「タンパク質結晶メールイン測定サービス事業」を開始 - 世界トップの分析能力を持つ大型放射光施設(SPring-8)を活用 -(プレスリリース)
- 公開日
- 2006年06月21日
- 測定サービス事業
平成18年6月21日
独立行政法人理化学研究所
財団法人高輝度光科学研究センター
本発表のポイント
○ 遠方にいながらでも宅配サービスでX線結晶回折データを誰でも簡単に取得
○ 守秘義務を含む契約を結び、企業の製品開発にも使いやすいサービスを提供
○ SPring-8と民間企業との協力で実現:大型共同利用施設の利用者拡大をねらう
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長、以下「理研」)と財団法人高輝度光科学研究センター(吉良爽理事長、以下「JASRI」)は、2006年7月から大型放射光施設(SPring-8)※1を利用して、医薬品の開発や研究、未知の化学物質や環境物質などの探査に欠かせない生体高分子の構造解析などのさまざまなユーザーの要望に応える「タンパク質結晶メールイン測定サービス事業(以下、メールイン測定サービス)」を有償で開始します。 |
1.メールイン測定サービスの概要と事業の趣旨
タンパク質結晶メールイン測定サービスは、理研とJASRIが共同でカルナバイオサイエンス(株)、(株)創晶、竹田理化工業(株)、ナカライテスク(株)、ファルマアクセス(株)、計5社の民間協力企業を仲介役として、製薬企業、研究機関、大学等のユーザーからの依頼に基づいて、タンパク質結晶などのX線回折データ測定を有償で提供するサービスです。
タンパク質結晶メールイン測定サービスにより、これまで以上に幅広いユーザーからのSPring-8利用を促進します。特に試料に関してSPring-8に開示する情報は安全性に関する最低限のもののみである点は、民間企業にとって大きなメリットとなると考えられます。それにより民間企業がSPring-8を積極的に活用する機会が設けられ、周辺産業の創出や新規事業展開につながる産業利用の推進が期待されます。メールイン測定サービスは各協力企業の準備が整い次第、7月を目処に開始予定です。
◎ サービスのスキーム(要約)
1. 製薬企業等のユーザーは民間協力企業と契約を締結し、タンパク質などの結晶試料を契約した民間協力企業に送付します。
2. 民間協力企業はユーザーとJASRI(SPring-8)との窓口業務を行い、ユーザーから届けられた試料をJASRIに送付します。
3. JASRIは測定スケジュール等を理研と調整し、理研は「理研構造ゲノムビームライン※2」にて試料の測定を行います。
4. 測定されたデータと試料をJASRIに引き渡します。
5. JASRIは、測定データおよび試料を民間協力企業に返送します。
6. 民間協力企業は、試料および測定データをユーザーに返送します。
サービス開始当初は、週1回のビームタイムで運用を行いますが、今後、利用者の数に応じて順次ビームタイムを増やし、ユーザーからの測定依頼に迅速に対応できる体制を整えていきます。費用については、各民間協力企業が自らの事業・サービスとあわせて、それぞれに料金を設定する予定です。
2.民間協力企業について
理研及びJASRIは、本事業を実施するに当り、利用者との窓口や試料の安全保証等に係る業務を担当する民間協力企業をホームページ上で募集(募集期間:2006年2月24日~3月15日)し、応募のあった5社と提出書類をもとにインタビューを行い、以下の要件の得失を基準として審査した結果、各社が要件を満たしていることから、応募企業5社を民間協力企業の候補として内定し、受託試験契約を締結するに至りました。
(1)タンパク質または関連分野の知識や営業経験を有する者を本事業の担当者とできること
(2)本事業を推進するために必要な営業基盤があること
(3)本事業の実施にあたり、必要な講習を受け、理研側担当者との間で技術的な調整ができること
(4)本事業の実施に必要な前述した二つの契約を締結できること
併せて、各民間協力企業には、既存事業とのシナジー効果を含めSPring-8の利用者の拡大に貢献していただけることを期待しています。
各民間協力企業の概要は以下のとおりです。(五十音順)
カルナバイオサイエンス(株)
本社所在地:兵庫県神戸市港島南町5-5-2 神戸国際ビジネスセンター511
代表者氏名:代表取締役 吉野公一郎
連絡先:TEL : 078-302-7039 FAX : 078-302-7086 Email : info@carnabio.com
主な事業内容:
創薬基盤サービス事業(キナーゼにフォーカスしたターゲット探索から化合物の最適化までを総合的に支援)
・化合物ライブラリーの提供
・アッセイキットの提供
・プロファイリング及びスクリーニング受託
・蛋白質キナーゼの提供
・X線結晶構造解析サービス(蛋白質結晶データ、共結晶データの提供)
創薬事業
・キナーゼ阻害薬の開発
・HB-EGF阻害薬の開発
(株)創晶
本社所在地:大阪市中央区本町一丁目6番18号 丸武本町ビル3F
代表者氏名:代表取締役 安達宏昭
