精通した研究者以外からの意見や積極的な賛同を得ることは難しいとの意見も見られた。研究会によっては、Upgrade Plan Preliminary Reportに目を通したユーザー数が半分以下の会もあった。
光源が1000倍明るくなることにより、1000倍多くの測定ができるとReportで述べているが、実際は本測定までの準備時間があるので、そうはいかないであろう。これを効率化するには、ハードウェアだけではなく、人的なサポート環境も重要である。計画ではそのようなことには全く触れられていないが、高度化する光源装置を有効に活用するために、人的側面での問題の掘り起こしと改善・工夫にも検討をお願いしたい。
Reportを読んでつかんだイメージは、SPring-8とSACLAの隙間を埋めたとたんに、SPring-8とKEKやその他の放射光施設の間のギャップが大きくなり過ぎ、多くの研究における裾野へのダメージが大きくなることである。各放射光施設が個別にUpgradeするのではなく、放射光学会等が国内の放射光施設の将来計画を集約した形でUpgradeを進めるべきである。

2.3 光源に対する意見と要望、質問と研究分野における期待
 次期計画の根幹をなす光源に関しては、意見と要望さらに質問が数多く出された。SPRUCの研究会で進められている研究には、Reportに記載された条件に適合する実験分野と条件が大きく異なる研究分野があるためである。
SPRUCとしては、施設側にこれらのユーザーからの要望を受け取っていただき、可能な限り次期光源の設計に役立てていただくことを希望する。また、質問についても、今後できる限り早く、施設側よりユーザーに対して答えていただきたい。可能ならば、ビームサイズ、フラックス等について各BLにおける現状と次期計画での値を記載した表を作成してほしい。個々のユーザーにとって自分の利用するBLが最大の関心事項であり、多くの質問、要望について答えることが可能となるためである。一部の疑問や質問は、次期計画にむけて解決すべき課題として具体化していただきたい。以下では、光源に対する全体的な意見、要望・質問を記述したのち、個別の分野での次期光源への期待等を記す。

2.3.1 光源に対する意見
 次期計画では、フラックスと輝度どちらも必要である。フラックスと輝度のどちらかと言われれば、SPring-8の現状程度の輝度が維持されるという条件のもとで、フラックスの増加が望ましい。フラックスの増加は現状の実験の自由度が高まるためである。加速エネルギーが8 GeVから6 GeVになることについては、多くの研究会で使用できるエネルギー範囲に関して問題は見られていない。また、コヒーレンスや特殊なバンチによる利点は多くの研究会の研究にとって絶対要件としては挙がっていなかった。
  ビームパフォーマンスが桁違いに向上することは望ましい。ビームラインの装置については、研究会でも資金獲得を努力したいが、最低限、既存の装置は利用できるよう施設側で考慮して欲しい。そのため、光源やフロントエンド、分光器等の上流側コンポーネントについては、施設側の責任範囲として欲しい。
アップグレードには輝度だけでなくフラックスの改善が必要である。様々なタイプの高分解能分光や非弾性散乱はフラックスが現状の限界を決めており、フラックスの改善がなければ、輝度がいくら改善しても進展が望めないためである。エネルギーとして10〜30 keV、中でも特に20〜30 keVの領域のフラックスの向上が重要である。アップグレードは、SPring-8の最大利用可能フラックスと輝度の両者を確実に改善するよう進められるべきである。現状の高フラックスビームラインのフラックスが下がる場合、どんなに輝度が上がっても、意味をなさない実験もある。
 SACLAは破壊測定、SPring-8 IIは非破壊測定との棲み分けが表現されているが、現在のSPring-8でも照射ダメージの問題がある実験がある。表現が過度にならないように注意して欲しい。また、現状の実空間イメージングでは、多くのケースで空間的コヒーレンスは十分である。むしろ、X線窓や光学素子からのスペックルが悪さをし、拡散板が必要である。光源のアップグレードの内容に対して、X線光学系(特に冷却方法)の対応状況(予定)が貧弱である。光学素子などの高品質化を伴った上で、高輝度化が進むことが望ましい。
ウィグラーは基本的に採用しない(エミッタンスが小さいdamping wiggler BLは計画されている)計画のようだが、広い視野が必要なイメージングには有ったほうが良いと感じている。また、偏向電磁石光源BLに関する情報がほとんど見当たらない。

2.3.2 光源に対する要望・質問
 軟X線領域ではこれ以上分解能を向上させてもあまり有効ではないので、むしろフラックスを上げて欲しい。また、他国のリングはもっと低いエネルギーで高い フラックスで運転しており、SPring-8はフラックスが必要な多くの実験で後れを取っている。このためフラックスを上げて欲しい。この場合、コヒーレ ンスは不必要である。軟X線領域は、むしろ3 GeVクラスの高輝度光源施設が優位である。高輝度化・高フラックス化は望ましいが、単バンチ化は光電子分光の分解能劣化の恐れがある。
 現状のSPring-8のセべラルバンチは、シングルバンチを使っているグループにとっては、バックグランドが高くなり非常に使い難い。連続部分のない、 完全なシングルバンチ(1バンチ、7バンチ、12バンチ等)で、電流がマルチバンチと同等なバンチ構造が可能である光源を強く希望する。
 高調波成分が実験のクォリティに大きく影響を与えるので、高調波成分の非常に少ない挿入光源の開発を希望する。また、フラックスは必ずしも要求しないが、 輝度の高い丸い光が欲しい(横方向も縦方向に近いエミッタンスを希望)。CDI(Coherent Diffraction Imaging)やタイコグラフィーには高輝度コヒーレンス光が有効だが、全てのイメージング用途がこの方式でカバーされるわけではない。特に動的観察を 主眼とする場合には、コヒーレンスより、まずはフラックスが欲しい。材料や実験性質から考えて輝度よりもフラックスが必要、高エネルギーコヒーレンス光を 積極的に使いたい。
 短バンチ化をすると、空間電荷効果のため光電子分光の分解能が悪くなる恐れがある。光電子分光の立場からは、高輝度化は、マイクロビーム化につながる点で は良く、高フラックス化、バンチ毎のピーク強度をできるだけ低減すること、マイクロビーム化が理想的、つまり、低エミッタンスでフルフィル運転が理想であ る。また、6 GeV運転は、軟X線以下の分光(現時点での硬X線光電子分光利用の領域でも)では影響がない。
次期計画についてエンドステーションまでの例を示して、エンドユーザーが使うところまでの計画(案)を示して欲しい。
 実験により状況は異なるがフラックスは全実験で重要となる。顕微測定やホログラフィーイメージングなどの実験も実施したいので、輝度やコヒーレンスの向上 も期待する。微小領域に明るいX線が照射できるのは新しい実験を検討する機会として期待される。特に、製品レベルのデバイスの1素子を高感度に測定したい ので、ビーム径が50 nm以下の高輝度集光軟X線と硬X線を利用したい。
 X線光学素子に関し、継続性のある精力的な開発が必要と考えている。光源の改造に併せて光学系、計測系の高度化と改良を同時進行させるべきである。現行で もアンジュレータのフルパワーを入れられない分光器が多い状況で、これ以上熱負荷が増えた場合に、本当に安定したビームを供給しうる分光器システムを準備 できるのか?これについての記述をもう少し詳しくして欲しい。
 次期計画により、新しくできるようになることは良いとして、現状の実験のうち、できなくなる実験があるのか?あるとすればそれがどんな実験か?を教えて 欲しい。現状の計画では、変更点が多く、本当にできなくなる実験があると思われる。また、白色X線は使えないのか?広いサイズのビームは使えないのか?高 エネルギーは使えないのか?について十分な記述を読み取れなかった。この点を教えて欲しい。
 各ユーザーの関わるステーションのビームのパラメータの変化を具体的に知りたい。偏向電磁石のビームラインでビームは最大どこまで広げられるか?電子ビー ムの位置の安定性は現状と比較してどうなるか?軟X線領域はフラックスがどうなるのか?Upgrade後には白色X線の実験やサイズの大きいビームを利用 したイメージングなどの実験が全く行えないのか?などの情報が欲しい。
 ウィグラーでのパラメータ(エミッタンス、ビームサイズ、フラックスなど)が知りたい。また、次期計画で円偏光X線をどのように発生させるのが得策か、教 えて欲しい。また、直線部が短くなるが、軟X線領域の挿入光源も同時に更新され、停止期間終了後直ちに利用が再開できるのか?偏光制御も問題なく行えるか を教えて欲しい。
 加速電圧を下げても蓄積電流を下げたら節電になるのか?という点を知りたい。フラックスを増やすのは良いが、軟X線領域で熱負荷の課題が未解決であり、 これを事前に解決しておく必要があるのではないか?リングの電子エネルギーを可変にできないか?光を振ることはできないだろうか?

