高輝度放射光分析で白金ナノ粒子付着の高感度可視化に成功(プレスリリース)
- 公開日
- 2010年01月07日
- BL24XU(兵庫県ID)
2010年1月7日
パナソニック電工株式会社
パナソニック電工株式会社では、放射光ナノテク研究所※1(大型放射光施設SPring-8※2内)の協力を得て、毛髪表面に付着する極微量の白金ナノ粒子の高感度な可視化に成功しました。これまで、毛髪表面に付着する極微量の白金ナノ粒子※3の可視化は、付着白金の量がナノグラム※4レベルの極微量であり、しかも、ベースが毛髪という生体組織であるため、通常の分析手段・機器では極めて困難でした。 例えば、電子線を利用する※5機器は無機物質分析には高感度・高精度ですが、被照射体が毛髪の場合、電子線照射部分の毛髪表面が焼けて損傷し可視化には適しません。 また、毛髪にダメージを与えないX線を利用する※5通常の分析機器では、X線輝度が極めて低くナノグラムレベルの物質検出は不可能でした。今回、SPring-8の世界最高性能※6の高輝度放射光を使用したマイクロビーム蛍光X線分析※7を行うことにより、毛髪を損傷させることなく、ナノグラムレベルの付着白金の高感度検出が可能になりました。 ミクロン※8サイズに絞った高輝度X線を利用することにより倍率1000倍に相当する顕微鏡としての性能を併せ持つため、キューティクルを一枚一枚数えられる拡大像レベルで白金ナノ粒子の付着分布(マッピング像)を得ることができ、その付着の微細構造が世界で初めて※9明らかにすることができました。 (学会発表) |
《検証方法と結果》
当社独自の白金ナノ粒子発生装置を用い、白金ナノ粒子を3時間連続噴霧した健康な人毛髪と噴霧しない人毛髪を用意し、この2種の人毛髪に、人工紫外線を連続30日(12ヶ月相当)照射した後、高輝度放射光によるマイクロビーム蛍光X線分析(SPring-8 兵庫県IDビームラインBL24XU)を実施しました。
この結果、白金ナノ粒子を3時間噴霧した人毛髪では未処理の人毛髪と比較して、付着量が1ナノグラムレベルという極微量でも白金固有の蛍光X線が明瞭に観察されました。 一方、噴霧しない人毛髪では白金固有の蛍光X線はまったく観察されませんでした。
なお、この検証結果については、第64回 SCCJ研究討論会※10(2009年6月17日開催)で発表しています。
検証概要
従来の抗酸化効果の計測(毛髪表面のキューティクルの剥離状態を観察し、キューティクル剥離の量から抗酸化効果を評価)と、高輝度放射光によるマイクロビーム蛍光X線分析(SPring-8 兵庫県IDビームラインBL24XU)による計測を実施。
• 共同試験機関:
放射光ナノテク研究所(大型放射光施設SPring-8内)
• 試験時期:
2009年2月
• 試験方法:
・試験条件:
当社独自の白金ナノ粒子発生装置を用い、白金ナノ粒子を3時間連続噴霧(距離: 毛髪から10ミリメートル、付着量:毛髪1本当たり1ナノグラムレベル)した健康な人毛髪と 噴霧しない人毛髪を用意し、この2種の人毛髪に、7月の東京都江東区に太陽から 降り注ぐ紫外線量ピーク値相当の人工紫外線を連続30日(12ヶ月相当)照射。
・白金ナノ粒子の抗酸化効果の確認:
上記2種類の人毛髪を光学顕微鏡で毛髪表面のキューティクルの剥離状態を観察 し、キューティクル剥離の量から抗酸化効果を評価した。
・白金ナノ粒子の人毛髪付着の可視化:
上記2種類の人毛髪に高輝度放射光によるマイクロビーム蛍光X線分析(SPring-8 兵庫県IDビームラインBL24XU)を実施。 測定方法は、毛髪1本の両端を固定保持し、直径が約1ミクロンに絞られた高輝度X線を0.2ミクロンステップで毛髪表面上をXZ方向に走査しながら照射した。 そして、毛髪および付着物質から放出される元素固有の蛍光X線を高感度X線検出器およびX線ビーム位置の高精度検出器で計測し、コンピューター処理を経て1000倍拡大像として再現。元素マッピング像を得、白金元素のマッピング像を図に示した。
