ゲノムのメチル化模様維持を触媒する酵素の立体構造を解明-がん細胞を制御する創薬の開発につながる-(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年04月26日
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
2011年4月26日
大阪大学
大阪大学蛋白質研究所の田嶋正二研究室と中川敦史研究室は共同で、ゲノムにつけられたメチル化模様の印を次の世代の細胞に伝える酵素の立体構造を大型放射光施設SPring-8(BL44XU)を用いたX線結晶構造解析により明らかにしました。 ゲノムのメチル化模様はさまざまな組織で異なり、かつ、特徴的です。ゲノムのメチル化模様は遺伝情報の“エピジェネティクス※1”による制御調節に最も重要であると考えられています。ゲノムのメチル化模様はDNA が複製されるときに 正確に次の世代の細胞に伝えられますが、これを担うのがDnmt1 と呼ばれる酵素です。ゲノムのメチル化模様の維持が障害されると細胞は生きていけません。しかし、どのようにしてDnmt1 によってメチル化模様が維持され ているのかについては良く分かっていませんでした。今回、Dnmt1 の立体構造が明らかになったことによって、どのようにしてメチル化模様が維持されているのかについて手がかりが得られ、その複雑な調節の一端を明らかにすることができました。 この成果により、無制限に増殖を続けるがん細胞を制御する創薬の開発につながることが期待できます。 なお、この成果は、"Structural insight into maintenance methylation by mouse Dnmt1"「マウスDNA メチルトランスフェアーゼ1(Dnmt1)によるメチル化模様維持の構造的な面からの考察」と題する論文(PNASMS#2010-19629RR)で公表されます。論文は早ければ4月25日(日本時間4月26日午前5時)の週にProceedings of the National Academy of Sciences USA インターネット版で公開されます。 (論文) |
《参考資料》
図1 マウス由来Dnmt1の結晶構造(2.75Å)
Dnmt1の構造は、N末端からDnmt1をDNAの複製開始点に局在させるための配列である複製部位標的化シグナル(RFTS, 桃色)、CxxC(水色)と2つのBAHドメイン(緑色、橙色)が領域構造を形 成して、C末端の触媒ドメイン(青色)のまわりに配置されている。驚くべきことに、RFTSは触媒ポケットに突き刺さった位置におり、そのままではメチル基受容基質であるヘミメチル化DNA※2が結合できない構造であった。このRFTSを欠損させたDnmt1との活性比較から、RFTSを触媒ポケットからリリースさせる機構の存在が予想された。
バクテリアのメチルトランスフェラーゼとの類似性から、Dnmt1の触媒中心に位置する1229番目のシステイン残基は標的シトシン塩基の6位の炭素と反応中間体として共有結合を形成することが予想される。メチル基供与基質であるAdoMetとの複合体構造を解析によると、このシステイン残基の側鎖は結合が予想されるDNAのシトシン塩基の方向にフリップしていた。バクテリアのメチルトランスフェラーゼではAdoMetの結合だけではこのようなシステイン残基側鎖のシトシン塩基の6位の炭素方向へのプリップは見られず、Dnmt1に特徴的である。
DNAを結合したバクテリアのメチルトランスフェラーゼの複合体構造をもとにして、ヘミメチル化DNAをDnmt1の触媒領域構造(青色)に重ねると、バクテリアのDNAメチルトランスフェラーゼで標的配列を認識するとされる、TRD(target recognition domain)がちょうどメチル化標的シトシンの反対鎖のメチル化シトシンに覆いかぶさるように位置すると予測された。このTRDがヘミメチル化DNAを認識する上で重要であることが予想される。
《用語解説》
1)エピジェネティクス
私達の体を構成する蛋白質の情報はゲノム(DNA)の塩基配列に書き込まれていることは間違いないのですが、一卵性双生児のように全く同じゲノムの塩基配列を持っていても、まったく同じ人間にはなりません。遺伝子の塩基配列は変わらないのに、遺伝子の発現が変化することがあります。このように遺伝子の塩基配列に依らない遺伝子の発現調節で、次の世代の細胞に伝えられる機構を“エピジェネティクス”と呼んでいます。DNA の修飾やゲノムが折りたたまれている構造の調節がこれにあたります。
2)ヘミメチル化DNA
2本鎖DNAの片一方の鎖がメチル化された状態。DNA複製後に新たに生じた娘DNA鎖は一時的にメチル化されておらず、ヘミメチル化状態にある。
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