世界で初めて地球中心の超高圧高温状態を実験室内で実現−地球内部のあらゆる物質が人工合成可能に−(プレスリリース)
- 公開日
- 2010年04月05日
- BL10XU(高圧構造物性)
平成22年4月5日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京工業大学
財団法人高輝度光科学研究センター
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球内部ダイナミクス領域の廣瀬敬招聘上席研究員(兼務:国立大学法人東京工業大学教授)・巽好幸プログラムディレクター、東京工業大学(学長 伊賀健一)の舘野繁彦特任助教及び財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 白川哲久)利用研究促進部門の高田昌樹部門長・大石泰生主幹研究員らは、レーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置を用いて、地球の中心に相当する超高圧・超高温の状態(364万気圧、5,500度)を実験室内で実現することに、世界で初めて成功しました。この技術により、地上にある物質を用いて地球内部に存在するあらゆる物質を人工的に合成することが初めて可能になりました。 |
1.背景
地球(半径6,400km)の内部は、何層にもわたる成層構造を成しています(図1)。私たちが立っているのはケイ酸塩により構成される岩石からなる地殻で、その厚さは5 kmから30kmほどです。地殻の下にはやはり固体の岩石からなるマントルがあり、深さ2,900km(136万気圧)まで続いています。マントルの内側には金属コアが存在し、深さ5,100km(329万気圧)までが液体コア(外核)、中心部には固体コア(内核)があります。
ダイヤモンド鉱山などでは、深さ200km程度までの部分から、マグマと一緒に地表に上がってきた岩石を見つけることができますが、それより深い部分から岩石を手にすることはできません。そこで、高圧高温実験によって、200kmより深い部分の岩石や金属を人工的に合成し、その性質を調べる研究が盛んに行われています。地球の内部の構造や地球の成り立ちを理解するには、このような高圧高温実験がきわめて重要となります。 しかしながら、地球の内部は高圧高温の世界で、中心は364万気圧、5,000度以上にも達することから、そのような超高圧高温状態を実験で実現することは、これまで世界中の誰も成功していませんでした。それゆえ、地球の金属コアについてはまだまだ多くの謎が残されており、さまざまな物性予測や地震学的データの解釈に必要な結晶構造の情報すら得られていなかったのです。地球中心に相当する圧力・温度の状態を実現することは、地球深部に関する実験的研究の究極の目標でした。
2.実験手法と結果
これまでレーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置(図2)を用いて、超高圧超高温発生の技術開発に取り組んできました。ダイヤモンドアンビルは、対向する二つのダイヤモンドの間に試料を挟み(図3)、圧力を発生させる装置で、数ある高圧発生装置の中でもっとも高い静的圧力を発生することができます。さらにダイヤモンドを通して試料に近赤外レーザーを照射することにより、超高圧下で超高温を発生させることができます。約10年もの間、ダイヤモンドの先端部の形状にさまざまな工夫を加え、またあらゆる部品の加工精度を1ミクロン以下に抑えるなどの努力を積み重ねてきた結果、このたびついに364万気圧・5,500度という超高圧超高温の発生に世界で初めて成功するに至りました。ちなみに、これまでの記録は300万気圧・1,700度であり、これも本研究グループが2005年に達成したものでした。
そのような超高圧下にある試料はごく微量です。今回は、ダイヤモンドの先端の平坦部(直径40ミクロンのほぼ円形)に20ミクロンの試料をつめて実験を行いました。このような極微小試料の分析は容易ではありませんでしたが、世界最大の大型放射光施設SPring-8※1の高圧構造物性ビームラインBL10XUの高輝度X線を用いることにより、構造解析が可能となりました。
3.今後の展望
今回、地球中心に相当する364万気圧・5,500度に至る、超高圧超高温実験に成功しました(図4)。地球中心はおろか、固体コア(内核)の圧力温度が実現されたのも世界で初めてのことです。本成果により、地球内部すべての圧力・温度状態を実験室内で実現することが可能になり、地球を構成するあらゆる物質を合成することができるようになりました。地球深部には依然として様々な未解明の問題があります。なかでも液体コア(外核)に10%ほど含まれているとされる軽元素(水素、炭素、酸素、ケイ素、硫黄など)の成分は50年以上にわたって議論されてきましたが、未だにわかっていません。これら軽元素は地球形成時にコアに取り込まれたものと考えられるため、その正体をつきとめることにより、地球形成のシナリオ作りに大きく貢献することができます。本成果を応用し、コアの圧力温度を直接実現した実験を行うことは、これらを理解するための最も有効な手段です。
また、近年次々と発見される太陽系外の地球型惑星(スーパーアース)や、木星、土星などの巨大ガス惑星の内部構造やダイナミクスはほとんどわかっていません。これらの惑星はサイズが地球よりも大きいために、内部の圧力温度は地球よりもずっと高くなります。本成果で得られた高圧高温発生技術をさらに発展させることで、これら惑星の内部構造についての理解も進むことが期待されます。
《参考資料》
図4 超高圧高温の発生
APS:Advanced Photon Source(米国エネルギー省が設置)
ESRF:European Synchrotron Radiation Facility(ヨーロッパ等19カ国が設置)
《用語解説》
※1 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設。その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8ではこの放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っている。
《問い合わせ先》 財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員 (報道担当) 国立大学法人東京工業大学 (SPring-8に関すること) |
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