大型放射光施設 SPring-8

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有機色素分子の結晶構造と結晶化による色変化との関係 (プレスリリース)

公開日
2005年04月07日
  • BL46XU(産業利用III)
早稲田大学大学院理工学研究科、早稲田大学理工学部物理学科、(財)高輝度光科学研究センター、宇都宮大学工学部応用化学科の研究グループは、有機色素分子の2次元結晶のX線構造解析に成功し、結晶構造とその結晶の色との関係を定量的に明らかにした。

平成17年4月7日
(財)高輝度光科学研究センター

早稲田大学大学院理工学研究科の加藤徳剛客員講師、湯浅一哉客員講師、荒木岳志大学院生、早稲田大学理工学部物理学科の上江洲由晃教授、(財)高輝度光科学研究センター利用研究促進部門の広沢一郎主幹研究員、佐藤真直副主幹研究員、池田直主幹研究員、宇都宮大学工学部応用化学科の飯村兼一助教授らは、有機色素分子の2次元結晶のX線構造解析に成功し、結晶構造とその結晶の色との関係を定量的に明らかにした。
 一般に有機色素分子は、結晶化すると色が変わる。なかでも可視光吸収ピークが、結晶化することで長波長側にシフトしたものを、一般にJ会合体と呼ぶ。J会合体は銀塩写真の光増感剤として長年使われており、現在では高速応答非線形材料としても注目されている。両親媒性メロシアニン色素は、水面上に単分子層厚のJ会合体(2次元結晶)を形成し、結晶化により赤色から青色に変わる。可視光吸収ピークのシフト量はエネルギーにしてΔE=-0.36eVである。このシフト量(色変化)を定量的に説明するためには、結晶構造が分っていなければならない。このほど、SPring-8で実施した斜入射X線回折実験により、水面に浮かぶ2次元結晶の構造解析に成功した。決定した結晶構造をもとに、分子間相互作用を計算しΔEを定量的に評価した。計算では、分子間の遷移双極子相互作用に加え、これまで考慮されてこなかった電気双極子相互作用についても計算を行った。その結果、電気双極子相互作用もピークシフトに重要な役割をすることを示した。導出した計算式は、有機色素分子の結晶構造をその吸収スペクトル(色)から予測するのに有効である。
 本研究は、文部科学省による早稲田大学21COEプログラム「多元要素からなる自己組織系の物理」の支援を受けた。
 本研究成果は、American Physical SocietyのPhysical Review Letters 4月8日号に掲載される。

(論文)
"Determination of a merocyanine J-aggregate structure and the significant contribution of the electric dipole interaction to the exciton band wavelength"
Noritaka Kato, Kazuya Yuasa, Takeshi Araki, Ichiro Hirosawa, Masugu Sato, Naoshi Ikeda, Ken-ichi Iimura, and Yoshiaki Uesu

