大型放射光施設 SPring-8

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2ホウ化マグネシウム超伝導薄膜の高品質化機構の解明に成功- 超伝導材料の実用化に期待 -(プレスリリース)

公開日
2004年09月24日
  • BL13XU(表面界面構造解析)
高輝度光科学研究センターの坂田修身主幹研究員、木村滋主幹研究員らは、金属間化合物超伝導2ホウ化マグネシウム(MgB2)薄膜について、その構造と超伝導特性との関係を大型放射光施設(SPring-8)の高輝度シンクロトロン放射光を用いて調べ、その結果、高品質の鍵となるバッファー層の機能を解明することに成功した。

平成16年9月24日
(財)高輝度光科学研究センター
島根大学総合理工学部

 

(財)高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽)の坂田修身主幹研究員、木村滋主幹研究員らは、島根大学総合理工学部物質科学科(学長 本田雄一)の久保衆伍教授らが低温成長に成功した金属間化合物超伝導2ホウ化マグネシウム(MgB2)薄膜について、その構造と超伝導特性との関係を大型放射光施設(SPring-8)の高輝度シンクロトロン放射光を用いて調べ、その結果、高品質の鍵となるバッファー層の機能を解明することに成功した。
 これまでの2ホウ化マグネシウム薄膜の高品質膜は、基板温度600℃以上の熱処理プロセスを経ないと作成できなかったが、積層化デバイスに応用する場合には界面での相互拡散が起こるという問題点が予想されていた。300℃以下の低温で作成することによってその積層化デバイスの相互拡散が抑えられ、より平滑な界面が得られると期待されるが、今回のSPring-8での測定により、270℃という低温で成長させた2ホウ化マグネシウム薄膜の高性能化には、面内格子準整合バッファー層の結晶構造が、きわめて重要であることを解明できた。
 また、低温成長2ホウ化マグネシウム薄膜やバッファー層からの回折強度信号は微弱なため、これまで、測定が困難であったが、SPring-8の高輝度シンクロトロン放射光を用いたことで、その回折強度信号を捉えることができ、詳細な解析が可能となった。
 今回の成果は、より低温、より高品質な超伝導2ホウ化マグネシウム薄膜の作成に新たな道を開くものと期待される。
 なお、本研究成果は、アメリカの応用物理誌 「ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics)」の2004年9月15日号に掲載された。さらに、the American Institute of Physics と the American Physical Societyの共同誌 ヴァーチャル・ジャーナル・オブ・アップリケーションズ・オブ・スーパーコンダクティビィティ(Virtual Journal of Applications of Superconductivity)に選ばれ、その2004年9月15日号にも掲載された。

(論文)
"High-quality as-grown MgB2 thin-film fabrication at a low temperature using an in-plane-lattice near-matched epitaxial-buffer layer"
「面内格子準整合バッファー層を用い、低温育成させた、高品質2ホウ化マグネシウム薄膜」
O. Sakata, S. Kimura, M. Takata, S. Yata, T. Kato, K. Yamanaka, Y. Yamada, A. Matsushita, and S. Kubo

1.研究の背景
 2001年初旬に秋光純教授(青山学院大学)のグループによって発見された金属間化合物超伝導体2ホウ化マグネシウムは、超伝導転移温度(Tc)39 Kを示し、高周波、高速デバイスなどの超伝導エレクトロニクスへの応用上注目されている物質である。結晶構造、超伝導物性、電子状態など、その実用化・高品質化に向け精力的に研究が進められている。
 2ホウ化マグネシウム薄膜を積層化デバイスに応用する場合には界面での相互拡散が起こるという問題点が予想されるため、300℃以下の低温で高品質薄膜を作成する技術が必要とされるが、これまでの高品質膜は基板温度600℃以上の熱処理プロセスを経て作成されていた。高品質薄膜とは、その薄膜の臨界温度、臨界電流などの超伝導特性が高いものを指し示すが、その結晶性、構造と超伝導特性の関係を解明されることが待たれていた。

