ヒト由来ギャップ結合チャネルの立体構造を世界で初めて解明 - 難聴や不整脈などの病気治療の戦略の確立に役立つと期待 -(プレスリリース)
- 公開日
- 2009年04月02日
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
2009年4月2日
兵庫県立大学
大阪大学
兵庫県立大学生命科学研究科ピコバイオロジー研究所の月原冨武特任教授の研究グループは、大型放射光施設SPring-8の大阪大学蛋白質研究所専用ビームラインの生体超分子構造解析ビームラインBL44XUを用いて、世界で初めてヒト由来ギャップ結合チャネル※1の立体構造を解明することに成功しました。なお、本研究の成果は、4月2日発行の英国雑誌「Nature」に掲載されます。 (論文) |
研究の背景及び成果
高等な生物の個体を構成する器官は多数の細胞が集まってできており、それぞれの器官では隣あう細胞が緊密に連携を取りながら活動しています。たとえば、心臓の拍動はこれを形成する心筋細胞の活動がそろってはじめて行われますし、内耳等の器官においても、それを構成する同種あるいは異種の細胞はその活動を協調させることによって正常にはたらきます。こうした細胞間の連携・協調に深く関与しているのがギャップ結合と呼ばれる特殊な膜領域であり、そこには数多くのギャップ結合チャネルが集合しています。
その発見からすでに数十年が経過しているにも関わらず、ギャップ結合チャネルの詳細な構造はいまだ明らかにされていませんでした。兵庫県立大学生命理学研究科ピコバイオロジー研究所の月原冨武特任教授らはこのチャネルの構造を大型放射光施設SPring-8の生体超分子複合体構造解析ビームラインBL44XUを利用したX線結晶構造解析法※2によって決定しました。
構造決定されたギャップ結合チャネルは2つの隣接する細胞膜※3を貫いた構造を保っており、その全体構造は和楽器の鼓に似た形をしていました(図1)。分子の長軸に沿って真ん中に最小径約1.4nmの長い空洞がありました。この空洞内を小さな分子やイオンが透過できるようになっています。空洞に面したアミノ酸残基とその位置が特定できたことで、チャネルの透過性に関する研究・考察が飛躍的に進むものと期待されます(図2)。
今回、構造決定したのはチャネルが開いた時の構造です。平成19年に京都大学の研究グループが低分解能の電子線結晶構造解析※4によりチャネルが閉じた状態の構造を報告しています。閉じた状態ではチャネルの孔の上部に大きな構造体が見られ、これが物理的にチャネルをブロックしているように見えます。一方、今回解かれた開いた状態ではチャネル孔の上部に短い6つのαヘリックスからなる漏斗状の構造が確認され、チャネルの透過通路にはこれをふさぐようなものは見られませんでした(図3)。これら2つの構造をあわせて考察することでギャップ結合チャネルの開閉機構にはこの漏斗状の構造が大きく関与していることが強く示唆されました。
ギャップ結合チャネルを構成するコネキシンという蛋白質はこれまでに人間で20種類以上が見つかっており、どれも類似した構造を持っていると考えられています。また、その変異体の多くは難聴や不整脈等の病気の原因となっていることがよく知られています。今回決定した原子構造から、それらの変異体がチャネルの構造や機能に及ぼす影響が明らかになり、ギャップ結合チャネルの遺伝的変異と病気との関係をその立体構造に基づいて解明することができました。今後、病気治療の戦略の確立に役立てられることが期待されます。
《参考資料》
開状態ではチャネルの孔を塞ぐような構造体は見られない。一方、閉状態ではチャネルの孔の上部に大きな塊が見られる。下図はA. Oshima, et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2007)より引用。
《用語解説》
※1 ギャップ結合チャネル
細胞と細胞とを直接連絡する細胞間チャネル。分子量約1000以下の低分子およびイオンをその濃度勾配に従って透過させることができる。
※2 X線結晶構造解析法
物質を3次元的に規則正しく並べることで結晶を作り、その結晶にX線を照射し、回折パターンとその強度から物質の構造を解析する方法。蛋白質の構造決定では多く用いられている。
※3 細胞膜
細胞内部を外部から隔てているリン脂質からなる膜。一枚の細胞膜はリン脂質の疎水性部分が向き合った2重膜状の構造をしている。
※4 電子線結晶構造解析
物質を2次元状に規則正しく並べ、これに電子線を照射し、回折パターンと強度から物質の構造を解析する方法。膜蛋白質の構造解析によく用いられる。
(問い合わせ先) 大阪大学 蛋白質研究所 特任研究員 (SPring-8に関すること) |
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