細胞の中で働く巨大なモータータンパク質の構造を解明(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年05月23日
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
平成23年5月23日
大阪大学
この度、大阪大学蛋白質研究所の昆隆英准教授と栗栖源嗣教授の研究グループが、ダイニンモーターの全体構造を、運動機能がある状態で構造解析し、この巨大な分子モーターが長い脚のような構造を使って細胞の中を歩く仕組みの一端を明らかにしました。 なお、X線結晶構造解析データは、大型放射光施設SPring-8の生体超分子複合体構造解析ビームライン(BL44XU)を用いて収集しました。 (論文) |
私たちの体を構成する細胞内では、分子モーターとよばれるタンパク質群が、化学エネルギーを力学的運動へと変換することで、多種多様な細胞運動を駆動しています。ミオシンモーターは、アクチンという繊維状フィラメントの上を滑り運動することで筋収縮を引き起こします。キネシンとダイニンとよばれる2種類の分子モーターは、細胞内レールである微小管上を直進運動することで、多様な細胞内物質の長距離輸送を行います。これら3種類の主要分子モーターのうち、『ダイニン』は、その分子としての巨大さと複雑さゆえに研究が困難であり、分子モーターの中で唯一、その全体の立体構造が判っていませんでした。
今回、私たちの研究グループは、細胞性粘菌がもつダイニンモーターを完全に機能する状態で結晶化し、その立体構造を世界に先駆けて明らかにしました(図1)。その結果、ダイニンはATPを加水分解するAAA+リングと呼ばれる部位から2本の長い脚が突き出した構造をしており、これら2本の脚を構造変化させながら微小管上を移動していることがわかりました。また、力発生を担うレバーアーム様の構造(リンカー構造)がAAA+リングを跨ぐように位置しており、このレバーアームがスイングすることにより力を発生していることを示唆する構造を見ることができました。これらの構造的特徴は、従来知られていたミオシンやキネシンとは全く異なるものであり、ダイニンは、新しい運動の仕組みによってレール上を運動する第三の分子モーターであることが明らかになりました。
ダイニンモーターはヒトの細胞内では、細胞内物質輸送や細胞分裂において必須の役割を果たしています。また、精子の尾部に代表される繊毛・鞭毛の波打ち運動を駆動する唯一の分子モーターでもあります。この度の研究結果は、これら生体に重要な細胞運動がどのような仕組みで駆動されているのか、その基本的な仕組みを明らかにした重要な研究成果であるといえます。
《参考資料》
リング状のAAA+構造の上をリンカー構造(紫)が橋渡ししており、長い脚のような構造部位(黄色と橙色)が確認できる。微小管と呼ばれるレールと結合するのは、黄色の脚の先端の小さな球状部分である。
《問い合わせ先》 准教授 昆 隆英(こんたかひで) (SPring-8に関すること) |
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