SPring-8ユーザ協同体(SPRUC)研究会

研究会の名称

物質における高エネルギーX線分光研究会

ホームページ

http://elec11.kuicr.kyoto-u.ac.jp/spruc/index.html

研究会連絡先(問い合わせ窓口)
氏名: 寺澤 倫孝
住所: 〒678-1205兵庫県赤穂郡上郡光都3-1-2
電話 / FAX: 0791-58-2503/0791-58-2504
e-mail: terasawa (at) lasti.u-hyogo.ac.jp

研究会の概要、活動目標・目的

 原子の内殻軌道に電子線やX線を用いて空孔を生成する と、外殻軌道からその空孔に対して電子の遷移が起きた時に、始状態と終状態のエネルギー差が光子として放出される。この光子は原子に固有の波長をもち、特 性X線と呼ばれる。K殻に出来た空孔に対して遷移が起きた時に輻射される場合はK線、またL殻、M殻などの場合はL線、M線などと呼ばれる。一般に強度の 大きな特性X線のスペクトルとともに、サテライトと呼ばれる強度の小さなピークが現れる。このようなサテライトピークの多くは、X線等による多重電離など 複数の電子の遷移が関与する過程が原因であると考えられているが未だ原因のはっきりしないサテライトピークも少なくない。一般的には、サテライト線は spectator holeが存在する2重空孔状態と解釈されており、その発生機構に関する研究が進められてきた。特に内殻の2つ以上の電子が電離された状態をホローアトム (中空原子)といい、第3世代の放射光光源の出現で初めて実験的検証が行えるようになった。我々はこれらの多重励起や同一元素でも化学結合状態の異なる場 合のX線スペクトルシフト及びサテライト構造の変化など詳細データを得るために高分解能2結晶X線分光装置をSPring-8に設置し、関連研究を実施し てきた。今後SACLAを用いることにより、測定時間の短縮はもちろんのこと、励起エネルギーに対する電離断面積から新しい知見が得られ、さらには新しい 原子物理の展開が見いだされることを期待している。そのため、海外の実験、理論の研究者の参画も計画している。2重空孔状態のホローアトムを生成する過程 としてshake過程及びCoster-Kronig遷移が考えられる。このうち後者の遷移にはその発生の可否に原子番号依存性があり、閾値が存在する。 Coster-Kronig遷移が起こりうる組み合わせの数は、Coster-Kronig収率を変化させ、電子軌道の準位幅に影響を与える。このため閾 値付近の元素は特に興味をもたれてきた。さらに、Shake過程ではspectator holeが外殻に生成する過程ほど確率が高いのに対してCoster-Kronig過程はむしろ発生する条件を満たす限り、内殻電子の電離確率が高い。し かし、High-Z原子では系全体の電子数が多く計算が複雑になることもあり、理論・実験両面からの研究が不可欠である。それゆえHigh-ZでのX線ス ペクトルとサテライトに関する研究は、原子物理学における開拓的な研究として位置づけられる。したがって、第3世代の挿入光源を有するSPring-8で はこの高分解能分光測定の分野において先駆的研究を進めることが期待される。

 上記のSPring-8における研究成果も 評価され、“ Fundamental Parameter (FP) determination for improved XRF analysis and methodology development for reduced FP uncertainties ”と題する国際共同研究プロジェクト (Project of FP initiative) が2012年4月から開始されることになった。この開始にあたっては、2011年11月に契約書が作成され締結されている。ドイツ(物理工学連邦研究 所)、スイス(フライブルグ大学)、フランス(サクレイCEA-LNHB)、日本(京都大学化学研究所)の4研究機関がまとめ役となって、質量吸収係数、 遷移確率、コスタークローニッヒ遷移、発光スペクトルのエネルギー値、半値幅、蛍光収率、相対強度比、及び化合物の化学結合効果などの基本パラメーターの 精度の向上など、蛍光X線に寄与するデータベースの改良を行い、産業利用に供するデータファイルを整備することを目標にして進める5年〜7年間の計画であ る。日本では京大化研の伊藤グループが中心となり、とくにSPring-8を利用してBL14B1に設置した高分解能2結晶分光器による測定がこのプロ ジェクトに大きく寄与することが期待されている。したがって、本研究会の会員の積極的な参加をお願いしたい。


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