大型放射光施設 SPring-8

コンテンツへジャンプする
» ENGLISH
パーソナルツール
 

熱電変換材料Zn4Sb3における、ガラス状に存在するZn原子の発見- ガラスの熱伝導と結晶の電気伝導をあわせ持つ、高性能熱電変換材料の構造解明 -(プレスリリース)

公開日
2004年06月28日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)
カリフォルニア工科大学のJeffrey Snyder博士グループ、名古屋大学の西堀 英治博士グループ、オーフス大学のBo Brummerstedt Iversen教授グループは、大型放射光施設(SPring-8)の放射光X線を利用して、熱電変換材料 Zn4Sb3の構造を解析することにより、Zn4Sb3のZn原子のうち、約10%がガラスのように無秩序に存在していることを発見した。

平成16年6月28日
カリフォルニア工科大学
名古屋大学
オーフス大学
(財)高輝度光科学研究センター

カリフォルニア工科大学のJeffrey Snyder博士グループ、名古屋大学の西堀 英治博士グループ、オーフス大学のBo Brummerstedt Iversen教授グループは、熱を電気に変換する熱電変換材料 Zn4Sb3の構造を、大型放射光施設(SPring-8)の放射光X線を利用して解析することにより、Zn4Sb3のZn原子のうち、約10%がガラスのように無秩序に存在していることを発見した。
 今回の、結晶とガラスの両方の性質を併せ持つZn4Sb3の構造の解明は、この物質の低い熱伝導度と高い電気伝導度に起因する高い熱電性能の発現機構を解明するだけでなく、新たな熱電材料開発にも大きく寄与することとなる。
 この成果は英国科学雑誌 Nature Materials 8月号で発表される。それに先立ち、6月27日発行の英国科学雑誌Nature Materialsオンライン版に掲載される。

(論文)
"Disordered zinc in Zn4Sb3 with phonon-glass and electron-crystal thermoelectric properties"「フォノン1)グラスとエレクトロンクリスタルの熱電特性を持つ Zn4Sb3における無秩序なZn原子」)
G. JEFFREY SNYDER, MOGENS CHRISTENSEN, EIJI NISHIBORI, THIERRY CAILLAT and BO BRUMMERSTEDT IVERSEN

エネルギー利用の省力化、効率化が求められる今日において、廃熱から電気を得ることができる熱電変換材料は、エネルギー問題の解決法の一つとして注目されており、既に外部からエネルギーを得ることが困難な人工衛星の動力源、人体の温度を利用した腕時計などに熱電変換材料の利用が始められている。熱電変換材料の特性は、zT=ασT/κ(ここで、Tは温度、αはゼーベック係数2)、σは電気伝導度、κは熱伝導度)で示される性能指数zT3)の大きさによって決定されるが、性能の高い熱電変換材料には、高い電気伝導度と低い熱伝導度が要求されることになる。一般に、結晶性の材料は、ガラスなどの非結晶質の材料と比較して、電気伝導度、熱伝導度が共に高いため、性能の高い熱電材料の開発においては、結晶のような高い電気伝導度とガラスのような低い熱伝導を併せ持つ物質の探索が進められて来ている。
 1997年にZn4Sb3が、150℃から400℃の領域で、熱電変換材料として高い熱電性能指数zTを持つことが報告された。この物質の400℃における熱電性能指数zTは、既に実用化されている物質の中で最も高い性能指数を示す物質(AgSbTe)0.15(GeTe)0.85(TAGS)よりも高い値であり、この高い性能指数は、他の熱電変換材料と比較して著しく低いZn4Sb3の熱伝導度に起因していた (図1)ことから、高性能熱電変換材料の開発の指針として、Zn4Sb3の持つ低い熱伝導度の原因の解明が望まれていた。
 今回、Zn4Sb3のX線回折データを、大型放射光施設SPring-8粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)とオーフス大学のX線装置の両方で測定し、測定したデータを名大グループの情報理論に基づく新しい方法で解析したところ、Zn原子のうち90%は結晶のように規則正しく存在しているが(図2)、残りの約10%についてはガラスの様に無秩序に存在していることが発見された(図3)。また、解析された結果から、Zn4Sb3の熱伝導度は、10%の無秩序なZn原子の存在により引き下げられていることも明らかになった。
 本研究によって、ガラスと結晶の両方の特性を持つ、全く新しいタイプの熱電変換材料の構造が発見された。この成果に基づき、カリフォルニア工科大学とオーフス大学ではZn4Sb3をベースとした新しい熱電変換材料の開発が進められており、今後この新しいタイプの構造に基づく、新たな高性能熱電材料が開発され、廃熱を利用したエネルギーの生成が更に進められることが期待される。


<参考資料>

図1 Zn4Sb3の熱伝導度
図1 Zn4Sb3の熱伝導度

他の熱電変換材料と共に温度を横軸にして示した。他の物質と比較して、Zn4Sb3の熱伝導率が約半分程度と極端に低いことがわかる。

 


 

図2 90%のZn4Sb3の結晶構造
図2 90%のZn4Sb3の結晶構造

Znのうち90%と全てのSbは図に示した結晶構造をとる。

 


 

図3 10%のZn4Sb3の構造
図3 10%のZn4Sb3の構造

10%のZnが無秩序に存在しうる場所を黄緑の球で示した。黄緑で示した多数の場所に10%のZnが存在しうる。

 


<用語解説>

    1)フォノン
     格子振動のエネルギーを量子化したもの。電磁波のフォトンとの類似からフォノンと呼ばれている。
    2)ゼーベック係数
     1821年にドイツのゼーベックによって、金属の両端に温度差を与えると電流が流れることが発見された。これをゼーベック効果という。ゼーベック効果により流れる電流の量VSと温度差ΔTの比VS/ΔTをゼーベック係数と呼ぶ。
    3)性能指数zT
     熱電変換材料の性能を示す。単位は無次元で大きなものほど性能が高い。実用化されている熱電変換材料はzTが1前後の値をとる。TAGSは400℃で約1.2であるのに対し、Zn4Sb3の性能指数は400℃で約1.3。

 

<本研究に関する問い合わせ先>
名古屋大学
工学研究科・マテリアル理工学専攻・応用物理学分野
講師  西堀 英治
E-mail: eiji@mcr.nuap.nagoya-u.ac.jp
TEL:052-789-3702 / FAX:052-789-3702

<SPring-8についての問い合わせ先>
財団法人高輝度光科学研究センター
   広報室  原 雅弘
e-mail: hara@spring8.or.jp
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786

ひとつ前
超低温度におけるX線回折測定に成功(トピック)
現在の記事
熱電変換材料Zn4Sb3における、ガラス状に存在するZn原子の発見- ガラスの熱伝導と結晶の電気伝導をあわせ持つ、高性能熱電変換材料の構造解明 -(プレスリリース)
ひとつ後
カルシウムポンプ蛋白質のカルシウム閉塞機構を解明(プレスリリース)