早稲田大学大学院理工学研究科の加藤徳剛客員講師、湯浅一哉客員講師、荒木岳志大学院生、早稲田大学理工学部物理学科の上江洲由晃教授、(財)高輝度光科学研究センター利用研究促進部門の広沢一郎主幹研究員、佐藤真直副主幹研究員、池田直主幹研究員、宇都宮大学工学部応用化学科の飯村兼一助教授らは、有機色素分子の2次元結晶のX線構造解析に成功し、結晶構造とその結晶の色との関係を定量的に明らかにした。
 一般に有機色素分子は、結晶化すると色が変わる。なかでも結晶化することで、可視光吸収ピークが長波長側にシフトしたものを、J会合体と呼ぶ。J会合体は銀塩写真1)光増感剤2)として長年使われており、現在では高速応答非線形光学材料3)としても注目されている。両親媒性4)メロシアニン色素(図1)は、水面上に単分子層厚のJ会合体(2次元結晶)を形成し、結晶化により赤色から青色に変わる(図2)。可視光吸収ピークのシフト量は、エネルギーにしてΔE=−0.36eVである。
 このシフト量(ΔE)と結晶構造を定量的に関係付けるため、大型放射光施設(SPring-8)R&DビームラインBL46XUにて、水面上の2次元結晶に対して斜入射X線回折実験5)を行い、結晶構造解析に成功した。決定した結晶構造(図3)をもとに、分子間相互作用を計算しΔEを定量的に評価した。計算では、分子間の遷移双極子6)相互作用に加え、これまで考慮されてこなかった電気双極子7)相互作用についても計算を行った。ΔEへの電気双極子相互作用の寄与は、色素分子の基底状態での電気双極子と励起状態での電気双極子との差に起因する。その結果、メロシアニン色素の場合には、ΔEの約50%が電気双極子相互作用に起因することが判明し、電気双極子相互作用も吸収ピークのシフトに対し重要な役目があることを初めて明らかにした。
 性能・コスト・加工性の面で従来の材料にない、多くの優れた特徴を有する有機色素分子の結晶や凝集体を用いた、光デバイスの研究・開発が盛んであり、デバイスとして、安価で高性能な次世代型太陽電池の有機色素増感太陽電池、フレキシブル薄型デイスプレイの有機EL素子、有機色素感光体が記録部に用いられているDVD-RやCD-Rなどが挙げられる。それら光デバイスの吸収ピーク波長は、デバイスが用いられる波長領域を決める重要な要素である。例えば、光増感作用や非線形光学効果は吸収ピーク波長で最大となる。また発光波長も、吸収ピークのやや長波長側に現れる。導出した計算式は、ある色素分子がどのように配列したら、吸収ピークがどれくらいシフトするかを、より一般的な色素分子ついて簡単に予測することができる。あるいは逆に、吸収ピークのシフト量から、分子の配列構造を簡単に見積もることもできる。今回の成果は、より高機能な新規有機色素デバイス開発への指針を与えると期待される。
 本研究は、文部科学省による早稲田大学21COEプログラム「多元要素からなる自己組織系の物理」の支援を受けた。

 本研究成果は、American Physical SocietyのPhysical Review Letters 4月8日号に掲載される予定である。
題目:Determination of a merocyanine J-aggregate structure and the significant contribution of the electric dipole interaction to the exciton band wavelength
著者:Noritaka Kato, Kazuya Yuasa, Takeshi Araki, Ichiro Hirosawa, Masugu Sato, Naoshi Ikeda, Ken-ichi Iimura, and Yoshiaki Uesu


<参考資料>

図1 メロシアニン色素の分子構造
図1 メロシアニン色素の分子構造

 


 

図2 水中に分散させた非結晶状態および微結晶状態のメロシアニン色素
図2 水中に分散させた非結晶状態および微結晶状態のメロシアニン色素

水面上の2次元結晶は肉眼では見えないので、ある薬品を用いてメロシアニン色素を水中に分散させたもの。赤色の状態は、分子単位で分散していて、結晶でない状態。青色は、微結晶が分散している状態。
N. Kato, J. Prime, K. Katagiri, F. Caruso, Langmuir 20, 5718-5723 (2004).

 


 

図3 2次元結晶構造
図3 2次元結晶構造

(a)2次元単位格子 (b)格子点にメロシアニン色素を配置した時の図

 


<用語解説>

    1)銀塩写真
     ハロゲン化銀を感光物質とする写真のこと。ふつう写真と呼ばれるのはほとんどがこれである。
    2)光増感剤
     ハロゲン化銀が吸収しない波長の光を吸収し、ハロゲン化銀を感光させる物質。
    4)両親媒性
     親水基(水になじみやすい部分)と疎水基(水になじみにくい部分)の両方を一つの分子が持つこと。
    5)斜入射X線回折
     薄膜に対してX線回折実験を行う手法。本研究では、水面でX線が全反射するようにX線を水面にすれすれの角度で入射し、膜面内の周期構造に起因する回折光を観測した。
    7)電気双極子
     微小距離をへだてておかれた正負の電荷の1対。


 

<本研究に関する問い合わせ先>
早稲田大学 大学院理工学研究科
客員講師  加藤 徳剛
E-mail: n.k@waseda.jp
Tel:03-5286-3446 /Fax:03-3202-4962

(財)高輝度光科学研究センター
   産業利用推進室  廣沢 一郎
E-mail: hirosawa@spring8.or.jp
Tel:0791-58-0832/Fax:0791-58-0830

<SPring-8についての問い合わせ先>
(財)高輝度光科学研究センター
   広報室  原 雅弘
E-mail:hara@spring8.or.jp
Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786