検証結果
・白金ナノ粒子の抗酸化効果の確認:
白金ナノ粒子を3時間噴霧した人毛髪では未処理の人毛髪と比較して、紫外線照射 に対してキューティクル剥離量が抑制されており、今回の白金ナノ粒子の噴霧量で 抗酸化効果があることを確認した。
・白金ナノ粒子の人毛髪上付着の可視化:
図に示したように、上記で抗酸化効果を確認した人毛髪では、付着量が1ナノグラム レベルという極微量でも白金固有の蛍光X線が明瞭に観察された。一方、噴霧しない 人毛髪では白金固有の蛍光X線はまったく観察されなかった。一般的に、体内で吸収 された種々の金属元素が毛髪に蓄積されているが、白金という希元素は通常は毛髪 内部に蓄積されていないという事実から本結果は妥当と考えられる。 注目すべきは、キューティクル表面に均一に白金ナノ粒子が分散して付着している のではなく、重なるキューティクルの段差(約0.5ミクロン)のあるエッジ部に偏在している。 白金ナノ粒子の抗酸化効果発現にこの付着状態が関係していることを示している。
《参考》
白金ナノ粒子による毛髪、皮膚の抗酸化※11作用はよく知られています。 毛髪や肌は 紫外線を浴びることでその表面から活性酸素※12が発生します。 この活性酸素により、 例えば毛髪の場合、キューティクル剥離などのダメージを受けます。 白金はその触媒作用 によって活性酸素を除去する抗酸化作用があると言われており、化粧品やサプリメントなど 様々な用途で利用されています。
《用語解説》
※1 放射光ナノテク研究所
放射光の産業利用を一層推進していくため、兵庫県が大型放射光施設SPring-8の敷地内に開設した研究所。
※2 大型放射光施設SPring-8
SPring-8は、国(文部科学省)の管轄下にある施設で、日本原子力研究所と理化学研究所が共同で建設し、財団法人高輝度光科学研究センターが運営・管理する大型放射光施設。
※3 白金ナノ粒子
白金元素で構成された10億分の1メートル近傍の大きさの粒子。
※4 ナノグラム
10億分の1グラムの単位。
※5 電子線/X線による分析
物質の構成元素の同定法は、電子線やX線をプローブとして試料に照射し、これらが物質と相互作用した結果放出される元素固有の電子線やX線を検出して行う。
※6 世界最高性能の高輝度放射光
詳細についてはこちらをご覧下さい。
※7 マイクロビーム蛍光X線分析
一般的に蛍光X線分析とは、X線を照射し試料に含まれる元素固有の蛍光X線を放出させ物質の同定を行う機器分析手法。SPring-8では、照射X線サイズをミクロンレベルに絞っても高輝度を保つことができる。
※8 ミクロン
100万分の1メートルの単位。人毛髪の直径は約60ミクロンと細い。
※9 世界で初めて
2010年1月7日現在、毛髪表面の極微量金属付着の可視化の検証(試験)においての当社調べ。
※10 SCCJ研究討論会
化粧品の研究開発から製造に携わる技術者への情報提供と交流を目的とした日本化粧品技術者会が主催する化粧品に関する研究発表会。
※11 抗酸化
活性酸素から体を守る(活性酸素を抑える)作用のこと。
※12 活性酸素
酸素が化学的に活性化した化学種を指す用語で、一般に非常に不安定で強い酸化力を発現する。
(問い合わせ先) (報道関係問い合わせ先) ホームページ http://panasonic-denko.co.jp/ (SPring-8に関すること) |
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