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2000年01月26日
日本原子力研究所と高輝度光科学研究センターは、大型放射光施設(SPring-8)の原研材料科学IビームラインBL14B1に高温高圧発生装置を組み合わせたX線回折実験により、圧力を変化させたときに起こる液体リンの構造の急激な変化を、世界で初めてその場観察することに成功した。
平成12年1月26日
日本原子力研究所
(財)高輝度光科学研究センター
日本原子力研究所(理事長 松浦祥次郎)と(財)高輝度光科学研究センター(理事長 伊原義徳)は、大型放射光施設(SPring-8)の原研材料科学IビームラインBL14B1に高温高圧発生装置を組み合わせたX線回折実験により、圧力を変化させたときに起こる液体リンの構造の急激な変化を、世界で初めてその場観察することに成功した。 結晶固体(原子が規則正しく並んでできた固体)では、温度や圧力の変化によって原子の並びかたが急激に変わり、異なった密度を持つ別の構造へと変化する現象(一次の相転移)はよく知られている。一方、純粋な液体での一次の相転移、つまり同じ物質でありながら、原子の並びかたと密度の異なりではっきりと区別できる2種類の液体間の相転移は非常にまれである。しかし、最近、この種の転移が過冷却水、液体炭素を含むいくつかの物質で起こることを間接的に示す理論的、実験的研究が報告されている。 そこで、この種の転移の直接観察を目指し、構造変化が期待される液体リンのX線回折実験を高圧で行った。その結果、約1万気圧以下の圧力では、既に知られているとおり、リン原子4個からなる正4面体型の分子が乱雑に並んでいる様子が観察されたが、それ以上の高圧では、強く結ばれたリン原子のネットワークが長く延びた重合体になっていると考えられる観察結果が得られた。さらに加圧あるいは減圧によって、この二つの異なった液体構造間の変化が、数百気圧以下という非常に狭い圧力範囲で起こり、速いときには数分で変化が終わってしまうことや、変化の途中では二つの構造が共存していることも観察された。この変化は一次の相転移であることを強く支持している。 この結果は、急激な構造の変化が純粋な液体で起こることをその場観察によって初めて示したものであり、物理や化学などの基礎科学の発展に寄与するだけでなく、地球内部のマグマの研究や高温高圧下での新たな物質合成の研究にも結びつくものと期待される。本成果は1月13日に発行された英国の科学誌「Nature」に掲載された。
(論文)
"A first-order liquid-liquid phase transition in phosphorus"
Yoshinori Katayama, Takeshi Mizutani, Wataru Utsumi, Osamu Shimomura, Masaaki Yamakata and Ken-ichi Funakoshi
Nature 403, 170-173 (2000), published online 13 January 2000
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《参考資料》
図1 液体リンの低圧および高圧での原子の並び方を表した模式図
丸(球)が原子、線が原子の間の強い結合を表す
図2 液体リンの構造が変化していく様子を表したX線回折パターン
(Y. Katayama, T. Mizutani, W. Utsumi, O. Shimomura, M. Yamakata and K. Funakoshi,Nature 403, 170-173 (2000))
図3 SPring-8 のビームラインマップ
図4 高温高圧発生装置