- 公開日
-
2000年03月14日
SPring-8の医学・イメージングIビームラインBL20B2から発生される放射光を用いたX線CT装置を使って、その成因に関して未だ明かにされていないコンドリュールの三次元構造を精密に調べ、内部で平板上のオリビンの結晶が平行に並んでいる事が始めて確かめられた。
平成12年3月14日
大阪大学
原始太陽系星雲の情報を有すると考えられる、始原的な隕石のコンドライトには、珪酸塩を主成分とするコンドリュールと呼ばれる直径数mm以下の球状物質が特徴的に含まれます。コンドリュールはその形態と構成物質から、宇宙空間で高温に加熱された珪酸塩液滴の急冷物であると考えられていますが、その成因に関しては未だ明かにされていないことが多くあります。 この研究ではSPring-8の医学・イメージングIビームラインBL20B2から発生される放射光を用いたX線CT装置を使って、コンドリュールの三次元構造を精密に調べました(図1参考)。三次元構造の解析から、薄片(隕石試料を薄くスライスしたもの)を用いた従来の研究で得られてきた二次元での情報とは異なる、コンドリュール形成の謎に迫る新たな情報を引き出すことができると考えています。また、貴重な地球外試料である隕石を非破壊で観察できるのも、この手法の大きな特徴です。放射光を用いることで、市販のX線CT装置に比較して、空間分解能(現在は13μm程度)などデータの質が飛躍的に向上し、より精密な情報を得ることが可能となりました。
実験はコンドリュールの一種である「バードオリビンコンドリュール(以下BOコンドリュール)」と言われる特徴的な構造を持つコンドリュールを用いて行いました。「BOコンドリュール」の特徴は、図2に示すようにコンドリュールの内部で、平板上のオリビンの結晶が平行に並んでいる事です。このことは薄片による2次元観察から予想されていましたが、今回の研究によって始めて確かめられました。実験および解析の結果以下のことがわかりました。
(1)コンドリュールは真球ではなく、やや押しつぶされた扁平な格好をしており、そのアスペクト(短軸長軸)比は0.8~0.9程度。 (2)オリビン結晶の板の方向は短軸に対してほぼ垂直。この結果を踏まえて、以前に作成した「BOコンドリュール」の薄片をもう一度見なおした所、大体のコンドリュールが上記の二つの条件を満たしていました。 これらのことから、「ほとんどのコンドリュールはその形成時に回転運動をしていた」という仮説が立てられます。この仮説が正しいとすると、コンドリュールメルトの粘性や表面張力からその回転速度を見積もることができます。これによると、コンドリュールは今から46億年ほど前、毎秒約100回転しながら原始太陽系星雲中を漂っていたということになります。これはコンドリュールの生成過程に大きな制約を与える事になるかもしれません。
本研究成果は、2000年3月13日~17日に米国で開催される月惑星科学会議(31st Lunar and Planetary Science Conference, LPSC XXXI)で発表される。
|
図1 「バードオリビンコンドリュール」の三次元像(擬似カラー)
左の方にコンドリュール同士の衝突で出来たと考えられるマイクロクレーターがある。
図2 「バードオリビンコンドリュール」のCT像
青は吸収の低い所、赤は吸収の大きな所。左上から右下に走っているスジ状のものがオリビン結晶の板の断面像である。図の一辺の長さは1.2mm程度である。