高分子・有機機能材料などのソフトマター新素材開発の産学連携拠点がSPring-8で本格始動 - 従来一日近くを要した材料解析実験が1分以内で高速かつ精密に -(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年05月05日
- BL03XU(フロンティアソフトマター開発産学連合)
平成23年5月2日
フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体
財団法人 高輝度光科学研究センター
大型放射光施設SPring-8を利用する「産」と「学」の強力な連携によって結成された「フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体」は、昨年、「専用ビームライン」を建設し、試験的運用を行ってきましたが、このたび目標とする世界トップレベルの計測性能を達成したことを最終的に確認し、その成果は、Nature社が刊行する科学雑誌Polymer Journalの5月号に掲載されました。 1)太陽電池などの有機薄膜やデバイスの接着界面など、ソフトマター新素材開発の鍵を握ると言われている「界面のミクロ構造」や「接着のメカニズム」など「薄膜材料評価」のための専用の装置を備えていること(第1実験ハッチ)。 現在、19の日本の代表的な化学・繊維企業等と20の国立大学を中心とする学術機関からなるグループが、成形加工装置等の大型ユニットや開発途上の新素材を持ち込んで、本ビームラインにおいて本格的な利用を開始しました。産学連合体は、本ビームラインを用いることで、これまでよく判らなかったソフトマターの構造を分子レベルで調べることができます。このことにより新規機能を実現できる構造の解明研究が加速するだけでなく、製造プロセス中の構造変化を調べることで、新しい製造プロセスの開発も期待されます。 (論文) |
1.背景
フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン(FSBL)は、日本の代表的化学・繊維企業と大学等の学術研究者とで構成される19研究グループ※2が、「フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(以下、産学連合体)」を形成し、運営まで行うビームラインであり、独立行政法人理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の協力を得て、設置場所BL03XUに完成した我が国で始めてのソフトマター専用のビームラインです。
FSBLという超強力な構造解析ツールを用いることで、微量/微小領域に対する適用のみならず、製造プロセスや外場環境下におけるナノからミクロレベルでの高速な動的構造変化などを明らかにすることが可能となります。図2にサブナノメートルから数百ナノメートルの構造を評価する広角X線散乱・小角X線散乱同時測定システムの写真を示します。
2.成果
FSBLでの最初の計測試料は、日本での純国産第一号の合成高分子繊維であるビニロンの1955年頃工業化当時に試作された極細繊維一本です(図3(a))。1950年代当時のX線回折写真撮影ではビニロンを何本も束にして行われ、撮影には数時間から一日はかかりましたが、今回完成したFSBLでは、これまで不可能であった「極細繊維」一本からの階層構造を、短時間で明らかにすることができました。図3(b)はわずか20秒のX線照射により2次元検出器で検出された散乱イメージです。得られた像は非常にシャープであることがわかります。しかも、非常に弱く、小さな散乱角度まで明瞭に観測できたことから、高分子が形成する微結晶は、不規則なガラス状態に近いアモルファスと交互に18.5ナノメートルの周期で規則正しく並んだ秩序構造を有していることがわかりました(図4のメソ※3構造)。また、図3(c)のシャープ且つ鮮明な散乱パターンでは、微結晶中の高分子鎖が繊維軸方向に、ミクロレベルの精度で分子配向していることがわかりました。
このような精密な構造を極めて短時間で測定できることがFSBLの大きな特徴です。この論文発表ではビニロンを代表的な例として取り上げていますが、現在、19社が取り扱っている先端材料や環境材料に関するデータが蓄積されつつあります。
3.展開
今後、様々な外部環境下における動的構造物性を解明するためのその場測定法と第二実験ハッチ(図5(a))に用意されている3m × 3m × 4mのキネマティックマウントスペース(図5(b))に成形加工用の大型装置を導入することで、製造プロセス過程での詳細な階層構造評価を実施することが可能となります。重合・光反応・表面処理などの化学反応、射出成形・紡糸・延伸・熱処理などのプロセス工学、変形・破壊などの物性評価と放射光X線散乱法の組み合わせにより、ソフトマターの基礎科学・工学の発展のみならず、我が国の震災復興に貢献する革新的素材開発、新産業の育成が期待されます。
《参考資料》
図1:PolymerJournal5月号表紙
計測条件 波長:0.1nm,真空パス長:(b)3m,(c)30cm、検出器(b)Image Intensifier + CCD検出器(浜松ホトニクス(株)製)、(c) Imaging Plate (R-AXIS VII ㈱リガク製)、試料:昭和50年代試作品、日本でビニロンの合成に成功した京都大学桜田一郎教授の門下生(高槻会)より京都大学化学研究所(金谷利治教授)に寄贈された繊維(借用品)。
《用語解説》
1)グリーン・サステイナブルケミストリー
自然と調和した持続成長可能な化学工業のあり方を提言するものであり、化学製品の生産から廃棄までのライフサイクルにおいて生態系への影響を最低限にし、経済的効率性を向上させる目的のグリーンケミストリーと、リサイクルも含めた省資源化を通じた持続可能な産業のあり方の提案のサステイナブルケミストリーを、両方推進するという提案である。
2)以下の企業メンバー19社各社に、学術メンバーの大学が加わることで19研究グループを構成。
企業メンバー(19社)/旭化成株式会社、関西学院大学、キヤノン株式会社、株式会社クラレ、昭和電工株式会社、住友化学株式会社、住友ゴム工業株式会社、住友ベークライト株式会社、株式会社デンソー、東洋紡績株式会社、東レ株式会社、日東電工株式会社、株式会社ブリヂストン、三井化学株式会社、三菱化学株式会社、三菱レイヨン株式会社、横浜ゴム株式会社、帝人株式会社、DIC株式会社
学術メンバーの所属機関(20機関)/関西大学、北九州市立大学、九州大学、京都大学、京都工芸繊維大学、神戸大学、首都大学東京、信州大学、Stony Brook University、東京工業大学、東京工芸大学、東京農工大学、東京大学、豊田工業大学、長崎大学、名古屋工業大学、広島大学、三重大学、山形大学、(独)産業技術総合研究所
3)メソ
「中間」。ここでは、階層構造における中間スケールを表す。数十〜数百ナノメートル。
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