生体酸化ストレスを制御する酵素「GCS」の立体構造の解明(プレスリリース)
- 公開日
- 2004年11月16日
- BL41XU(構造生物学I)
平成16年11月16日
福井県立大学
福井県立大学生物資源学研究科の小田順一教授のグループは、「GCS(γ-グルタミルシステイン合成酵素)」とよばれる酵素の立体構造を世界ではじめて解明しました。「GCS」は活性酸素などで知られる酸化ストレスから体を守るために必要なグルタチオンと呼ばれる物質を体内でコントロールするのに不可欠な酵素で、今回、本酵素の立体構造が解明されたことは、様々な疾病の原因解明や、新たな治療薬の開発につながることが期待されます。 (論文) |
1.背景と目的
人の身体は酸化ストレス状態になると病気にかかりやすく、この状態では体内に含まれるグルタチオンと呼ばれる物質が減少することが知られています。このグルタチオンの生産をコントロールする酵素が「GCS(γ-グルタミルシステイン合成酵素)」です。GCSによるグルタチオンの生産をコントロールするしくみの解明は、様々な疾病の原因解明に重要です。
また、あらゆる薬剤を効かなくする多剤耐性の病原体は、グルタチオンを利用して耐性を得る仕組みをもつことがわかってきました。グルタチオンの生産をコントロールするGCSの働きを阻害する薬剤ができれば、非常に有効な抗寄生原虫剤・抗ガン剤の開発につながると期待されます。
これまで小田らは、強力にGCSを阻害する薬剤を設計・合成してきました。そして、この阻害剤がどのようにGCSに結合するのかを調べるため、GCSのX線結晶構造解析に取り組みました。
2.方法と結果
初めて作製に成功した大腸菌由来GCSの結晶について、宇宙微小重力を利用した実験などを通じて改良を重ねた結果、大型放射光施設(SPring-8)の構造生物学IビームラインBL41XUなどにおけるX線回折測定より、本特異的阻害剤を結合させたGCSの立体構造を決定することに成功しました。これらの立体構造をもとに、阻害剤設計にとって最も重要なシステイン結合部位の構造が初めて明らかにされました。その活性中心にはマグネシウムイオンが3個結合しており、生体触媒機能や活性調節機構に重要な役割を果たしているものと考えられます。また、薬剤の結合に伴って起こる重要な構造の変化が明らかとなり、いままで分からなかったヒトや病原体などの本酵素の薬剤結合部位についても予測することができました。
3.波及効果
・GCSの立体構造に基づくその機能が明らかになったことで、酸化ストレスが関わる様々な病気の原因究明に役立つ。
・GCS阻害剤設計に重要な薬剤結合部位の構造が明らかとなり、ガン細胞や病原体の多剤耐性を抑制する薬剤開発に役立つ。
・構造がまだ知られていないのタンパク質の構造予測に役立つ。
- <補足資料>
GCS-遷移状態アナログP2S-MgADP複合体モデル
<本研究に関する問い合わせ先> 福井県立大学 生物資源学部 講師 日 隆雄(ひび たかお) <SPring-8についての問い合わせ先> |
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