新しい鉄白金系高温超伝導体の発見(プレスリリース)
- 公開日
- 2011年09月15日
- BL02B1(単結晶構造解析)
- BL02B2(粉末結晶構造解析)
2011年9月15日
岡山大学
岡山大学大学院自然科学研究科の野原実教授(物性物理学)、工藤一貴助教(物性物理学)、垣谷知美(大学院生)らの研究グループは、鉄と白金を含む新しい高温超伝導体を発見した。超伝導転移温度は絶対温度38ケルビン(摂氏マイナス235度)で、鉄系超伝導体として知られる物質群の中では3番目に高いものである。この成果は、Journal of the Physical Society of Japan(日本物理学会欧文誌)9月号に"Editors' Choice(注目論文)"として公表される。 (論文) |
岡山大学大学院自然科学研究科先端基礎科学専攻・野原実教授(物性物理学)、工藤一貴助教(物性物理学)、垣谷知美(大学院生)の研究グループは、名古屋大学大学院工学研究科マテリアル理工学専攻・澤博教授(構造物性学)の研究グループと共同で、化学式 Ca10(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5で表される新しい鉄白金系高温超伝導体を発見しました。超伝導*1を示す転移温度は絶対温度38ケルビン(摂氏マイナス235度)で、いわゆる鉄系超伝導体*2の中では3番目に高いものです。
鉄系高温超伝導体は、超伝導を担う鉄ヒ素(FeAs)層と、スペーサーと呼ばれる層間物質が交互に積み重なった原子配列を持っています。このスペーサー層の化学組成と原子配列を工夫することで、より高い温度での超伝導が実現できると考えられており、世界中の研究者が新しい元素の組み合わせを探求していました。今回発見した超伝導体は、化学組成Ca10(Pt4As8)で表される、これまでに無い元素の組み合わせによる新しいスペーサー層を含むもので、新しい高温超伝導材料の創製*3につながるものとして注目されています。
今回発見されたCa10(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5は、原子配列の繰り返しのユニットに21個もの原子が含まれています*4。大型放射光施設 SPring-8の単結晶構造解析ビームライン(BL02B1)及び粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)を用いた放射光X線回折実験によって、このような複雑な原子配置の決定がはじめて可能になりました。SPring-8で決定された原子配列は三斜晶系で、この超伝導体は、既存の超伝導体のなかで最も対称性が低く、最も複雑な原子配置を持つ高温超伝導体であるといえます。
この成果は、Journal of the Physical Society of Japan(日本物理学会欧文誌)9月号に"Editors' Choice(注目論文)"*5 として公表されます。(電子版は8月17日に公表されました。)
《補足説明》
*1 超伝導
今からちょうど100年前の1911年、オランダのカマリン・オネスが超伝導を発見しました。超伝導転とは、移温度以下の低い温度で電気抵抗(電気の損失)がゼロになる現象で、今日では、医療用MRI(磁気共鳴映像)やリニアモーターカー用の超伝導磁石として実用化されています。また、シャープ亀山工場では超伝導エネルギー貯蔵(SMES)装置による電力の安定供給(瞬低補償)が行われています。超伝導線によるゼロ損失の送電を実用化するには、より高い温度で超伝導を示す材料を開発する必要があります。この超伝導送電が実用化できれば、100万kW級の原子炉6基が1年間に発電する電力を節約できることになります。また、サハラ・ソーラー・ブリーダー計画では、サハラ砂漠で太陽光発電し、超伝導線による世界への送電が考えられています。
*2 鉄系超伝導体
2008年に東京工業大学の細野秀雄らのグループが鉄系超伝導体を発見しました。現在までに、GdFeAsOにおいて最高の超伝導転移温度56ケルビン(摂氏マイナス217度)が実現されています。
それに続くのが、東京大学の下山淳一らのグループが発見した絶対温度47ケルビン(摂氏マイナス226度)で超伝導を示すCa4(Mg,Ti)3O8Fe2As2などの物質群、第三が、ドイツのJohrendtらが発見した絶対温度38ケルビン(摂氏マイナス235度)で超伝導を示すBa1-xKxFe2As2などの物質群です。
今回、岡山大学で発見されたCa10(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5の超伝導転移温度は38ケルビン(摂氏マイナス235度)であり、この第三の物質群に比肩するもので、鉄系超伝導体の中で世界3位タイの記録といえます。
*3 新しい高温超伝導材料の設計指針
東京大学大学院工学系研究科応用科学専攻の下山淳一准教授(超伝導工学)が、Journal of the Physical Society of Japan(日本物理学会欧文誌)のホームページの "News and Comments" に、「(岡山大で)発見されたCa(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5と同じ、あるいは類似した結晶構造を持つ化合物から、より高い転移温度を持つ超伝導体が見つかるかもしれない」とコメントを寄せています。
*4 最も対称性が低く、最も複雑な原子配置
大型放射光施設 SPring-8での放射光X線回折実験から決定した原子の配列を図1に示します。超伝導を担うFeAs層と、スペーサー層と呼ばれるCa10(Pt4As8)層が交互に積層した2次元的な原子配置が特徴です。
*5 Editors’ Choice(注目論文)
Journal of the Physical Society of Japan (日本物理学会欧文誌)9月号に掲載される全45報の論文の中から、今回発見した新超伝導体の論文を含む2報の論文が "Editors' Choice(注目論文)" に選ばれ、論文の著者ひとり一人に賞状が授与されました(写真1)。これらの2報の論文については、(今回の記者発表とは別に)日本物理学会欧文誌からのプレス発表が予定されています。
《参考資料》
《問い合わせ先》 岡山大学大学院自然科学研究科 (SPring-8に関すること) |
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