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半正多面体から星形多面体をかたちづくる −ひとりでに組み上がり形状変換できる立体分子−(プレスリリース)

公開日
2012年03月12日
  • BL38B1(構造生物学III)

2012年3月12日
東京大学

 プラトンの立体(正多面体)やアルキメデスの立体(半正多面体)の形を持つ分子は、多くの化学者の興味を引き、その人工合成が達成されてきている。本研究では、複雑な構造ゆえに合成が難しかった凸型の表面を持つ「星形多面体」を自己組織化によって100%の効率で作り出した。鍵となる手法は、立方八面体型の分子(アルキメデスの立体の一種)を一度作り、この分子に突起部を付け加えることで星形化した立方八面体に変換する合成法であり、また突起部を除くことで元の立方八面体に戻すこともできた。

本研究成果は、科学誌「Nature Chemistry」に掲載予定で、掲載に先立ち、Advance Online Publication (AOP) web版にて、英国時間2012年3月11日18時(米国東部夏時間同日14時)に公開されます。

(論文)
"An M18L24 stellated cuboctahedron through post-stellation of an M12L24 core".
Qing-Fu Sun, Sota Sato and Makoto Fujita
Nature Chemistry Published online 11 March 2012

発表内容:
 美しい立体は、古来より数学者を魅了し、全ての面が同じ正多角形で構成される「プラトンの立体(正多面体)」や、全ての面が正多角形で構成され頂点の形状が合同である「アルキメデスの立体(半正多面体)」、さらに、これらの多面体の各面や各辺を広げてできる凸型の面を持つ「星形多面体」などに分類されます。化学者も、この立体形状の美しさに惹かれて、さまざまな立体構造の分子を人工合成し、その形によってさまざまな機能が生み出されることを見つけてきました。東京大学工学系研究科 藤田誠教授らの研究グループは、ものづくりに携わる化学者として、新しい立体分子の合成に挑んでおり、一義構造※1の分子を100%の効率でつくり出すためには自己組織化※2という方法が有効であることを実証してきました。

 今回、同研究グループは、複雑であるがゆえに誰も作りだせなかった「星形多面体」の分子を金属イオン(M)と湾曲した有機配位子※3(L)の組み合わせによって初めて自己組織化させることに成功しました(図13参照)。立体の頂点がM、辺がLに対応しています。アルキメデスの立体の一種である立方八面体の分子(M12L24組成)をまず構築し、次に6つの頂点を追加することでM18L24組成の星形化した立方八面体が作りだせることを発見しました。M12L24組成の分子、M18L24組成の分子のどちらもが、大きさや成分数にいっさい分布がない一義構造をとっていて、この構造だけが100%の効率で生成します。

 この研究で明らかになった重要な点は、以下の通りです。
(1) 前例のない凸平面を有する「星形多面体」の分子を、自己組織化を使って人工的に構築した。
(2) 立方八面体の分子を土台として、突起部を付加することで星形多面体に変換した。
(3) 生成物から突起部を取り除くことで元の立方八面体の分子に戻した。形状が可逆的に変換できる新しい立体分子であることがわかった。

 より複雑な多面体を作るためには、既知の多面体分子を土台に使うとよいことがわかってきました。また、構造を自在に変換できることは、新しい機能をひきだす上で大切な知見となります。たとえば、自然界においては、球状のウイルスの殻構造は一義構造であることが知られています。あるウイルスは殻に窓をもっていて、可逆的に窓を開けたり閉めたりすることで殻の内外の物質の出入りを制御しています。今回合成した分子においても、星形化することで分子表面の窓を閉じられたことがX線結晶構造解析によってわかりました。将来、窓が閉じた状態で立体内部に薬剤を閉じ込めて、良いタイミングで窓を開いて薬剤を放出する、などの分子の機能を活用した応用例が期待されます。


本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。
(1) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
  研究領域:「ナノ界面技術の基盤構築」(研究総括:新海 征治 崇城大学 教授)
  研究課題名:自己組織化有限ナノ界面の化学」
  研究代表者:藤田 誠(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
  実施年度:平成19〜24年度

(2) 文科省科学研究費補助金・新学術領域研究
  研究領域:「分子ナノシステムの創発化学」(領域代表:川合知二 大阪大学 教授)
  研究課題名:数十 - 数百成分一義構造体の創発的自己集合
  研究代表者:藤田 誠(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
  実施年度:平成20〜24年度

(3) X線結晶構造解析データは、大型放射光施設SPring-8 構造生物学IIIビームライン(BL38B1)および高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー(KEK) PF-AR NE3Aビームラインで収集しました。


《参考資料》

図1 立方八面体と星形化した立方八面体
図1 立方八面体と星形化した立方八面体


図2 単結晶構造解析によって明らかになった立方八面体の分子
図2 単結晶構造解析によって明らかになった立方八面体の分子


図3 単結晶構造解析によって明らかになった星形化した立方八面体の分子
図3 単結晶構造解析によって明らかになった星形化した立方八面体の分子


《用語解説》
*1 一義構造

立体構造を構成するユニットの数や集まり方が厳密に決まっており、かたち、大きさ、重さ(分子量)にいっさい分布を持たない、厳密に定まった構造。

*2 自己組織化
小さな構成成分が自然と集まって、秩序だった巨大構造がうみだされる現象。今回の合成においては、金属イオンと配位子という小さな構成成分が、それぞれ18個と24個ずつ集まって巨大な星形化された立方八面体がかたちづくられた。

*3 配位子
金属イオンと弱い結合を作る性質を持つ分子のこと。この弱い結合が協同的に働くことによって金属イオンと配位子とが結びつきあい、一つの立体的な分子へと組み上がる。



《問い合わせ先》
 藤田 誠 教授
  東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻
   TEL:03-5841-7259 FAX:03-5841-7257
   E-mail:mail

(高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーに関すること)
 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
   TEL:029-879-6047 FAX:029-879-6049
   E-mail:mail

(SPring-8に関すること)
 高輝度光科学研究センター 広報室
  TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
  E-mail:kouhou@spring8.or.jp