大型放射光施設 SPring-8

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SPring-8 軟X線放射光利用で世界で初めて固体の真のバルク電子状態の高分解能光電子分光に成功(プレスリリース)

公開日
2000年01月26日
  • BL25SU(軟X線固体分光)
大阪大学大学院基礎工学研究科物性物理科学分野の菅滋正教授と関山明助手、日本原子力研究所関西研究所斎藤祐児研究員および高輝度光科学研究センターは、大型放射光施設( SPring-8)の軟X線個体分光ビームラインBL25SUに整備された世超高分解能軟X線分光器と高分解能光電子分光実験装置を用いて、固体(CeRu2Si2 及び CeRu2)の真のバルク電子状態を解明するのに世界で初めて成功した。

平成12年1月26日
大阪大学大学院基礎工学研究科
日本原子力研究所
(財)高輝度光科学研究センター

大阪大学大学院基礎工学研究科物性物理科学分野の菅滋正教授と関山明助手、日本原子力研究所関西研究所斎藤祐児研究員および(財)高輝度光科学研究センターは、大型放射光施設( SPring-8)の共用ビームラインの一つ軟X線個体分光ビームラインBL25SUに整備された世界トップの性能を実現した超高分解能軟X線分光器と高分解能光電子分光実験装置を用いて、現在注目を集めている、固体(CeRu2Si2 及び CeRu2)の真のバルク電子状態を解明するのに世界で初めて成功しました。
 光電子分光とは物質に高エネルギーの光を入れた時に出てくる外部光電子のエネルギーを測定することによって、物質の電子状態を調べる手法です。そのために高温超伝導体を始めとして多くの物質で研究が進んでいます。しかし、これまで全世界に普及している装置では、高いエネルギーで分解能が足りなかったり、あるいは、低いエネルギーで分解能は充分発揮できるものの固体の表面しか観測できないというとても大きな制約がありました。多くの固体物質では表面と内部(バルク)の電子状態が大きく異なっているために、最も知りたい固体内部の情報が得られないという欠点がありました。
 新しい方法では1キロ電子ボルト付近でこれまでのほぼ10倍のエネルギー分解能での測定が可能になりました。そのため固体の表面ではなく、バルクの真の電子状態を探れるという特徴を持っています。これまでの光電子分光の弱点をほとんど克服できるこの方法は、特に現在世界的に注目を集めている新しい希土類化合物や、超伝導体、あるいは、新奇な物理的性質を示す種々の遷移金属化合物など、いわゆる強相関電子系の電子状態の研究に画期的飛躍をもたらすであろうと期待されています。
 また、SPring-8はこれまで高輝度のX線光源として注目され成果を上げて来ましたが、高輝度軟X線光源としても世界最強であることが証明されたと言えましょう。

 本研究成果は英国の科学雑誌「Nature」に平成12年1月27日発表されました。

(論文)
"Probing bulk states of correlated electron systems by high-resolution resonance photoemission"
(日本語訳:高分解能共鳴光電子分光による相関電子系のバルク状態の探査)
A. Sekiyama, T. Iwasaki, K. Matsuda, Y. Saitoh, Y. Onuki and S. Suga
Nature 403, 396-398 (2000), published online 27 January 2000.

 

《参考資料》

図1 光電子分光の原理
図1 光電子分光の原理

 


 

図2 SPring-8 BL25SU 高分解能光電子分光測定装置
図2 SPring-8 BL25SU 高分解能光電子分光測定装置

SPring-8のBL25SUビームラインに設置された高分解能光電子分光測定装置

 


 

図3 通常の金属、超伝導体、絶縁体(半導体)のフェルミ準位近傍の光電子スペクトルの模式図
図3 通常の金属、超伝導体、絶縁体(半導体)のフェルミ準位近傍の光電子スペクトルの模式図

フェルミ準位(EF)近傍の光電子スペクトルを高分解能測定することで、絶縁体のエネルギーギャップや超伝導ギャップを直接観測することが可能。しかし、従来の低エネルギー励起光を用いた測定では物質表面の電子状態を観測していた可能性が高い。今回の研究では、SPring-8の高エネルギー軟X線を用いた高分解能測定に世界で初めて成功した。
これは物質の「真の」ギャップの直接観測の可能性を意味する

 


 

図4 放射光軟X線による物質内部の観測
図4 放射光軟X線による物質内部の観測

 


 

図5
図5 強相関電子系の重い電子系 CeRu2Si2 及び
値数揺動系 CeRu2 の高分解能共鳴光電子スペクトル

上段(赤丸):今回世界で初めて高分解能測定された Ce 3d-4f 共鳴スペクトルで、物質内部(バルク)の電子状態を強く反映している。
下段(青丸):従来の測定法による Ce 4d-4f 共鳴スペクトル。今回の研究でこれが主に物質表面の電子状態を反映していることが確認された。

 


 

図6
図6 CeRu2Si2 及び CeRu2 のフェルミ準位近傍の
高分解能共鳴光電子スペクトル

今回世界で初めて高分解能測定された 3d-4f 共鳴スペクトルでは、物質内部(バルク)の電子状態が物質の種類によって大きく異なることが理解される。
一方、従来の測定法による 4d-4f 共鳴スペクトルでは、物質の種類よって大きく異なることはなく定性的に類似した構造をしており、バルクの電子状態は分からない。

 


 

<本研究に関する問い合わせ先>
(研究関連事項)
大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授 菅 滋正
E-mail:suga@mp.es.osaka-u.ac.jp
Tel/Fax:06-6850-2845

大阪大学大学院 基礎工学研究科 助手 関山 明
E-mail:sekiyama@mp.es.osaka-u.ac.jp
Tel:06-6850-6422

(施設関連事項)
日本原子力研究所 関西研究所 斎藤 祐児
E-mail:ysaitoh@spring8.or.jp
Tel:0791-58-0831(内線 3818)

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター 広報室
E-mail:kouhou@spring8.or.jp
Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786