原始地球、マントルの底に広がるマグマの海が広がっていた-マントル深部におけるマグマの状態を解明-(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年04月25日
- BL10XU(高圧構造物性)
- BL12XU(NSRRC ID)
平成23年4月25日
東京工業大学
東京工業大学の広瀬敬教授、野村龍一大学院生らは海洋研究開発機構、台湾の國家同歩輻射研究中心などと共同で、地球の下部マントルにおけるマグマの化学組成や密度を解明し、マントル深部のマグマは周囲の岩石より重いことを突き止めた。 (論文) |
1.研究の背景と経緯
一般に液体のマグマは固体(岩石)のマントルよりも軽いため、マグマは地表へ向かって上昇し、火山を形成する。しかし液体のマグマは岩石よりも圧縮されやすい上、マグマは岩石よりも鉄分に富む傾向があるため、マントル深部においては重たいマグマの存在が示唆されていた。
さらに、マントルの底には地震波の超低速度域が観測されることが知られている(図1)。この超低速度域の成因として、重たいマグマがマントルの底に存在している可能性が指摘されていた。
しかしマントル深部は超高圧・高温下にあるため、そのように重たいマグマの存在を実験で確かめることは極めて困難であった。そのため、マントル深部にマグマが存在し得るかどうかについては、これまで推測の域を出ていなかった。
2.成果
同研究グループはマントル深部に相当する超高圧超高温環境をつくり出す実験装置「レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル(図2)」を開発。この装置を用いた超高圧超高温実験をこれまで精力的に行ってきた。
今回、東工大および大型放射光施設SPring-8の高圧構造物性ビームライン(BL10XU)において、160万気圧・摂氏4000度までの高圧高温下で、ケイ素・マグネシウム・鉄の酸化物を主成分とするマントル物質を部分的に融解させてマグマを作る実験を行い、世界で初めてマントル深部のマグマの化学組成を決定することに成功した。その結果、深さ約1800kmに対応する75万気圧付近で、融け残りの固体マントル物質中の鉄分が急に乏しくなる一方、融けてできたマグマ中の鉄分が上昇することが明らかになった。
さらにSPring-8の台湾ビームライン(BL12XU)における測定に基づき、マグマに含まれる鉄イオン中の電子の配置が高圧下で変化したことにより(スピン転移)、鉄はマグマに入りやすくなったことを突き止めた。
以上の実験で得られた化学組成からマグマの密度を計算すると、深さ1800kmを境に、マグマが周囲の固体マントル(岩石)よりも重くなることがわかった(図3)。すなわち、深部マントルでは、マグマは下へ沈むことを意味している。
地球が誕生して間もない頃、地球表層はマグマの海(マグマオーシャン)に覆われていたとされる。今回の成果は、そのようなマグマの海は、地球表層部のみならず、岩石マントル下にも広がっていたことを強く示唆している(図4)。
過去に行われた計算によれば、固体マントル下のマグマの海が固化するスピードはかなり遅い。そのため、今でもマントルの底に重いマグマがわずかに残っている可能性が高い。現在マントルの底に観測される地震波の超低速度域(図1)は、このような太古のマグマの海の名残りと考えられる(図4)。
3.今後の展開
今回開発した超高圧高温実験技術により、マントル深部のマグマの研究がようやく可能になった。今後、マグマの海の形成・固化プロセスを詳細に調べていくことにより、地球の初期進化に関する理解が大きく進むものと期待される。
《参考資料》
赤は観測されるところ、青はされない領域を示す。Lay他(1998 Nature)より引用。
マントル物質を二つのダイヤの間に挟み、超高圧下でレーザー加熱を行って、実験室でマグマを作る。
深さ約1800km以深では、マグマが鉄分に富むようになるため、マグマの密度が急に大きくなり、周囲の固体マントルと密度逆転を起こす。
原始地球において、固体(岩石)マントルの下に広がっていた重たいマグマの海は、ゆっくりと冷却され、現在でもわずかに残っている可能性が高い。それが地震波の超低速度域としてマントルの底に観測される。
《問い合わせ先》 國家同歩輻射研究中心(台湾) (SPring-8に関すること) |
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