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「13th SPRUC Young Scientist Award」の受賞者の決定について

SPring-8ユーザー協同体
会長 藤原 明比古
13th SPRUC Young Scientist Award 選考委員会
委員長 中川 敦史

YSAは、SPring-8/SACLA利用法や解析手法の開発に顕著な成果を創出した若手研究者、あるいは測定手法や解析手法は確立された方法であったとしてもSPring-8/SACLAの特徴を活用し測定対象の分野にとって顕著な成果を創出した若手研究者に与えられる賞です。

このような観点からYSA選考委員会において厳正な審査を行った結果、下記の3名の受賞者を決定しました。

受賞者 高場 圭章(Kiyofumi Takaba)/ ウィーン大学
研究テーマ Two-way approach for sub-atomic molecular structure visualization with X-ray and electron crystallography
受賞理由 高場圭章氏は、放射光や自由電子レーザー、電子ビームなどの様々な量子ビーム測定技術を用いて、X線と電子線の特長を活かした相補的な利用法の開発を進めてきた。博士課程では、SPring-8 BL41XUの高エネルギー領域のX線を利用したデータ収集と低分子の結晶解析に開発された多極子展開法による電子密度解析により、緑色蛍光タンパク質(GFP)の0.78 Åの超高分解能構造解析を行い、水素原子の位置、詳細な水素結合の情報や精度の高い原子構造を基にした電荷密度解析などを通してGFPの発色機構を明らかにした。次に、SACLAにおいてタンパク質結晶の時分割構造解析のために開発されたシリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)技術を利用して、μmオーダーの大きさの低分子化合物の微小結晶から0.82Åの高分解能構造解析を行うことに成功するとともに、電子線回折法による構造解析も行い、それぞれのビームの違いによる電子構造の可視化の違いを明らかにした。また、電子線回折法では成功しなかった新規化合物の微小結晶の構造解析にも成功し、SACLAを利用したSFXがタンパク質結晶の時分割構造解析に留まらず、より広範囲に適用できる技術であることを示した。主として解析手法の開発を通して、SPring-8とSACLAという2つの異なる特徴を持つX線光源と、電子線というX線と相補的な量子ビーム技術を活用したサブ原子分解能の構造解析の技術を開発した点は高く評価でき、今後の発展が期待できる。これらの観点から、高場圭章氏が、13th SPRUC Young Scientist Awardに相応しいと判断される。
受賞者 橋川 祥史(Yoshifumi Hashikawa)/ 京都大学 化学研究所
研究テーマ 放射光振動分光によるナノ閉じ込め効果の検証
受賞理由 ナノ~サブナノサイズの空間に閉じこめられた分子は、バルク状態では見られない現象や性質(「ナノ閉じこめ効果」とも呼ばれる)が出現することが知られている。「ナノ閉じこめ効果」を利用して、多孔質材料を利用した二酸化炭素吸着剤の開発などが積極的に進められているが、さらなる開発のためには、ナノ空間における吸着分子の挙動を理解することが不可欠である。橋川祥史氏は、独自に開発した有機化学反応を用いて孔を持つ水酸化開口型フラーレンを合成し、細孔内に閉じこめられた化学種の物性や機能・分子挙動を、SPring-8 BL43IRを利用した放射光赤外分光に、単結晶X線結晶構造解析、理論化学計算を組み合わせることで明らかにした。赤外領域の放射光を活用して、ナノ空間に閉じこめられた分子に見られる新規な物性・機能を明らかにした点は、高輝度放射光を用いた新たな物性物理学を切り拓くものとして高く評価できる。本研究成果にさらに軟X線領域の測定を加えることで、今後電子状態に基づく解釈への展開も期待される。「ナノ閉じこめ効果」は材料科学から生物科学まで普遍的なものであり、さらに幅広い分野への波及効果があると期待される。このような観点から、橋川祥史氏は、13th SPRUC Young Scientist Awardに相応しいと判断される。
受賞者 西久保 匠(Takumi Nishikubo)/ 神奈川県立産業技術総合研究所
研究テーマ 放射光X線で探る負熱膨張材料の電子状態と局所構造変化
受賞理由 ナノテクノロジーの進展に伴って、熱膨張による位置決めのずれや異種材料接合界面の剥離の問題が顕在化しており、負の熱膨張を示す材料に注目が集まっている。西久保匠氏はこれまで一貫して負の熱膨張係数を持つ物質の開発研究を行ってきた。その中で、高温高圧下で新規の物質合成を行うとともに、粉末回折・圧力下粉末回折実験とリートベルト解析、全散乱データを用いたPDF解析による低温相と高温相の結晶構造、局所構造の決定、ブラッグコヒーレント回折イメージングといった先端的手法を利用した低温相と高温相のドメイン構造の観測に成功し、これら共存状態の可視化などにより昇温過程での体積変化(負の熱膨張)のメカニズムを明らかにした。さらにHAXPESを用いた電子状態解析も加えた多角的な研究を進めている。このように高輝度放射光の特長を活かし、様々な測定手法を駆使して、マルチスケールで研究を進めている点は高く評価できる。物質探索から精密構造解析、電子状態解析、機能性付与、さらには機能発現メカニズムの解明までを主体的に行える能力の高い研究者であり、西久保匠氏は、13th SPRUC Young Scientist Awardに相応しいと判断される。