2008年ヘルムホルツ・フンボルト研究賞を大阪大学 菅滋正教授が受賞(トピック)
- 公開日
- 2008年06月24日
- 受賞
受賞者紹介
菅 滋正 大阪大学 大学院 基礎工学研究科 教授
功績名
バルク敏感光電子分光による固体物理学研究
2008年のヘルムホルツ・フンボルト研究賞に大阪大学基礎工学研究科の菅滋正教授(62)が選ばれた。日本人研究者として初である。
菅教授の業績は電子間相互作用の強い、いわゆる強相関電子系物質のバルク(母体)の電子状態を大型放射光施設SPring-8の高エネルギー放射光を用いて光電子分光の手法で世界に先がけて解明したことである。同教授は1976年から放射光光電子分光の手法を用いた研究をDESY(ドイツシンクロトロン研究所)の客員研究員、東京大学物性研究所SOR施設の初代専任助教授として推進し、1989年に大阪大学教授に着任後は、文部省高エネルギー物理学研究所フォトンファクトリーならびにARリングを用いた研究を同研究所客員教授として推進した。大型放射光施設SPring-8の建設に際しては、諸外国では考えられもしなかった軟X線光源としての利用とそれを用いたバルク敏感光電子分光を開拓することを目標に、分光系から、実験系までを一貫して設計・建設・立ち上げした。この作業は1990年代半ばから始まったが、東大物性研から阪大にわたって指導育成した若手研究者や大学院生を投入するなど研究室の総力を上げたものであった。特にtwin-helicalアンジュレーターの採用は軟X線分光の分野でSPring-8が世界をリードするきっかけとなった。このSPring-8の軟X線固体分光ビームラインBL25SUは建設後今日まで世界最高の分光実験装置としての性能を維持し、バルク敏感光電子分光という新分野を開拓したことは世界的に高く評価されている。さらに2002年頃にはそれまでの常識を覆す軟X線角度分解光電子分光にも世界で初めて成功し強相関電子系のバルク3次元フェルミオロジーを成功させた。また硬X線エネルギーでの光電子分光(HAXPESと呼ぶ)の重要性にいち早く着目しESRFとSPring-8の理研 物理科学II ビームライン BL19LXUを用いた研究を開始したがここでも世界をリードする研究を続けている。これらの研究の着想だけでなく、常に若手研究者の参加をはかり次世代を担う研究者を育成してきた功績は諸外国研究者からも高く評価されている。同教授は光電子分光研究にとどまることなく、常に新しい計測手法の開拓や新しい学問分野の開拓にも情熱を注いできた。ミクロ・ナノ磁性の研究に今や必須となっている光電子顕微鏡(PEEM)は同教授とドイツのKirschner教授の共同研究としてわが国ではじめて1998年から2年間にわたりSPring-8の完全円偏光の出せる軟X線固体分光ビームライン BL25SUで行われたものである。またナノ磁性研究の切り札と考えられているスピン偏極走査トンネル顕微鏡(spinSTM)は同教授と大阪教育大学ならびにドイツのMax-Planck微細構造研究所やKarlsruhe大学などとの共同研究として成果を上げつつある。同教授にはこのように強相関電子系とナノ磁性の分野で今後ドイツとの強力なプロジェクト研究の推進が期待されている。同賞の授賞式は6月24日、ベルリンで行われた。年2回の授賞式のうち今回は同賞受賞は菅教授1名のみ、並行して行われたフンボルト賞受賞は30名であった。
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