大型放射光施設 SPring-8

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遂に成功した燃料電池触媒のリアルタイム解析 - 燃料電池車実現に向けてメカニズム解明 - (プレスリリース)

公開日
2007年03月19日
  • BL01B1(XAFS)
大型放射光施設(SPring-8)と高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(PF)の放射光を用いて、燃料電池カソード触媒である白金ナノ微粒子の変化を世界で初めてリアルタイムで捕らえることに成功し、燃料電池車実現に向けてのメカニズムを解明した。

2007年3月19日
国立大学法人 東京大学
トヨタ自動車株式会社
株式会社豊田中央研究所
財団法人 高輝度光科学研究センター(JASRI/SPring-8)
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 放射光科学研究施設(PF)
国立大学法人 鳥取大学

 環境問題、エネルギー問題への対応が早急に求められる今日、水素と酸素を原料としてクリーンな水のみを排出しかつ高エネルギー効率の燃料電池システムは、自動車をはじめとする様々な分野への実用化が切望されている。しかし、陽極(カソード)起電力の改善や白金溶出による触媒劣化などの諸問題を解決することが、燃料電池自動車の実用化には必要不可欠になっている。そのためには、実際の燃料電池作動時における電極触媒(Pt/C)表面の電気化学的反応、触媒種の構造変化過程、及び燃料電池触媒表面の反応機構を解明する必要があった。
 本研究では、燃料電池作動条件下におけるカソード白金ナノ微粒子触媒の酸化還元挙動を大型放射光施設(SPring-8)XAFSビームラインBL01B1、および、加速器研究機構放射光科学研究施設(PF)の放射光を用いて、世界で初めて捕らえることに成功した。その結果、電池作動時の電圧変化によって引き起こされるカソード触媒表面の反応メカニズムを明らかにすることに成功した。また、カソード表面の電子移動とPtナノ触媒の帯電、構造変化間に時間差があり、酸化還元過程のそれぞれで4つの素過程(計8つ)が存在することを発見した。
 開発した装置と方法論:Pt/C燃料電池触媒のダイナミック構造変化を捉えるために、新型Time-gating QXAFS (TG-QXAFS)法(説明1参照)を開発した。また、世界最速と最高精度を持つエネルギー分散型XAFS (DXAFS)(説明2参照)システムを開発した。
 本研究結果は、燃料電池車実現のための新規触媒材料開発の指針を与える重要な情報となる。本研究成果は、ドイツ化学会誌 Angewandte Chemie International Edition (Angew. Chem. Int. Ed.)に掲載された。

(論文)
"In Situ Time-Resolved Dynamic Surface Events on the Pt/C Cathode in a Fuel Cell under Operando Conditions"
Mizuki Tada, Dr. , Shigeaki Murata , Takahiko Asakoka , Kazutaka Hiroshima , Kazu Okumura, Dr. , Hajime Tanida, Dr. , Tomoya Uruga, Dr. , Haruyuki Nakanishi, Dr. , Shin-ichi Matsumoto, Dr. , Yasuhiro Inada, Dr. , Masaharu Nomura, Prof. Dr. and Yasuhiro Iwasawa, Prof. Dr.
Angewandte Chemie Vol.119, Issue 23, 4388 - 4393 (2007), Published Online: 4 May 2007


<参考資料>

図1 燃料電池の原理図
図1 燃料電池の原理図

水素(アノード触媒側)と空気(カソード触媒側)から電気を生む。そのエネルギー効率は83%と非常に高く、自動車エンジンの約3倍にもなる。

 


 

図2 N<sub>2</sub>雰囲気下での1.0 → 0.4 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt L<sub>III</sub>端のEXAFS振動、および、N<sub>2</sub>雰囲気下での0.4 → 1.0 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt L<sub>III</sub>端のEXAFSフーリエ変換
図2 N2雰囲気下での1.0 → 0.4 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt LIII端のEXAFS振動、
および、N2雰囲気下での0.4 → 1.0 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt LIII端のEXAFSフーリエ変換

N2雰囲気下での1.0 → 0.4 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt LIII端のEXAFS振動(左)新型のX線吸収微細構造法(QXAFS)により測定。

N2雰囲気下での0.4 → 1.0 Vの電位変化過程におけるPt/Cカソード触媒のPt LIII端のEXAFSフーリエ変換(右)Pt-Pt及びPt-O結合の数と距離が分かる。

 


 

図3 燃料電池の運転条件下でXAFSスペクトルを測定するために作製したシステム(<strong>SPring-8</strong>に設置した時のシステムセットアップ図)
図3 燃料電池の運転条件下でXAFSスペクトルを測定するために作製したシステム(SPring-8に設置した時のシステムセットアップ図)

 


 

図4 今回測定と解析に成功した燃料電池ナノPt粒子触媒の構造変化と電子状態変化
図4 今回測定と解析に成功した燃料電池ナノPt粒子触媒の構造変化と電子状態変化

 


<用語解説>

(説明1) Time-gating QXAFS (TG-QXAFS)法
 従来のQXAFS法はひとつのXAFS(説明3参照)スペクトルを測定するのに15秒程度がかかり、電極反応のように速い過程を追跡できない。本法では、1秒ずつ切り出して(time-gating)測定したXAFSスペクトルを合成することにより全スペクトルを得ることで1秒の時間分解能を実現した。

(説明2) エネルギー分散型XAFS (DXAFS)
 通常のXAFSはモノクロメーターで放射光からのX線のエネルギーを掃引しスペクトルを得るが、 DXAFS(Dはdispersive)法では、放射光を湾曲Si結晶により焦点を結ばせその焦点に試料を置くことでスペクトルを位置敏感型検出器により一挙に測定してしまう方法であり、今回、世界最速の4ミリ秒の時間分解能で燃料電池触媒の変化をリアルタイム観察することに成功した。DXAFS測定は加速器研究機構放射光科学研究施設(PF)で行った。

(説明3) XAFS
 X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure)の略。放射光からのX線を物質に照射するとX線吸収スペクトルに波打ちが現れる。これをEXAFS(広域XAFS)振動とよぶ。この振動をフーリエ変換して、散乱関数によりフィッティング解析するとPt-PtやPt-O結合の距離や数が求まる。触媒ナノ微粒子のような長距離構造秩序のない物質の構造情報を与えうるほとんど唯一のその場(in situ)観察手法である。


<本件に関する問い合わせ先>

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 助手
 唯 美津木 (ただ みづき)
 Tel:03-5841-4364/Fax:03-5841-4364

東京大学大 学院理学系研究科 化学専攻 教授
 岩澤 康裕
 Tel:03-5841-4363/Fax:03-5800-6892(注:2007年4月1日より)

<SPring-8についての問い合わせ先>

財団法人高輝度光科学研究センター 広報室
 Tel:0791-58-2785/Fax:0791-58-2786
 E-mail: kouhou@spring8.or.jp