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2003年11月07日
大阪大学蛋白質研究所・栗栖源嗣助手らは、米国パーデュー大学のウイリアム・クレーマー(William A. Cramer)教授等と共同で、X線結晶解析法によって光合成の一部を担う巨大蛋白質分子チトクロムb6f複合体の立体構造を解析し、光合成電子伝達を行う蛋白質群の構造の全体像を明らかにした。
平成15年11月7日
大阪大学蛋白質研究所
米国パーデュー大学
大阪大学蛋白質研究所・栗栖源嗣助手らは、米国パーデュー大学のウイリアム・クレーマー(William A. Cramer)教授等と共同で光合成の一部を担う巨大蛋白質分子チトクロムb6f 複合体の立体構造をX線結晶解析法により解析し、その詳細な構造が米科学誌サイエンスに報告されました。 光合成は光エネルギーを化学エネルギーに変える電子伝達部と、その化学エネルギーを利用して二酸化炭素を取り込む部分とに分かれています。光合成電子伝達と呼ばれる電子伝達部は主に3種の巨大蛋白質複合体(光化学系I及びII、チトクロムb6f 複合体)により構成されていますが、今回サイエンス誌にその詳細な構造が報告されるチトクロムb6f 複合体は、その中で唯一膜貫通部分の立体構造がわかっていませんでした。この複合体蛋白質は膜中に埋まった状態で存在する水に溶けない膜蛋白質であり、16種の蛋白質、色素や鉄などの金属原子によって構成される複雑な複合体でもあるため、構造研究が非常に困難でした。 b6f 複合体の生化学的役割は光化学系IIにより光還元された脂溶性化合物(キノン)から電子伝達蛋白質(プラストシアニン)へと電子を伝達すると共に、水素イオンを輸送するポンプの役目も担っています。今回、米国大型放射光施設(APS)および大型放射光施設(SPring-8)の強力X線を利用することにより、b6f 複合体の3.0Å分解能での構造解析に成功しました。2量体あたり26本の膜貫通ヘリックスからなる水に溶けない膜貫通領域に、予想されていなかった新しいヘム鉄や色素分子(クロロフィル、βカロテン)など補欠分子族が内包されていることが判り、論文中では新しく見つかった補欠分子族の生理的な役割や、分子内・分子間で考えられる電子伝達反応を報告しています。今回の研究により、光合成電子伝達を行う蛋白質群の構造の全体像が明らかになりました。
実験に使用したビームライン: APS BL14BMC,BL19ID SPring-8 BL44XU 阪大蛋白研ビームライン
この研究成果は、米国の学術誌Science(11月7日号)に掲載されました。 (原題)Structure of the Cytochrome b6f Complex of Oxygenic Photosynthesis: Tuning the Cavity G. Kurisu, H. Zhang, J. L. Smith and W. A. Cramer Science, 302, 1009-1014 (2003)
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