2.3.3 光源に対する個別研究分野からの期待等
 SPring-8 IIのビーム性能は、SPring-8のXAFS計測で使用しているエネルギー領域全般にわたり時間分解性能・空間分解性能が大幅に向上しており、その点 に限っても大変評価できるものと考える。
 表面回折では、現状光源においても強度不足の問題があり、高輝度の次世代光源への期待は大きい。これまで不可能であったコヒーレントX線回折による表面 ゆらぎダイナミクスの観察や、表面界面の希薄系の時間分解X線散乱計測、表面磁性の構造研究などが実現できると期待される。
 求める光源性能について、ユーザー側でも議論を深めていく必要がある。たとえば、標準アンジュレータだけでなく、準白色光利用のためのテーパー付アン ジュレータなどの光源もエネルギー分散型の表面回折では有望である。
 スペクトロスコピーのためには、高フラックス化が重要課題である。短バンチ化をすると、空間電荷効果のため光電子分光の分解能が悪くなる恐れがある。高 輝度化はマイクロビーム化につながる点では結構である。低エネルギー分光では6 GeV化に問題はない。軟X線は3 GeV程度の高輝度光源が理想的である。スペクトロスコピーの立場からは、高フラックス化、ピーク強度をできるだけ低減、マイクロビーム化が理想的であ り、低エミッタンスなフルフィル運転が良い。

2.4 実験ハッチ・検出器に関する意見、要望、質問
 ユーザーが直接利用する実験ハッチ、検出器に関していくつかの全体的な意見が見られた。SPRUCとしては、ユーザーの関心がこの部分に及んでいること を施設側に認識してもらうことを要望する。各研究会の意見の中から実験ハッチ・検出器に対する意見を以下に記載する。

 SPring-8では光源性能の優位性に対し、世界的に見て検出器の整備が遅れている。開発の問題ではなく、汎用的な良い検出器が入っていないことが問 題と思われる。高フラックス化によるピコ秒レベルの時間分解能測定は興味があるが、検出器が現状のままでは不安がある。光源のレベルアップに合わせた検出 器の開発をお願いしたい。CDI、XPCS(X線光子相関法)を対象としたピクセル分解能の高い検出器と高感度・高ダイナミックレンジ検出器(現在のIP やCCDに変わるもの。代表的なものとしてPilatus)の導入が望ましい。
 普段の実験では、DSS以降の光学系・光学素子や、検出器、ステージ等がサイエンスを決めている。Upgradeのあるなしにかかわらず、光源だけでな く、光学系や検出器の進歩により可能になる実験は少なからずあるため、これらについても年度毎の予算措置を含めて真剣に検討して欲しい。また、X線光学素 子に関し、継続性のある精力的な開発が必要である。

2.5 Upgradeに向けた今後のSPring-8における研究に関する意見
 いくつかの研究会から、Upgradeに向けて今後ユーザー、施設側が進めていくべきことについての意見があった。SPRUCとしても、これらの意見に は全体的に賛成である。このような意見について以下に記述する。

 光源のアップグレードを行うならば、実験装置側のアップグレードを先行して行かなければならないであろう。現SPring-8からSPring-8次期 計画までをつなぐ中期的な視点に立って、当該研究分野を発展・推進させていくことが重要であると認識している。次期計画の優れた光源性能を有効に利活用す るための、新しいサイエンスの萌芽となるような先端研究や次世代計測手法の開発を推進する必要がある。BL設置後の年数を考えるとすべてのBLがスクラッ プ&ビルドを考えなければならない時期に来ている。次期計画を見据えて、新しい技術開発を始めなければならない。そのためには、施設側とユーザーとの間 で,より具体的な次期計画の内容について意見交換をする機会を多く持つことが重要である。今後のビームライン、ハッチ及びステーション機器等の改廃は、次 期計画を見据えて行っていく必要がある。
 ユーザーは新ビームの特長を十分に活かせる測定装置系や測定法について検討を始めるべきである。SPring-8次期計画における光源特性の理解とその 特性を活かした測定系の選択が必要であり、利用者へ情報提供する機会を検討するべきである。光源の改造に併せて計測系の高度化と改良を同時進行させるべき である。Upgradeによるフラックスの増大というメリットを最大限に活用するためには検出器の多素子化(2次元化)をこれまで以上に進展させる必要が あり、そのための素子や回路系に関する検討を進めている。検出器の高性能化のスピードが早いので,ソフト,ハード両面での定期的なアップグレードが重要だ と思われる。光源性能の向上だけでなく、検出器の高効率化・高分解能化も重要である。特に高エネルギーX線に対しても高い検出効率をもつ2次元検出器や、 小ピクセルサイズの高い空間分解能をもつ2次元検出器の開発を推進して欲しい。また、解析方法の高度化と高速化をスーパーコンピューター等を活用して目指 すべきである。

