SPring-8の放射光粉末回折で0.1重量%以下のアスベストの検出が可能に(プレスリリース)
- 公開日
- 2006年03月31日
- BL02B2(粉末結晶構造解析)
平成18年3月31日
財団法人高輝度光科学研究センター
独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター(吉良爽理事長、以下「JASRI」)と独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長、以下「理研」)は、SPring-8の放射光粉末回折(ビームラインBL02B2)を用いることにより、これまでアスベスト分析に使われてきた実験室系X線回折による定量下限(0.5〜1.0重量%(wt%))を二桁近く(0.02 wt%)向上できることを確認しました。 |
現在アスベストによる健康障害について社会的に大きな関心を集めており、建築物の吹付けアスベストの使用実態調査等を盛り込んだ「実態把握の強化」が進められています。建築物の建材中アスベストの定量分析は、各種前処理の後に位相差顕微鏡及び実験室のX線回折を併用して行われています。しかし、実験室系のX線回折の定量下限は0.5-1.0wt%程度であり、現在の規制値である1.0wt%に比して充分な検出能力があるとは言えず、測定時間も特に含有量が少ない場合は数十分を要しています。
一方、SPring-8では、物性に密接に関連した電子密度レベルでの構造研究や未知構造の決定にまで用いられるなど、粉末回折による高精度の測定が可能になってきました。そこで、このアスベストの分析にも利用できないかと考えて実験を行いました。
実際に使用した装置は、SPring-8の粉末回折ビームラインBL02B2に設置されている大型デバイシェラーカメラ*1)で、通常は内径が0.2 mm程度のガラス製キャピラリー*2)に粉末試料を封入して、二次元検出器であるイメージングプレート(IP)により透過配置で測定します。本研究で測定した分析用試料(株式会社ニッテクリサーチから提供)は、図1のようにろ紙上に吸引ろ過されています、そのため、図2のように5軸付き薄膜試料測定用アタッチメントを大型デバイシェラーカメラに取り付けて測定を行いました。この装置を用いて、ろ紙上のアスベスト試料面に対する放射光の入射角度を精密に制御することにより、最も効率の良い回折強度を得ることができます。
実際に測定した試料は、現在アスベストの中で唯一製造・使用が認められているクリソタイル(化学式:Mg3(Si2O5)(OH)4)です。本研究では、実際に使われている吹付け材の中にクリソタイルが0.1, 0.3, 0.7wt%含まれるそれぞれの試料について上記の方法により測定を行いました。その結果から、クリソタイルの最も強い回折ピーク付近を拡大して図3に示しました。この図から、吹付け材に含まれる0.1wt%のクリソタイルを僅か1分の測定時間で検出できることが明らかになりました。
さらに、より微量のアスベストの検出の可能性を探るために単体のクリソタイル0.02mgを同様の手法により測定時間を変えながら測定を行いました。その結果、図4に示したように5秒で検出することに成功し、また、1分で十分な統計精度のデータが得られることがわかりました。通常のアスベスト分析において、分析用吹付け試料は100mgに調製されます。つまり、今回検出に成功した0.02mgは、0.02wt%のクリソタイルを含有した吹付け材に含まれる量に相当しますので、図4の結果は0.02wt%に相当する極微量のアスベストが5秒で検出可能であることを示しています。
今回の実験で、SPring-8の放射光を用いることによりアスベストの検出限界が従来のX線回折と比較して二桁近くも向上し、X線回折測定自体の所要時間も短縮できることがわかりました。アスベストの分析に限らず、SPring-8のこのような優れた能力をさらに有効に使うためには、例えば試料交換やイメージングプレートの読み取り交換に要している時間(数十分かかっている)を短縮する、といった努力が必要となります。今後はSPring-8の高速・高精度という特徴を活かしながら、定型的な分析を効率よくこなしていく分析技術の確立を目指したいと考えています。
*1) 大型デバイシェラーカメラ
円筒形をしたフィルムの中心軸上に細い棒状の試料を置き、X線の回折像を撮影する装置をデバイシェラーカメラと呼ぶ。BL02B2に設置されているカメラはこの大型のものである。
*2) ガラス製キャピラリー
ガラス製の毛細管のこと。通常の粉末X線回折ではキャピラリーの中に試料を入れて分析するが、今回はキャピラリーを使わない方法で分析を行った。
<参考資料>
<本研究に関する問い合わせ先> 財団法人高輝度光科学研究センター <SPring-8についての問い合わせ先> <理化学研究所についての問い合わせ先> |
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