2.実験の内容・結果及び今回明らかになったこと
 島根大学 総合理工学部 物質科学科 久保衆伍教授らの研究グループは、サファイヤ(Al2O3)基板上に蒸着させた面内格子準整合チタン・ジルコニア(TiZr)・バッファー層を介することで、270℃という低温の基板に2ホウ化マグネシウム薄膜を形成することに、最近成功した(図1)。その薄膜の形成にはマグネシウムとボロンの同時蒸着法が用いられた。面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層の有無により、超伝導特性を比較検討した結果、面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層の存在によって、超伝導転移温度や臨界電流密度の超伝導特性が向上することが分かった(図2図3)。この機構を調べるために、SPring-8表面界面構造解析ビームライン(BL13XU)で、高輝度シンクロトロン放射光を用いて詳細に解析した。面内の結晶構造の関係を明らかにするため、2ホウ化マグネシウム薄膜からの回折強度信号の面内回転依存性を測定した(図4)。その結果、面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層のない試料では、無秩序な配向であるのに対して、バッファー層のある試料では、基板結晶と配向関係を有する構造になっていることが明らかになった。同様な測定から、バッファー層にも明確な結晶の配向関係がみられた。回折強度の角度位置の詳細な解析から、基板結晶、バッファー層、2ホウ化マグネシウム薄膜の面内格子定数を決定できた(図5)。
 そのバッファー層の面内格子定数が基板サファイヤ結晶のそれと2ホウ化マグネシウム薄膜のそれの中間にあることが高品質化のキーであることを明らかにした。

3.工学的な利点と今後の展開及び期待できること
 270℃の低温度成長の利点は、積層化デバイス形成時に相互拡散が抑えられること、ならびに、表面平滑性に優れることである。本研究の成果をきっかけにして、高周波、高速デバイスなどの超伝導エレクトロニクスへの応用が期待できる。また、現在進められている高感度核磁気共鳴装置(NMR)開発に重要な技術的基盤を与えるものとなる。勿論、消費電力が本質的に少なくて済む超伝導デバイスの高度集積化の実現にも役立つことが期待できる。さらに、低温度での薄膜成長は、プラスチックなどの表面上にも超伝導薄膜が成長可能なことを示唆しており、携帯電話に代表される小型PDA機器に組み込めるかも知れない。

【キーワード】
 超伝導薄膜、放射光解析、2ホウ化マグネシウム薄膜、低温成長、面内格子準整合バッファー層

【研究成果の一番の特徴】
 2ホウ化マグネシウム超伝導薄膜の高品質化機構をシンクロトロンX線で解明できたこと。

 2001年初旬に秋光純教授(青山学院大学)のグループによって発見された金属間化合物超伝導体2ホウ化マグネシウムは、超伝導転移温度(Tc)39 Kを示し、高周波、高速デバイスなどの超伝導エレクトロニクスへの応用上注目されている物質である。結晶構造、超伝導物性、電子状態など、その実用化・高品質化に向け精力的に研究が進められている。 2ホウ化マグネシウム薄膜を積層化デバイスに応用する場合には界面での相互拡散が起こるという問題点が予想されるため、300℃以下の低温で高品質薄膜を作成する技術が必要とされるが、これまでの高品質膜は基板温度600℃以上の熱処理プロセスを経て作成されていた。高品質薄膜とは、その薄膜の臨界温度、臨界電流などの超伝導特性が高いものを指し示すが、その結晶性、構造と超伝導特性の関係を解明されることが待たれていた。 島根大学 総合理工学部 物質科学科 久保衆伍教授らの研究グループは、サファイヤ(AlO)基板上に蒸着させた面内格子準整合チタン・ジルコニア(TiZr)・バッファー層を介することで、270℃という低温の基板に2ホウ化マグネシウム薄膜を形成することに、最近成功した()。その薄膜の形成にはマグネシウムとボロンの同時蒸着法が用いられた。面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層の有無により、超伝導特性を比較検討した結果、面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層の存在によって、超伝導転移温度や臨界電流密度の超伝導特性が向上することが分かった(、)。この機構を調べるために、ので、高輝度シンクロトロン放射光を用いて詳細に解析した。面内の結晶構造の関係を明らかにするため、2ホウ化マグネシウム薄膜からの回折強度信号のを測定した()。その結果、面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層のない試料では、無秩序な配向であるのに対して、バッファー層のある試料では、基板結晶と配向関係を有する構造になっていることが明らかになった。同様な測定から、バッファー層にも明確な結晶の配向関係がみられた。回折強度の角度位置の詳細な解析から、基板結晶、バッファー層、2ホウ化マグネシウム薄膜の面内格子定数を決定できた()。 そのバッファー層の面内格子定数が基板サファイヤ結晶のそれと2ホウ化マグネシウム薄膜のそれの中間にあることが高品質化のキーであることを明らかにした。 270℃の低温度成長の利点は、積層化デバイス形成時に相互拡散が抑えられること、ならびに、表面平滑性に優れることである。本研究の成果をきっかけにして、高周波、高速デバイスなどの超伝導エレクトロニクスへの応用が期待できる。また、現在進められている高感度核磁気共鳴装置(NMR)開発に重要な技術的基盤を与えるものとなる。勿論、消費電力が本質的に少なくて済む超伝導デバイスの高度集積化の実現にも役立つことが期待できる。さらに、低温度での薄膜成長は、プラスチックなどの表面上にも超伝導薄膜が成長可能なことを示唆しており、携帯電話に代表される小型PDA機器に組み込めるかも知れない。 超伝導薄膜、放射光解析、2ホウ化マグネシウム薄膜、低温成長、面内格子準整合バッファー層 2ホウ化マグネシウム超伝導薄膜の高品質化機構をシンクロトロンX線で解明できたこと。