連絡先:TEL : 06-6877-5659 FAX : 06-6877-5659 Email : info@so-sho.jp
主な事業内容:レーザー照射による結晶化技術や溶液攪拌による結晶育成技術など革新的な結晶化技術を用いたタンパク質や医薬候補化合物である有機低分子の結晶化受託サービスを提供しています。メールイン測定サービスを展開することにより、結晶化から回折データ取得までのワンストップ・サービス体制が整い、構造解析をさらに加速させることが可能になります。
竹田理化工業(株)
本社所在地:東京都渋谷区恵比寿西2-7-5
代表者氏名:竹田 啓司
連絡先:代表番号:03-5489-8511
※本件に関する問合せ
営業本部 企画グループ 担当:黒須 学
TEL : 03-5489-8531 FAX : 03-5489-8503 Email : info@takeda-rika.co.jp
主な事業内容:島津製作所製品をはじめとする研究開発用分析機器・科学機器・研究設備機器等の販売。当社では本メールイン事業と併せ、発現、精製、結晶化といったタンパク質結晶化の受託研究サービスも行っていますので、お客様のニーズに合わせたサービスの提供が可能です。
ナカライテスク(株)
本社所在地:京都市中京区二条通烏丸西入東玉屋町498
代表者氏名:代表取締役 半井 隆利
連絡先:技術営業部075-211-2746
主な事業内容:リサーチケミカル(ライフサイエンス分野を中心とした試薬)、ファインケミカル(化学薬品・化成品)の製造・輸入・販売及び、その周辺機器の販売
ファルマアクセス(株)
本社所在地:東京都昭島市松原町3-9-12
代表者氏名:勝部 幸輝
連絡先:大阪事業所 (担当:三谷) 072-640-5211 mitani@pharmaxess.com(Webから http://www.pharmaxess.com/)
主な事業内容:
1.タンパク質のX線構造解析の受託
2.タンパク質結晶ポートフォリオ、フラグメント・ベーズド・スクリーニングによる創薬の支援
3.X線構造解析に関するコンサルティングサービス及び関連機器の販売
<補足説明>
※1 大型放射光施設(SPring-8)
兵庫県にある大型共同利用施設。ほぼ光速で進む電子が、その進行方向を磁石などによって変えられると接線方向に電磁波が発生する。これが「放射光(シンクロトロン放射)」と呼ばれるものであり、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。特に第三世代の大型放射光施設と呼ばれるものには、世界にSPring-8、APS(アメリカ)、ESRF(フランス)の3つがある。SPring-8(電子エネルギー:8GeV)の場合、遠赤外から可視光線、真空紫外、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの分野で利用されている。
※2 SPring-8理研構造ゲノムビームライン
理研構造ゲノムビームラインは、構造ゲノム研究への貢献を目的とした迅速回折データ収集専用のビームラインで2002年に設置された。大量の試料を効率よく取り扱うためにサンプルチェンジャーSPACEを導入して定常的にビームラインの自動運転を行っている。タンパク結晶試料は、SPACE専用サンプルピンを使用して凍結し、52穴のサンプルトレイにまとめて保管し、測定時はサンプルトレイごとビームラインに設置する。ビームラインでは、試料スクリーニングのための回折像測定を1試料当たり5分のペースで連続して行い、トレイ内の全ての結晶を日中に全て評価することができる。通常夜間は連続データ収集を行い、これまでに一晩で最大21データセットの測定実績がある。これは3波長の多波長異常分散法の回折データ測定7試料分に相当する。現在ビームラインは、1日当たり平均20個のタンパク結晶をスクリーニングし、一晩あたり平均7データセットの回折強度測定を継続して行っている。
◎ 理研構造ゲノムビームラインを用いた解析例
生物時計の振動発生に関わる時計タンパク質の立体構造解析(名古屋大、理研)
藍色細菌の生物時計の発振機能を担う時計タンパク質KaiAのC末端時計発振ドメインの立体構造を、理研構造ゲノムビームラインを用いた多波長異常分散法により決定しました。この立体構造に基づいて様々な変異体を作製し、KaiAの発振機能に必須なアミノ酸残基が同定されました。本研究によりKaiAのC末端時計発振ドメインについて、立体構造と機能との関係を原子レベルで解明できました。
論文:
Tatsuya Uzumaki, et. al.
Nature Structural & Molecular Biology 11, 623 - 631 (2004),
(http://www.nature.com/nsmb/journal/v11/n7/abs/nsmb781.html)
<本件に関する問い合わせ先> 独立行政法人理化学研究所 知的財産戦略センター 財団法人高輝度光科学研究センター (報道担当) <SPring-8についての問い合わせ先> 財団法人高輝度光科学研究センター |
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