2.6 次期計画についての研究分野の意見・要望等
 各研究会から次期計画で可能となる研究の検討や施設側への要望が多数見られた。SPRUCとしては、施設側にこれらのユーザーからの意見を幅広く受け 取っていただき、エンドステーションまで含めて次期計画を練り上げていくことを希望する。すなわち、現在の多くのSPring-8ユーザーの中から次期計 画に適した実験を選ぶのではなく、現状ユーザー全体の研究成果の質の向上を図るよう検討して欲しい。

 細いビーム(< 1 μm)で蛍光を高速に位置スキャン(1 μsec/position)できるような測定系(オーストラリアシンクロトロンで使用されているMaia detectorを利用したシステムのイメージ)があれば研究会にとって有用である。
 HAXPESで世界一の性能を追求して欲しい。そのためには、50 meVをどれだけ切れるかを目指す高分解能化、ハイスループットの測定、既存の8 keV測定に加え15 keVや20 keVの高エネルギー測定の実施の両立を目指して欲しい。軟X線領域では、3 GeVクラスの高輝度光源施設が優位であるため、顕微分光など、SPring-8ならではの特徴を出した研究を行う必要がある。
 光電子ホログラフィーや蛍光X線ホログラフィーの研究においては、高いフラックスが必要不可欠である。現状の装置性能ではmmサイズの単結晶やエピタキ シャルしか対象試料にならず、微小結晶しか得られない先端材料には応用しにくい。今後は装置に集光光学系を整備し、μmサイズの微小試料への応用を展開 し、ユーザーの拡大を狙っていく必要がある。さらに、SPring-8 Upgradeにより高フラックスのナノビームが容易に得られれば、ナノサイズ試料の測定が高効率で行えるようになり、応用試料の範囲が大幅に拡大する。 したがって、SPring-8の次期計画が実現されれば、我々の研究は大きく深化することができる。一方、パルスX線とレーザーポンププローブを組み合わ せた時分割ホログラム測定も念頭に置いており、このような点で次期計画には期待している。
 表面回折による実験研究の質が向上すると考えている。たとえば、次期計画のアンジュレータ光では、現状に比べ3桁の輝度向上が見込まれている。これによ り、表面回折の究極的な測定対象である表面一層からの回折散乱計測においても、ナノ集光ビーム、ナノ秒ビーム、コヒーレントビームが有効に活用できること が期待され、大いに歓迎する。
 現状よりコヒーレンスが向上し、1000倍も輝度が高いビームが使用可能になれば、研究会メンバーが主に扱っている有機物(含む生体物質)による膜試料 の測定に対しても、より高い空間分解能での迅速測定などが可能になるものと期待される。X線照射に対する試料安定性などの点も気になるが、この新ビームに は大いに期待したい。
 コンプトン散乱実験を行う場合のビーム強度について、SPring-8 IIの計画で提案されているパラメータを用いたシミュレーションの結果を検討した。高分解能コンプトン散乱測定(現行:〜120 keV)においても、磁気コンプトン散乱測定(現行:〜175 keV)においても、現在と同等か、それ以上のビーム強度が期待できる。ただし、磁気コンプトン散乱測定には円偏光X線が必要であるが、挿入光源により円 偏光を得るのか、高エネルギー用の円偏光素子を開発・利用するのか、検討の余地がある。最終的なビーム強度と円偏光度を考え合わせると、円偏光素子の方が 有利ではないかという意見もあった。
 フラックスの増大にともなって、高エネルギー(50 keV以上)の核種の利用が本格的になると予想されるので80 keVまでSi(111)で対応できるようなビームラインモノクロメータの改変が大変有効であり、これによって高エネルギー領域のX線利用に関して世界的 にも優位性を維持できる。フラックスの増大にともなって検出器に対する負荷が高くなるとともに、読み取れる情報も微細化されるので2次元APD検出器の開 発が重要となる。核共鳴散乱に必要な全ビームを利用した集光ビームが格段に小さくなると期待されるのでモノクロメータの振動対策が重要となる。横方向の発 散が小さくなり垂直軸のモノクロメータの利用も可能となるので、それに対応したシステムの構築が必要となる。
 次期計画のXAFS測定では、サブpsオーダーでの時間分解XAFS測定等の高時間分解・高空間分解計測が可能になるとのことであるが、検出器やデータ 解析機器についても、それに対応させて開発・整備をお願いしたい。
 小角散乱における高度化としては、ナノビームの使用による局所構造の解析や高速時分割測定(少なくともサブミリ秒でダイナミックレンジが4桁ある2次元 散乱パターンが測定できる)が強く望まれる。また、逆に超小角散乱測定による10-4nm-1オーダーの定量的散乱測定などもある。動的な側面からは薄膜 のXPCS測定が通常の測定の一環として行える様になると良い。高度化とは方向性が異なるが、通常の小角散乱測定が効率的な測定により、多くのサンプルを 処理できるようなシステムを構築する必要がある。
 現状の100倍のフラックスになると、高分子の場合はダメージの問題がさらに顕著になることが予想される。ダメージを受ける前に測定を実施するなどの工 夫が必要となる。現状ではナノ秒オーダーの測定が可能であるが、次期SPring-8 IIではピコ秒の高速測定が可能となるであろう。合成高分子の化学反応の追跡などには魅力的な効果である。高コヒーレンスになることで分解能が上がる訳で はない。フラックスは上がるが、その効果がユニバーサルに良いとは言えない。フォトンコリレーションの実験には有効であるかもしれないが、通常の小角散乱 ではスペックルが増えるためにかえってデメリットになる可能性がある。最近の検討では、50 nmの結晶でも完全性が高ければ大きな結晶と質的に変わらない回折データがとれることがわかってきた。ユニットセルで100個あれば十分とのことである。 大きい結晶ではかえって結晶が歪む場合があり、小さい方が良いデータを与える場合もある。ただし、高分子結晶のように第二種の乱れのある場合は難しいかも しれない。完全性の高い結晶さえ得られれば小さな結晶でも十分な解析ができるならば、高分子科学への大きな貢献が期待できる。