<参考資料>

図1 2ホウ化マグネシウム(MgB<sub>2</sub>)薄膜の高分解能断面走査型電子顕微鏡像
図1 2ホウ化マグネシウム(MgB2)薄膜の高分解能断面走査型電子顕微鏡像

サファイヤ(Al2O3)基板上に蒸着させた面内格子準整合チタン・ジルコニア(TiZr)・バッファー層を介し、270℃という低温の基板に形成された2ホウ化マグネシウム(MgB2)薄膜。

 


 

図2 2ホウ化マグネシウム薄膜の電気抵抗の温度依存性
図2 2ホウ化マグネシウム薄膜の電気抵抗の温度依存性

面内格子準整合チタン・ジルコニア バッファー層の存在により、臨界温度がより高くなることが分かる。

 


 

図3 2ホウ化マグネシウム薄膜の磁化曲線
図3 2ホウ化マグネシウム薄膜の磁化曲線

面内格子準整合チタン・ジルコニア バッファー層の存在により、磁化曲線の履歴が増大していることが分かった。

 


 

図4 2ホウ化マグネシウム薄膜からの回折X線強度の面内回転依存性
図4 2ホウ化マグネシウム薄膜からの回折X線強度の面内回転依存性

面内格子準整合チタン・ジルコニア・バッファー層の存在により、2ホウ化マグネシウム薄膜のエピタキシー性が向上したことが分かった。

 


 

図5  2ホウ化マグネシウム薄膜と面内格子準整合チタン・ジルコニア(TiZr)・バッファー層、および、基板サファイヤの結晶子のモザイク角度幅(面内の角度分布に相当)と面内格子定数との関係
図5 2ホウ化マグネシウム薄膜と面内格子準整合チタン・ジルコニア(TiZr)・バッファー層、および、基板サファイヤの結晶子のモザイク角度幅(面内の角度分布に相当)と面内格子定数との関係

結晶子のモザイク角度幅は結晶子サイズとおよそ逆比例の関係。4個の数字の並びは調べた結晶面の反射指数。そのバッファー層の面内格子定数が基板サファイヤのそれと2ホウ化マグネシウム薄膜のそれの間にあることが高品質化のキーであった。

 


<用語解説>

    1.X線結晶構造解析と回折現象
     0.1 nmぐらいのX線の波長は、物質中の原子と原子の距離と同程度である物質が規則正しく並んだ結晶によって回折される。回折されたX線の強度を詳しく解析することにより、結晶内の原子構造やナノ結晶群の周期配列構造を解明することができる。
    2.面内格子準整合バッファー層
     基板結晶とは異種の膜を基板と特定の配向関係をもって成長させようとする場合、大きな格子定数差や化学的性質の違いがあると、核形成されるため島状成長が起こり、成長層の結晶品質が低下する。また、大きな熱膨張係数差があると、成長層中に熱歪み、転位、クラックなどが発生する。これらを防ぐために結晶成長に先立ってバッファー層と呼ばれる薄膜を基板上に堆積させると、層成長の促進や熱歪みの緩和などの効果が現れるため、成長層の結晶品質が向上する。そのバッファー層の面内格子定数が基板のそれとの差が小さいものを面内格子準整合バッファー層と呼ばれる。
    3.面内回転依存性
     試料をその表面法線周りに回転して、回折強度信号をプロットすると、その回転角に応じて、その信号強度曲線が変化する。例えば、図4の●(黒丸)ように基板との結晶関係が60°ごとに存在すると、回折強度信号が強く記録される。このとき、薄膜結晶は基板結晶とエピタキシー関係に配向して成長していると呼ばれる。他方、図4の×のように、回折強度信号がほぼ一様な場合、薄膜が面内では無配向、あるいは、無秩序配向であり、エピタキシー関係が無いと表現される。

 


 

<本研究に関する問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 I
主幹研究員  坂田 修身
E-mail: o-sakata@spring8.or.jp
Tel:0791-58-2750/Fax:0791-58-0830

島根大学 総合理工学部 物質科学科(物質機能講座)
   教授  久保 衆伍
Tel:0852-32-6406

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
   広報室  原 雅弘
E-mail: hara@spring8.or.jp
Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786

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