花咲かホルモン(フロリゲン)の受容体を世界で初めて発見 − 自在に時期を変えて花を咲かせる技術の開発、穀類の増収やバイオ燃料の増産に期待(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年08月01日
- BL41XU(構造生物学I)
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
2011年8月1日
国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
花を咲かせる植物のホルモン(花咲かホルモン、フロリゲン)が葉で作られたあと、茎の先端部で受け取る受容体を、奈良先端科学技術大学院大学(学長:磯貝彰)バイオサイエンス研究科の島本功教授、田岡健一郎助教、大木出助教、辻寛之助教、大阪大学蛋白質研究所の児嶋長次郎准教授らが世界に先駆け発見した。[14-3-3]と呼ばれるタンパク質が受容体として働くことをつきとめ、さらにフロリゲンと受容体を含む複合体の立体構造を原子レベルの解像度で決定したもの。フロリゲンと受容体との結合強度をさまざまに変化させることで、花を咲かせる時期を変化させることにも成功した。 島本教授、児嶋准教授らは、イネの花咲かホルモン(フロリゲン)の実体であるHd3aタンパク質が複数のタンパク質と結合して花を咲かせると考え、どのようなタンパク質と結合しているのかを調べた。その結果Hd3aは、真核生物に広く保存されている14-3-3タンパク質や、DNA結合タンパク質のOsFD1と共に、Hd3a-14-3-3-OsFD1の3つのタンパク質からなる複合体 (フロリゲン活性化複合体)を形成することを発見した。この複合体の立体構造をNMR解析及び大型放射光施設SPring-8の構造生物学IビームラインBL41XUおよび生体超分子複合体構造解析ビームラインBL44XU(大阪大学蛋白質研究所の専用ビームライン)を用いたX線結晶構造解析によって明らかにし、精密なモデリング技術で解析したところ、複合体は6量体であり、左右対称なW字型となってDNA上に結合していることが分かった。さらに複合体が細胞内でどのように構築されるのかをバイオイメージング技術を用いて解析したところ、フロリゲンは、細胞質で14-3-3タンパク質に受容され、その後Hd3a-14-3-3複合体として細胞質から核内へと移動し、OsFD1とさらに高次のフロリゲン活性化複合体を形成し、初めて花芽形成遺伝子を活性化できることが明らかになった。この結果により、花咲かホルモン(フロリゲン)Hd3aタンパク質の細胞内受容体は14-3-3であり、Hd3a-14-3-3-OsFD1複合体(フロリゲン活性化複合体)がフロリゲン機能の実体であることが示された。 (論文) |
《解説》
どうして発見できたのか?
今回の発見は、分子生物学、構造生物学、細胞生物学、バイオイメージングなどさまざまな最新の実験手法を用いて行ったことが成功につながった。3つのタンパク質が複合体を形成することを示すのは非常に困難であるとされてきたが、X線結晶構造解析や新しいバイオイメージングなどの高度な技術を駆使することで証明することができた。さらに、フロリゲン活性化複合体の機能を明らかにするために植物への遺伝子の導入と精密な遺伝子発現の解析が必要であったが、これらの解析技術の進歩も貢献した。つまり、タンパク質の構造と機能を解析する実験方法の進歩が今回の発見をもたらしたと言える。
花成ホルモン(フロリゲン)はどうして細胞の核内に運ばれるのか?
今回の研究においてはフロリゲンの核移行のしくみは完全には明らかになっていない。フロリゲンは受容体と結合した時に初めて核タンパク質OsFD1と複合体を形成できることから、受容体が核移行に重要な役割を持つと想像できるが、これらは今後、解決すべき課題である。
花成ホルモン(フロリゲン)の受容体発見と複合体の構造解明はどういった効果をひきおこすのか?
フロリゲンの受容体が明らかになり、フロリゲン活性化複合体の立体構造が原子レベルで明らかとなったことから、フロリゲンの受容を増強もしくは阻害する物質をデザインできるようになり、花の咲く時期を自由に制御できる可能性が見えてきた。実際に、フロリゲンのアミノ酸を変化させ、フロリゲンと受容体との結合強度を操作することで、花を咲かせる時期を変化させることにも成功した。さらに、今回発見したフロリゲンと受容体はいずれもどの植物にも存在すると考えられることから、すべての花や樹木、作物の開花を制御するために役立つ。つまり、今回の発見により、園芸分野および穀類や樹木の増産に大きな可能性を生み出す事が期待される。
《用語解説》
Hd3a 遺伝子
イネの開花促進遺伝子として単離された。島本研究室においてこれまで、開花の短日植物(イネ、アサガオ)と長日植物(ダイコン、シロイヌナズナ)の違いが、Hd3a遺伝子の発現の制御の違いによって起こること(Nature誌に2003年発表)が示されていた。次いで、Hd3aと緑色蛍光タンパク質GFPを融合してHd3aの挙動を追跡する実験の結果から、Hd3aタンパク質が葉で合成された後に花のできる組織である茎の先端へ移動し、花芽形成を開始させる様子が観察されたことから、フロリゲンの実体であることが証明された(Science誌に2007年発表)。
葉で作られたフロリゲンは、維管束を通り、花を咲かせる茎の先端へ運ばれる。茎の先端の細胞で、フロリゲンはまず細胞質で14-3-3受容体と結合する。その後、Hd3a-14-3-3複合体の形で核内へと移動し、OsFD1とさらに高次の複合体(フロリゲン活性化複合体)を形成する。このフロリゲン活性化複合体は、花芽の形成を引き起こす遺伝子の制御領域に結合し、この活性化する。活性化された遺伝子は、開花を促進する一連の遺伝子を活性化し、花が咲く。
3つのタンパク質、Hd3a, 14-3-3, OsFD1が各2個からなる6量体のフロリゲン活性化複合体がフロリゲン活性の本体であり、その構造を決定した。DNAとの結合部位はモデリングによって構築した。赤:フロリゲン、青:14-3-3タンパク質(受容体)緑:OsFD1転写因子でありDNAに結合する。
《問い合わせ先》 大阪大学 蛋白質研究所 機能構造計測学研究室 (SPring-8に関すること) |
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