 SPring-8 II の光源は現行より高輝度で、マイクロビーム・ナノビーム化が容易なため、局所領域の構造評価に有用な光として期待できる。この光源を利用した散乱測定によ り、単繊維の階層構造やフィルムの断面構造の詳細を解明することができると思われる。SPring-8 II の光源は現行よりもコヒーレンスが上がるため、X線光子相関法(XPCS)にとっては有利である。現状よりも小さいスケールでの速い(階層構造をもった) 高分子特有のダイナミクスを追えるようになることが期待される。しかしながら、通常の小角散乱(SAXS)パターンにも試料の凹凸(傷など)の影響による スペックルが出現するため、SAXS パターンの解釈が困難になる可能性はある。輝度が上がると、X 線を照射することによる試料のダメージが深刻化する可能性が高い。例えば、時分割測定で得られた散乱データが試料の本質的な構造に由来するものかどうかの 判断が難しくなるのでは、との懸念は拭えない。
 感度の高い検出器がビームラインに整備されれば、照射時間を短縮できて試料のダメージも軽減できる。(PILATUS は良いがピクセル分解能が低いのが欠点である。)ポンプブローブ法が適用できる系ではピコ秒の時間分解能(パルス)が達成できるようだが、刺激に対して構 造変化のヒステリシスが大きいソフトマテリアルに対して本手法は有効とは言えない。1回の照射で検出した散乱データの質を上げることが重要であるので、技 術的検討をお願いしたい。薄膜で軽元素に対するX線異常散乱効果を利用した散乱法(GIASAXS)が可能になるのか知りたい。非常に平行性の高い SPring-8 II の光源は、イメージングやCT などのコントラスト及び分解能を向上させる。電子密度差の小さいソフトマテリアルの高コントラスト/高分解能イメージングに対する期待が(とりわけ企業 ユーザーで)高かった。
 Report p83- のSoft X-ray Beamline について:Harmonic Rejection のある汎用散乱測定BL(又はポート)(通常PEEM など専用装置が常設化されているので小角には使い難い)と偏光制御機能が薄膜・界面の研究には是非とも必要である。ALS で行われているようなC のケミカルシフトを利用した散乱から P またはCl(2 keV を超える領域)までのエネルギーをカバーする必要がある。これらの事柄について検討して欲しい。
 高エネルギーコヒーレンス光を用いてアモルファスのスペックル実験を行うことができればこれは大きな優位性となる。また現状のBL04B2は SPring-8 IIにおいて6 GeV運転した場合、フラックスの低下が著しいため、BL04B2での実験は現実的に不可能となる。
 Report 3.1にあるbiological systemに対する研究手法は固体物性または地球惑星科学にも同様のプランとして挙げたい。すなわち構造の階層(ユニットセル−ドメイン−マクロ)を見 られるようにしたい。現実にはマクロに見れば周期構造でない物質を電子顕微鏡的に構造解析する、いわゆる回折イメージングを行いたい。または広い強いビー ムで広い領域の観測も必要である。例えば、構造変化または相転移のダイナミックな測定、超高速現象の解明、パルスX線と衝撃による高圧発生との融合実験で ある(これはReport 4.に挙げられているXFELにも関連する)。
 PDF解析を用いたガラス・セラミックス材料の研究を推進できる挿入光源BLに専用実験ステーションを設置させていただきたい。
 先端的設備のみでなくコンベンショナルなXAFS、蛍光X線、粉末X線回折などの測定設備を確保して欲しい。高エネルギーでのCT測定を可能にして欲し い。
 偏向電磁石からの白色X線を利用した高温高圧実験など、Upgrade後に実施できなくなる可能性のある実験手法のユーザーも多く、そのアクティビティ も高い。研究会としてはUpgrade後および他の次世代光源で研究を進めることは最重要課題の一つであると考えているが、一方で従来の研究を次世代光源 での研究のために排除することは望まない。
 核共鳴散乱を利用した研究はほとんど強度が十分とは言えず、多くの場合、試料や測定条件に制限が付く。そのような状況で強度が一桁程度上がるのは非常に ありがたく、低エミッタンス化ともあいまって、以下のようなこれまでとは違うレベルのサイエンスの展開が期待できる。1) 酵素などの核共鳴非弾性散乱においては、試料のFe濃度が1桁低くても測定可能になり、測定対象が桁違いに広がる。2) 放射線源では利用しにくい高エネルギーの核種のメスバウアー分光が汎用的に利用できる。3) 集光光学系を利用した極端環境下の測定やマッピングのスケールが格段に上がる。4) 偏光を利用した研究およびS/Nの改善が実用段階になる。このように多くのメリットが享受でき、非常に大きな進展が期待できるUpgradeをぜひ強力に 進めていただきたいと考えている。
 核共鳴散乱の場合、バンチ当たりの電流値が測定に利用できる強度となるので、300 mAにしたときにバンチ当たりの電流値がどのようになるかが非常に重要である。バンチ当たりの電流値をできるだけ高くする工夫や努力を期待する。また SPring-8の軌道・強度の安定性はもとより、ビームダウンが少ないという運転の安定性はユーザーにとって非常に大きな魅力となっている。 Upgradeによってこの魅力が損なわれることがないよう期待する。
 原子分解能ホログラフィーの研究にも大きなメリットがあると考えている。一方、希土類元素のL線を用いた測定も試みられており、5 keV付近のX線も安定的に供給されると良い。
 タンパク質構造解析における有意性は微小結晶の回折データ測定、構造解明への貢献であり、不利な点は試料の放射線損傷である。
 多くの微量試料に対するスクリーニング測定に対しても有効である。Reportで、統計的処理が必要な多数のサンプル群の測定に肯定的に言及していると ころは歓迎できる。

