光合成酸素発生反応における謎を解明(プレスリリース)
- 公開日
- 2009年05月18日
- BL41XU(構造生物学I)
平成21年5月18日
岡山大学
岡山大学大学院自然科学研究科沈 建仁教授の研究グループは、大阪市立大学の神谷信夫教授のグループと共同で、長年の謎であった、植物の光合成酸素発生反応における塩素イオンの役割を、タンパク質の立体構造解析により突き止め、米国科学アカデミー紀要電子版に平成21年5月11日発表した。 (論文) |
《業績》
岡山大学、大阪市立大学の共同研究グループは、酸素発生型光合成生物※1であるラン藻※2から、光化学系IIと呼ばれる膜タンパク質※3複合体を単離・結晶化し、大型放射光施設SPring-8※4の構造生物学 I ビームラインBL41XUの放射光を利用して構造解析しました。その結果、酸素発生活性中心に結合した2つの塩素イオンを同定し、その機能を明らかにしました。
光合成の酸素発生反応は、太陽の光エネルギーを利用して生物利用可能の化学エネルギーに変換するとともに、水を分解し、生物の生存に必要な酸素を作り出しています。光合成に塩素イオンが必要であることは、60年以上前に示唆されていましたが、その詳細な作用機構は分かっていませんでした。
研究グループは、塩素イオンの代わりに臭素またはヨウ素で置換した光化学系II複合体を結晶化し、その構造(図1)を解析することにより、塩素イオンの結合部位(図2)を初めて可視化し、その作用機構を解明しました。
《見込まれる成果》
酸素発生反応は、太陽光エネルギーを効率よく化学エネルギーに変換し、酸素と水素イオンを作り出しています。今回の成果は、この反応の詳細な機構を解明するのにつながるものです。酸素発生反応の詳細な機構の解明により、太陽光エネルギーの高効率人工利用が可能となると期待されています。
《参考資料》
《用語解説》
※1 酸素発生型光合成生物
光エネルギーを吸収して、二酸化炭素(CO2)を有機物に還元するとともに、水を分解して酸素を発生する光合成を行う生物の総称。高等植物や各種藻類がある。
※2 ラン藻
ラン色細菌、シアノバクテリアなどとも呼ばれ、原核生物であり、酸素発生型光合成を行う生物の中で進化的に最も原始的な生物である。最初の酸素発生型ラン藻は今から約27億年前に出現したと推定されている。今回研究グループが使用したのは、温泉由来の、55度で生育する好熱性ラン藻Thermosynechococcus vulcanusである。
※3 膜タンパク質
生体膜の中に存在しているタンパク質の総称。水溶性が低いため、結晶化しにくく、結晶構造解析が水溶性タンパク質に比べ困難である。
※4 大型放射光施設SPring-8
兵庫県西播磨にある第3世代放射光施設。タンパク質の構造解析に必要な強いX線を提供する。今回グループが使用したのは、SPring-8の構造生物学 I ビームラインBL41XUである。
(問い合わせ先) (SPring-8に関すること) |
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