45億年前の太陽系でおこった大規模な物質移動を示唆する物的証拠を世界で初めて発見 - 太陽系外縁天体の成り立ちの解明と新しい太陽系形成モデルへのマイルストーン -(プレスリリース)
- 公開日
- 2008年09月19日
- BL47XU(光電子分光・マイクロCT)
2008年9月19日
九州大学
九州大学、茨城大学、大阪大学、ウィスコンシン大学、NASA、高輝度光科学研究センター、産業技術総合研究所の研究グループ(代表:九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門 中村智樹 准教授)は共同研究により、短周期彗星(太陽系外縁天体)が放出した極微小物質から、太陽系内部の高温領域で形成されたコンドリュールを同定することに成功しました。発見されたコンドリュールの酸素同位体比は、太陽系内部の小惑星帯に存在する始原天体のコンドリュールと類似することから、原始太陽系星雲においてコンドリュールが内側から外側に向けて移動していた可能性が高いことがわかりました。この物質移動は現在の太陽系形成モデルで完全に説明することは困難であり、新しい太陽系形成モデルが必要になります。 (論文) |
《背 景》
太陽系の始まりには、太陽のまわりにガスと塵からなる円盤が存在していたと考えられています。その円盤内部で塵が合体成長して微小天体が形成され、さらに微小天体が衝突合体を繰り返して現在の惑星系が誕生したと考えられます。塵から微小天体が形成されるまでの太陽系の初期進化は、円盤内側領域については、太陽系の内側で形成された小惑星から飛来した隕石の研究によりある程度理解されていますが、円盤外側領域については良くわかっていませんでした。
短周期彗星は、太陽系形成期に円盤外側領域で形成された小天体の生き残りです。したがって、短周期彗星の構成物質を調べることができれば、円盤外側領域の太陽系の初期進化が解明されると期待されていました。米国NASAにより打ち上げられた太陽系探査機スターダストは、短周期彗星81P/ビルド2に接近し、彗星が放出した数多くの塵を回収し、2006年1月に地球に持ち帰ることに成功しました。本論文はそれらの塵の研究により得られた成果です。
《内容および今後の展開》
スターダスト探査機が回収した彗星の塵に対し多段階高精度分析を行った結果、摂氏1500度以上の高温に短時間熱せられた塵を複数発見しました。これらの塵に含まれる結晶の種類や元素存在度、塵の三次元構造は、初期太陽系の中心領域に数多く存在していた高温物質コンドリュール※1に酷似していることがわかりました(図1(A)と(B))。(三次元構造の測定は、大型放射光施設SPring-8の光電子分光・マイクロCTビームラインBL47XUの放射光を使って行われました。)このことは形成期の太陽系において、コンドリュールは円盤内側領域だけでなく外側領域にも存在していたことを示し、したがって、コンドリュールは初期太陽系に普遍的に存在していたことを示唆します。
発見された塵の結晶に含まれる酸素の同位体比は、太陽系の内側で形成されたコンドリュールの同位体比と同じであることがわかりました。したがって、彗星のコンドリュールは太陽系の内側で形成され、その後外側に移動した可能性が高いということになります。太陽系外側領域においては、内側から飛来した高温物質と、もともとその領域に存在していた低温物質が集合することにより小天体が形成されたことがわかりました。
酸素同位体比分布を精査すると、彗星のコンドリュールは、小惑星帯の中心および外側に多く分布する小惑星のコンドリュールに最も似ていることがわかりました(図1(C))。このことは、円盤内部でのコンドリュールの移動が、時間的、空間的に制約された条件でおこった可能性を示します。このような物質移動を完全に説明できる太陽系形成モデルは存在せず、したがって、本研究の発見は今後の新しい太陽系形成モデルの構築につながります。
本研究では、初期太陽系における高温物質コンドリュールの空間分布に関して重要な知見が得られましたが、今後は彗星のコンドリュールの形成年代を求めることにより、コンドリュールの分布の時間変動も把握し、太陽系全域での初期進化過程の全容解明に取り組みます。
《参考資料》
(図1)スターダスト探査機が回収したコンドリュールに似た彗星の塵のデータです。(A)塵の断面の電子顕微鏡像です。いくつかの鉱物(Ol、Px、Sp、K)とガラス物質(Gl)からなる。火成岩的な組織を示すことから、この塵は形成時に高温下で溶融しました。Siは探査機に搭載された塵を捕獲するための物質(シリカエアロジェル)です。GFは塵を保持するガラス棒です。(B)この塵を構成する鉱物には酸素が多く含まれます。図中の黒い穴は酸素同位体比を測定したスポットです。スポット番号は図(C)のグラフ内の番号と対応しています。(C)酸素同位体比の測定結果です。右下の挿入図は、本図中のデータが重なっている部分を拡大したものです。塵の酸素同位体比は不均一で散らばっていますが(図中丸と三角のデータポイント)、そのばらつきが炭素質隕石に含まれるコンドリュール(C-chondrule)の酸素同位体比の組成分布内に収まっています。このことは彗星のコンドリュールが、小惑星帯の中心から外側に分布する始原天体に含まれるコンドリュールと最も良く似ていることを示します。 |
《用語解説》
※1 コンドリュール
Mg,Si、Oを主成分とするケイ酸塩鉱物とガラス物質から主に構成される直径1mm以下の固体微粒子です。太陽系形成初期に円盤内で塵が高温に加熱され溶融してできました。小惑星から飛来する隕石に多く含まれ、一部の隕石では体積の80%以上を占めることがわかっています。したがって、コンドリュールは多くの小惑星の主要構成物質です。小惑星は太陽系の内側領域で形成されたため、コンドリュールも太陽系の内側で形成されたと考えられています。
(問い合わせ先) (報道担当) (SPring-8に関すること) |
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