2.7 上記以外のUpgrade に関する一般的な意見
2.7.1 Upgradeの時期と期間に対する意見と質問
 多くの研究会から、Upgradeの期間に対する意見が出された。全体の意見分布をみると、「1年間」の停止に関する否定的な意見は少なく、むしろ、 「時期の明確化」・「ユーザー実験が可能になるまでの期間の提示」を求めるものが多かった。SPRUCとして「1年間」停止期間に賛成するとともに、でき る限り早い「停止期間の決定」と「ユーザー実験の可能時期の提示」を要望する。この件に関して、各研究会から上がっていた意見、質問事項を以下に列挙す る。

2.7.1.1 時期と期間に対する意見
 計画の進捗状況・計画をopenにして欲しい。特に、リングの止まる時期は学生の教育プランに大きな影響があるので相当前に知らせて欲しい。 Upgrade後、できるだけ短いコミッショニングで実験研究を再開できるよう、光学系・測定装置についても弛まぬ開発・高度化を期待する。一定の停止期 間が生じることは受け入れざるをえないが、利用者が取るべき計画(Upgrade前後とUpgrade中)を早い段階で示して欲しい。停止期間は短いほど 良いが、今回の計画が実現するのであればそのメリットは大変大きく、1年程度停止するのも仕方ないものと考える。Upgradeの停止期間に関しては1年 を目処にして欲しい。装置の経年劣化対策として更新は必要と考える。光源だけなく、ビームラインや測定装置も含めて停止期間を検討すべきである。
 国内ではSPring-8でのみで実験可能な実験提案が多くある。停止期間がなるべく短くなることを期待する。改造期間中の国内、海外の放射光設備の確 保と運用、開放を希望する。海外を含め、他の(量子ビーム)施設での優先枠の確保など、政策的な配慮があるとデメリットが軽減されて良い。
 1研究会からだけであるが、1年間の停止に対して以下の否定的な意見も見られた。1年の停止はダメージが大きい。アップグレードはいずれ行う必要はある と思うが、全体の閉鎖は最小限にとどめ、ビームラインの閉鎖(長くても半年程度以下)を波状的に進めて行くようなバランスをとった方法でなければならな い。

2.7.1.2 時期と期間に対する質問
 光源系のUpgradeが停止期間を要するのは理解できるが、それに見合った効果が得られるのかどうかが、Reportからはよくわからないため説明が 欲しい。コンポ―ネントの入れ替え、コミッショニングが1年以内にできたとしても、そのまますぐに実験ができるとは思えない。実質的にはもっとロスの時間 は多いのではと心配になる。分光結晶は大丈夫か? 現在のハードウエアがそのままで使用できるのか?などの疑問点が多い。専用施設をもつ立場でみると、次 期計画に対してどんな準備が必要かを知りたい。予定されている1年という停止期間は光源のみか?計測装置の立ち上げが遅れると、非常に不利である。停止期 間は1年間となっているが、「ビームライン、ハッチ及びステーション機器等の改廃」の量・程度によって決まってくるはずである。Reportの目次にはそ のような項目がなくどこを読めば良いのかわからない。そもそも、ビームラインの改廃の基準や量、程度が不明(recycle of the existing IDsという項はある)であるため、停止期間をどのように試算したのかもわからない。

2.7.2 予算に対する意見
国家財政から予算措置の見込みがあるか、疑問である。少なくとも、他の科学予算を圧迫しないようにして欲しい。予算に関する記述があるがその目論みを知り たい。予算自体も、「ビームライン、ハッチ及びステーション機器等の改廃」の量・程度に決まってくるはずである。


3. 現行のSPring-8 に関する事項

3.1 ビームライン、ハッチ及びステーション機器等の改廃に関する意見
3.1.1 ビームラインの改廃についての意見・要望・質問
 ビームラインの改廃については、改廃をSPring-8全体と幅広い研究分野、産業分野、次期計画等を考えた上での事項と位置づけた全体的な意見と、個 別BLや個別研究会の要望の両者が見られた。SPRUCとしては、ビームライン改廃は、次期計画を含めた他の施設との棲み分け、様々な国の重要研究プロ ジェクトとの関連、全体としてのニーズなど個別研究にとらわれない広い視点で判断し進めていくべきだと考える。以下に、各研究会からの意見について記載す る。

3.1.1.1 全体的な意見
 SACLAや東北の放射光施設など、現在または近未来に予想される日本や世界における他の施設との競争や棲み分けを十分考慮する必要がある。特に SPring-8の特徴を最大限に活かせるような考え方が重要である。
 現在,質と量の両方向で重要な研究プロジェクトが進展している。改廃の議論はあって良いと思うが,プロジェクトの切り捨てにならない配慮が必要である。 全体として、ユーザーにとって利用しやすい方向への努力をしていただいているが、まだ敷居が高い面もある。ハードウェアおよびソフトウェアの更なる整備を 進めることでの対応を期待する。ビームラインごとにワーキンググループを作り、ユーザーの意見を取り入れたビームラインやステーション機器等の整備を進め る方法が良い。
 改廃により施設の活性化を図ることは必要である。まず各ビームラインの特徴と設置機器(含測定装置)及び研究成果を整理して公表するべきである。以前に 公表されている関係資料は陳腐化している。廃止ではなく統合化による整理を要する。ビームラインの改廃は、時代のニーズに合わせて積極的に行うべきであ る。ビームラインにおける実験の役割は現時点の費用対効果だけでなく、将来の産業の発展のための基盤研究の面を重視するべきである。
 実験手法ごとに区分けされたビームラインではなく、利用者の研究対象で必要となる複数の実験手法を1つのビームラインで提供する専用実験ステーションの 設置を要望する。複数の実験手法を迅速に切り替えることにより、1回のビームタイムでSPring-8の利用目的を達成できる設備が、利用者の立場から効 率的である。
 X線分光学における基本データの見直しが国際的に要請されている。SPring-8は最も高度化されたX線光源であり超精密化されたX線パラメータの標 準化に寄与するビームラインの新規構築を期待する。
 10-20 kVクラスのイオンビーム銃をエンドステーションに設置して欲しい。小さい試料に高密度の放射光を照射できること、輝度で2桁、フラックスで1桁増大する のはナノ材料を扱うユーザーにはうれしい。ビーム径が小さくなり、試料サイズが小さくなると、除振も必要になりノイズ対策にもなる。規模として無理かもし れないが、測定装置の土台の改良も要望したい。

3.1.1.2 全体的な質問
 改廃は必要なのはわかるが、意見もなにも情報がどこに開示されているのでしょうか?具体的なビームラインの廃止予定もしくは基準・指針など公開されてい るのでしょうか?ビームライン、ハッチの「改廃」に関して、なにか基準や手続き項目はあるのでしょうか?基準がないと、施設側あるいは力のあるグループに よる一方的な廃止が通ることにならないか、と憂慮します。Upgradeするならば、BLのスクラップ&ビルドは不可避と思われるが、どういう基準で決め るのか、明確でないと思われる。

