トップページEnglish

「SPRUC 2019 Young Scientist Award」の受賞者の決定について

SPring-8ユーザー協同体
 会長 水木 純一郎
SPRUC 2019 Young Scientist Award選考委員会
 委員長 尾嶋 正治
2019年度、募集しておりました「SPRUC 2019 Young Scientist Award(YSA)」には締切までに10件の応募がありSPRUC 2019 Young Scientist Award選考委員会において、厳正な審査をした結果、下記の2名の受賞者が決定しましたので公表します。
YSAは、SPring-8/SACLAの利用法や解析手法の開発に顕著な成果を創出した若手 研究者、あるいは測定手法や解析手法は確立された方法であったとしても、SPring-8/SACLAの特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞である。
このような観点から今回は10名の候補者の中から以下2名の受賞者を決定した。

受賞者:志甫谷 渉 / 東京大学大学院 理学系研究科
研究テーマ:エンドセリン受容体B型の構造機能活性相関の解明
受賞理由:GPCRは、細胞外のホルモンを受容することで細胞内のGタンパク質を活性化させる生体内のシグナル伝達を制御する受容体で、現在の治療薬の約30%が標的とする創薬ターゲットとして非常に重要な膜タンパク質である。志甫谷氏は、GPCRの一つであるエンドセリン受容体B型について、脂質メゾフェーズを利用してエンドセリン受容体B型熱安定変異体とそのリガンドであるエンドセリン1との複合体の結晶化に成功し 2.8Å分解能で世界初の完全長リガンドとGPCRとの複合体構造を決定した。その構造によりリガンドとの相互作用を詳細に解析するとともに、世界で初めてリガンドが結合していない状態のGPCRの構造解析にも成功し、両者の比較により内在性ペプチドリガンドによる受容体活性化機構を明らかにした。また、志甫谷氏はこれらの構造解析の過程で、SPring-8・BL32XU での自動データ収集システムZOOの開発にも積極的に協力している。治療薬ボセンタン結合型はZOOを利用して構造解析された最初の膜タンパク質あると同時に、自身の研究を通してSPring-8のマイクロフォーカスビームラインの利用を大幅に効率化するシステムの開発に大きく貢献した。 このように、志甫谷氏はGPCRの機能発現機構の研究という困難な課題に積極的に取組み、今回受容体活性化機構を解明するとともに、自動データ収集システムの開発に寄与する事で、SPring-8タンパク質結晶構造解析の成果創出に大きく貢献した。 

  • 研究報告はこちら:https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=37454
  • 受賞者:久保田 雄也 / 高輝度光科学研究センター
    研究テーマ:偏光変調型軟X線共鳴磁気光学効果による埋込層の磁性研究
    受賞理由:久保田雄也氏はSPring-8 BL07LSU において世界で唯一の分割型クロス・アンジュレータを用いた高速偏光スイッチング特性を活かして、新しい軟 X 線磁気光学実験法として共鳴磁気光学効果の偏光変調法を開発した。さらに、測定原理の理論構築をするとともに、楕円率(磁気円二色性)と旋光角(磁気光学カー回転角)の同時測定に成功し、世界で初めて軟 X線領域での複素誘電率テンソルの直接決定を実現したことは特筆すべき成果であり、SPring-8の特徴を十分に活かした成果として高く評価される。本手法によって、物質の精密な磁性研究が大きく発展する可能性が広がるだけでなく、物質の光学設計の基礎となる複素誘電率の決定法の確立は次世代 XFEL/放射光技術のための光学素子開発に重要な役割を果たすものと期待される。研究業績、放射光科学に対する本人の寄与も明確であり、Young Scientist Awardに相応しいと判断される。

  • 研究報告はこちら:https://user.spring8.or.jp/sp8info/?p=37492


  • Feedback