3.1.1.3 分野、ビームラインに特化した意見・要望
 軟X線ビームラインの数が日本は大変少なく混み合っている。軟X線ビームラインの数を多くして余裕のある施設にして欲しい。余裕がないと近視眼的な研究 しかできなくなり、大きな成果には結びつかない。
 速いダイナミクスを追跡できる計測システムをどこかのビームラインに整備して欲しい。試料表面すれすれにX線を入射する微小角入射(Grazing- Incidence:GI)法では、ダイレクトビームが小さくなるほど照射面積が(フットプリント)が小さくなるため、GI 測定の光源としてナノビーム・マイクロビームは有効活用できる。
 高分子科学のSPring-8での活動は今後ますます活発化していくと考えられる。BL03XUを中心としてアクティビティを上げていくとともに、高分 子系が活動できるビームラインがさらに増えることが望ましい。どのようなビームラインや設備が必要か、本研究会でも継続して議論しユーザー意見として提案 していきたい。
 現状のBL04B2の光学系はエネルギーを連続的に変化させることができないため、実験手法にバリエーションを持たせられないのが問題であることから、 新しい実験ステーションを挿入光源のBLに設置したい。
 BL25SUに、10テスラ級の超伝導マグネットの導入が必要である。この装置は、試料温度が2~4 Kで安定して制御可能であることを希望する。所属機関からの試料運搬時の試料劣化を防止するため、スーツケースチャンバー(ミニイオンポンプ付き)に対応 できるシステムを導入したらどうか?一方、硬X線とUHVを組み合わせた実験があっても良いと感じるため、BL39XUの試料近くをUHVにできないか?
 教育のためのビームタイム利用という可能性があるなら,それに対応しうるビームラインの存在があっても良いと考える。結晶化学研究専用のBL を設置して欲しい。外部磁場をかけられるようなビームラインが欲しい。もっと汎用的な化学者用のBL が必要である。Materials science 研究のための小分子X線回折専用のBL が研究者にとって必要である。
文化財専用ビームラインを設けてほしい。文化財試し測定の機会を設けてほしい。希望の測定手法は蛍光X線、粉末回折、XAFS、赤外、μCT、CT、 SAXSなどである。

3.1.2 ステーション機器の改廃に関する意見
 ステーション機器に関しては、SPRUCが施設に要望するべきものと各研究会が個別にBL担当者やグループに要望すべきものが分かれる。全体的な意見と 個別意見に分類し、以下に示す。

3.1.2.1 全体的な意見
 従来どおり、各ビームライン(BL)に専用装置を設置して、BLの特色を持たせることは大事であるが、一方で、汎用性の高い実験機器は共通備品化してス トックし、より多くのユーザーがフレキシブルに利用できる環境を整えて欲しい。これはSPring-8次期計画を見据えた開発要素を含む実験を後押しする ことにもなる。回折実験では、2次元検出器や(精密)ゴニオメータ、試料冷却装置(ガス吹き付け装置)、計測回路などが考えられる。ステーション機器の充 実もBL担当者次第となっている。
 生体試料を扱う場合の付帯設備(顕微鏡、クライオ設備など)もユーザーと一緒に考えて欲しい。2次元検出器の感度の向上と大視野化、及びそれに対応でき る画像処理システムの整備を希望する。大型の実験装置を、SPring-8の管理区域の外でもかまわないので、保管していただけるスペースを確保して欲し い。SACLAと同期実験ができるように高速ビーム選択スリットの開発をして欲しい。
 現在の高分解能光電子分光装置などは維持して欲しい。

3.1.2.2 個別意見
 溶液界面反射・回折計がBL37XUハッチ内に常設されたことは、非常にありがたい。BL38B1 において結晶の1軸回転しかできないので,結晶方位を変更できることが望ましい。極低温領域でのX線回折測定ができると良いと思われる。また,不安定試料 ハンドリングの設備も欲しい。
 BL04B2の二軸回折計はランダム系の高エネルギーX線回折実験には最適化されているが、現在の水平走査型回折計ではX線異常散乱(AXS)実験を行 うことは不可能である。本研究会では、一つの回折計で液体用の水平走査、AXS実験用の垂直操作が行えるようにし、また回折計の回転中心上で、XAFSや X線吸収による密度を測定が行えるような装置開発を検討している。
 BL10XUの液体窒素冷却二結晶モノクロメータの導入に際して、立ち上げに必要なビームタイムを高圧物質科学研究会から合同申請することが提案され た。本件については現在検討中である。
 PILATUSの導入は、我々が扱っている界面のX線反射率測定に対しても画期的な革新をもたらした。今後も継続的にPILATUSを使用できる環境を 維持してもらいたい。
小角散乱においては、解析ソフトが不十分であり、開発ソフト開発にお金をかけるべきである。
 現在の構造解析ビームラインは結晶構造解析に十分なビームの強度・性能を持っているが,一般的なX 線回折装置同様のゴニオメータの使用が可能となれば,有機・有機金属化合物の構造解析により有用なものになる。これは各自が準備すべき物であると思うが, 微小サンプルを測定するので,使用料金をとる形でも良いから例えば微少電流を検出できるガルバノスタッドなどが利用可能となれば助かる。単結晶回折に限っ た話になるが,タンパク質か,無機物に偏った設計になっており,有機,無機化学者が使いにくい。化学者のサンプルは不安定なものが多く,それを扱える環境 を特にハッチの近くに設置して欲しい。
 先端的設備のみでなく使いやすい一般的なXAFS、蛍光X線、粉末X線回折などの測定設備を確保して欲しい。文化財ではμCTと共に大型試料(数cm以 上)が測定できるCTが欲しい。実験設備としては蛍光X線、XAFS、粉末回折、赤外、μCT、CT(大型試料対応)等が候補である。

3.2 現状のビームラインの情報公開に関する意見
 約半数は、十分との意見であった。一方、一部の研究会から現状の情報発信について特に情報の更新に関する改善の要求が上がっている。SPRUCとして、 これらの意見の中でも重要と思われるWeb情報の更新についての改善と学術分野を対象とした講習会および実験コーディネーターの充実を要望する。これらに 関する意見を以下に示す。

 ビームラインのHPやデータ管理などは、一括で対応できる組織であることが望ましい。現状では、情報公開がBL担当者に依存していると考えられる部分が 多々見られるためである。ビームラインで独自にWebサイトを持つ場合、SPring-8サイトの「ビームライン概要」からもリンクしていただきたい。ま た、ビームラインの最新の状況がわかるように,SPring-8シンポジウム,放射光学会等で発表された性能に関するポスターなど資料を全体のホームペー ジの「ビームライン一覧」にリンクし,また随時更新いただけると有り難い。各種測定機器及び測定技術の実例と限界値の一括例示や計測方法の標準化と解析方 法の提示があると利用にとって有用である。
 産業界・アカデミアの区別無く,どのような測定が可能か,自分のサンプルが測定に向いているのか(お試し実験を含め),講習のようなものがもっとあると 良い。産業界に対してはこれらの講習は手厚いが,学術利用に対しては手薄に感じられる。また、講習会などが関西に偏っている。学術利用は「つて」のある人 でないと敷居が高い。ビームライン,実験装置に関しての情報がまだまだ不足している。ユーザーの要望の中には,現在利用可能なビームラインがすでに存在す るものもあり、学術利用に対する実験コーディネーターの充実が望まれる。
 海外からのユーザーの意見として、SPring-8からの情報が日本語で書かれているものが多く、日本人以外からの利用に不便を感じており、ESRFな どにビームタイムを求めてしまう傾向がある。海外からのアクセスに対してコーディネーターを配置してより海外からの利用を円滑にできる様に取りはからうべ きである。

3.3 他の量子ビーム研究施設との連携に関する意見
 他施設との連携については、様々な施設に関連した意見が出されている。SPRUCにとって、全体的な意見に記載された、SPring-8内での同一研究 テーマについて複数ビームライン使用等のSPring-8利活用の高度化に対する要望は積極的に取り組んで頂きたいと要望する。

3.3.1 全体的な意見
 同じ研究テーマに対するアプローチとして違う手法を用いて実験をすることはよくあることであるが、SPring-8内だけでも違う手法を使用するという 理由ではビームラインをまたいだ課題は出せない(ビームライン毎に課題を出す必要がある)。一方が採択され、もう一方が不採択の場合研究そのものに支障が あるのだが、まずSPring-8内でそのようなことができるようにして欲しい。それすらできないようでは外部組織との連携は現実的でない。
 佐用地区に多種多様な量子ビームを誘致する。高エネルギーに加速した陽子、重粒子、さらに分子イオンなどの放射線科学、固体物性応用、生物・生体照射効 果の研究は、応用分野が広く、放射光研究と協調して展開し、地域開発に寄与できると考えられる。播磨学園都市の将来構想に取り込んで検討すべきである。
 他の施設との「連携」は、運営側では外部評価等の点で重要視することは理解できるが、実際の利益を受けるのは、ごく一部の利用者に限られる。このことを 充分留意して欲しい。また、具体的に量子ビームの相補利用によってどういうメリットがあるのかが明確でないので、成功例などを提示していただくと有り難 い。

3.3.2 中性子との連携
 J-PARC(CROSS)とSPring-8(JASRI)の併用という申請枠が最近できたようであるが、J-PARCの対象BLがCROSS BLだけでは不十分で全J-PARC BLを対象にできるようにJASRI側から働きかけていただきたい。
 原子分解能ホログラフィー研究会のアクティビティとして、中性子線ホログラフィーも含んでおり、J-PARC、原子炉等との連携は重要である。特に放射 光は、金属元素等の重い原子のイメージングに強いが、中性子は酸素等の軽い元素もイメージングできるために、相補的利用が可能となる。
 J-PARCでも反射率測定ビームラインの整備が進んでいる。中性子反射率による解析とX線反射率から得られるデータを複合的に解釈することにより、こ れまでは分かり得なかった情報が得られる可能性は十分ある。
 中性子はイメージング(ラジオグラフィー)の領域でも実験を行っているが、そもそも現状のSPring-8の空間分解能より相当悪い。他の領域はどうか わからないが、双方を利用して同じサンプルを撮影することはないかもしれない。見えるものはそれぞれ違うのでそれぞれを利用するのは意義あることだが、見 えているスケールが違いすぎるような気がする。
 J-PARC等の中性子施設との相補的利用に期待するところが大きい。他施設との連携研究に対する利用者への情報提供や支援制度の充実が必要である。
 本研究会の関連する分野ではおもにJ-PARCとの連携が開始されており、本合同研究会でも口頭発表で成果が報告された。2013A期のSPring- 8とJ-PARCの相補利用課題の募集についての意見は挙がらなかったが、今後この様なシステムを有効活用するために研究会からも情報発信をする必要があ る。
 中性子非弾性・準弾性散乱法と核共鳴非弾性・準弾性散乱法とは研究対象が近いものが多いが、それぞれの特徴や測定範囲は異なっており連携を進展させられ れば研究を大きく発展させられる可能性がある。そのために、実験の類似性や相補性をワークショップなどでお互いに紹介しあい、連携強化を計ることが有効で あると考えられる。
 X線だけでなく中性子でもトポグラフィが行われており、連携の可能性がある。中性子施設との連携研究は今後も活発に行っていくことが必要である。放射光 と中性子(SOFIA など)の相補利用と施設間の連携については、SBLではある程度の情報が共有されている。同様に、本研究会でも情報提供・交換が行えるとよい。

3.3.3 他の放射光施設(SACLAを含む)との連携
 東北放射光が実現すれば、東北放射光で低エネルギーをカバーして、SPring-8で高エネルギーをカバーするという新しい相補利用の展開が期待でき る。同じ研究テーマについて統一された課題審査を行い,その審査結果を元に,PF,Spring-8,中性子のマシンタイム配分がもらえることは理想的で ある。Photon Factory での量子収量法によるXAFS測定も順調に進んでいる。それぞれの施設のビームの特徴と測定法をうまく組み合わせ、使い分けている。PFなどと実験日程調 整の期日締め切りが重ならないように配慮いただきたい。
 放射光構造生物の場合,台湾放射光NSRRCがビームラインを設置しているし,現場レベルでも交流実績もある。TPSの運用開始も見据えて引き続き連携 することが大切である。
 SACLAの情報は,今はこういう実験が行われているという情報は入手できるが,自分たちのテーマをその装置にどのように整合させるかの検討を行うに は,情報が充分ではない。我々のグループではSACLAを使用しているユーザーが多いので、連携を進めて欲しい。SACLAは、高分子材料の研究でどのよ うに使えるのか動向を調査していく。

3.4 JASRI が利用者へ行う支援業務に関する意見
 多くの研究会から、現状に満足している回答と共に支援業務に対する人数不足が多く指摘されている。これには、人数増員だけでなく支援業務に携わる人材の 育成が含まれている場合が多い。SPRUCとして、支援業務に携わる人員の増員と、人材の育成をバランスよく進めていくことをお願いしたい。海外の他施設 の利用の多い研究会からは、海外施設との比較に基づく増員の意見も出されている。以下に人員増員について挙がっていた意見をまとめて示す。

 良いスタッフを増員してほしい。SACLAの稼働や現行のSPring-8施設の高度化(効率化)などで、利用ユーザーは増えているはずである。人的資 源とハッチ内の設備の更なる充実が切実な課題である。支援スタッフを増やすことは、若手の雇用を増やして放射光科学の隆盛につながることになるので考えて 欲しい。放射光科学における、若手雇用の創出や若手育成の観点からも、サポート人員の増員を考えてほしい。ビームライン Scientists/Researchers を増やし,学術ユーザーと共同研究する形を増やせば,所内研究スタッフにとって有益であり大学からのユーザーも増えると考えられる。施設メンバーとの共同 研究体制による実験支援・解析支援体制を整備して欲しい。
 ビームライン担当者の能力と努力の頼るのではなく,運営側は人を増やすよりいっそうの努力をすべきである。24 時間体制で実験を行っていることを考えると,サポート人数が少な過ぎる。個々人の支援業務には満足しているが,人数が足りていないと感じる。
 ビームライン担当者の負担軽減のために、技術スタッフをビームライン担当者に1名配置していただきたい。多くのBL担当者は、時間を問わずユーザーサ ポートをしてくれるが、それ以外は時間外、週末への対応がまだ不十分であると感じることがある。ビームタイムを週末に割り振るのであれば、サポートもなる べく平日と同じにしていただきたい。
 人材として専門家を育成してほしい。制御部門をもっと充実させ、ユーザーに近いビームライン制御を行えるようにした方が良いと思われる。現在、機器制御 システムは光学ハッチより上流の部分制御がほとんどであるため、下流に来ることを望む。現時点では、ハードを理解できるソフトウェア開発の人が少なすぎ る。
 同程度規模の他の第三世代放射光施設と比較して、ビームラインのサポート人員(研究、技術スタッフ共に)が少な過ぎる。海外の放射光施設並みに,1ス テーションを大学の一研究グループ並みとして,7〜8名のスタッフ配置ができるようになって欲しい。Ellettraなどは2週間くらいのゆったりとした ビームタイムが普通であり、支援スタッフもいて論文のサポートもしてくれるなど、ユーザーに優しい。

3.5 課題募集・採択に関する意見
 募集・採択、募集時期、実施時期に関する意見がいくつか挙がっている。SPRUCとして、これを施設側の今後の課題募集・採択への検討に役立てていただ くことを要望する。

3.5.1 課題募集・採択に関する意見
 スタッフのR&D課題とユーザー課題を同じ土俵で審査するのは難しい。ユーザー課題はR&D課題の上に成り立っているので、個人的には R&D課題を優先しがちであると感じる。R&D課題は一般課題とは別、もしくは希望審査分野や研究分野分類にR&D課題という種 類があっても良いと思われる。
 申請課題が不採択であった場合、どのような状況にあるのかをお教えいただければありがたい。惜しいところで不採択なのか、採択にははるかに遠い位置にあ るのかなどの結果を示し欲しい。申請利用課題不採択の場合の理由が間違っている、あるいは正確な論拠によっていないことがしばしばある。決定前に申請者に 問合せなどして申請理由の再確認をするべきである。審査員の選出法・任期などを検討するべきである。少し課題審査員の分野が偏り過ぎで、産業利用を見据え た課題に対する審査が厳しいと感じることがある。全体にユーザーが減っている。論文数、消耗品費などのハードルが高くなっている影響と思われる。できるだ け、マシンタイム時間を短くしても採択率を上げて欲しい。産業利用の方が全体的に使い勝手が良く、本来の目的に一致しないが一般課題の産業利用BLの利用 も入れて欲しい。
 ユーザータイムに文化財枠を設けてほしい。課題審査委員に文化財有識者を入れてほしい。できれば文化財分科を設けてほしい。教育分野の研究会のため, 「教育利用」というチャンネルでのビーム利用が可能になることを希望する。

3.5.2 課題募集時期に関する意見
 実験の進行具合に依存するので,可能であれば課題募集の時期をもう少し遅くして頂きたい。秋の課題申請は科研費シーズンと重なる。後ろにずらすことは難 しいと思うので,前にずらして欲しい。緊急課題の枠を広げて欲しい。自由度の高い申請枠が増えてほしい。申請締め切りの重ならない(申請期間が同期しな い)課題募集があると良い。

3.5.3 ビームタイム割り当てに関する意見
 課題募集の方式よりも,ビームタイムの割り当て方法を改善してほしい。試料の調製よりもはるかに前にビームタイムの割り当てが行われる現状では,タイム リーな研究が行えない。一般課題有効期間を1 年程度に延ばし,年間複数回の実験が可能になれば,よりまとまった成果が得られる。例えば米国ALS の課題審査のように,スコアの高い課題は2年間の有効期間で複数回実験を行うことが可能という制度であれば,複数回の放射光利用が必要な複雑な実験も計画 し易くなる。実績に合わせて選定して欲しい。募集回数は増やすことで調整側の負担が増えるため,実験時の選択可能な日程に幅がある方が良い。

3.6 その他
 宿泊施設、食事等ユーザー実験・研究と直接関係の無い部分の意見もいくつか見られた。
特に、ユーザーの増加により宿泊施設の確保が難しい状況になっていることを反映していると思われる。SPRUCとしてもこの点については、早急な改善を望 む。以下それらの意見を記す。

 宿泊棟の増築を優先して欲しい。予約がとれないという点で研究を阻害しており、現状光源系等よりも、利用者にとっては重要な問題である。宿泊棟の増築 を、研究設備と同様に真剣に検討して欲しい。宿舎の予約がとりにくい状況を改善して欲しい。現実的な対策(例えば,CASTの活用,相生駅までの深夜便) なども含めて検討して頂けると助かる。また、コイン式で良いのでリング棟または管理棟に,ユーザーが利用可能なシャワー室を設置していただきたい。
 食堂の終了時間以降の食事にかなり困っている。車がない場合にはほぼ解のない状況である。ケータリングの活用なども含めて、もっと柔軟な解決策(という か次善策)を検討して欲しい。食堂の営業時間,特に夕食の終了時刻を遅らせる方向で改善して欲しい。

3.6.1 事務的な支援業務に関する意見
 請求書類の発行を柔軟にして欲しい。日本の商慣行では、払う側の意向に基づいて発行されるのが通例であり、処理する体制がそれに対応したものとなってい るが、その点が理解されていない。いわゆる「お役所仕事」未満のレベルと思われる。
 薬品の持込など,規則が非常に厳格で柔軟に実験することが難しい。これは成果に直結する問題である。緊急持込薬品などは実験開始一日前に現地で確認する システムを設けて,柔軟に運営していただきたい。

3.6.2 節電を目的として試験的に行われた7 GeV運転におけるBL08Wへの影響
7 GeV運転実施時に行われたスタディの結果より、8 GeV運転に比べてビーム強度が1/3(115 keV 直線偏光)〜1/6(182 keV円偏光)程度に減少してしまうことから、高分解能コンプトン散乱測定も磁気コンプトン散乱測定も実行することが困難である。実際のユーザータイムに おいて7 GeV運転が実施される可能性があるのか、あるいは8 GeV運転のままユーザータイムを短縮するのか、今後の方針を明らかにしていただきたい。

3.6.3 SPRUCに対する要望
メール添付の研究会会員リストの送付ではなく、事務局サイトにアクセスすれば、情報のやり取りができるような研究会の連絡システムを早期に実現して欲し い。


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