大型放射光施設 SPring-8

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レアメタルフリー構成のナトリウムイオン蓄電池の実現につながる研究成果(プレスリリース)

公開日
2012年04月30日
  • BL02B2(粉末結晶構造解析)
資源が豊富な元素である鉄とマンガンからなるレアメタルフリーの新規電極材料の開発に成功
ナトリウムイオンを用いた次世代のエネルギー貯蔵技術確立への可能性を示す

2012年4月30日
東京理科大学 科学技術交流センター(承認TLO)

 東京理科大学・総合研究機構 藪内 直明 (やぶうち なおあき)講師、同・理学部第一部応用化学科 駒場 慎一 (こまば しんいち) 准教授らの研究グループは、ナトリウムイオン電池用電極材料としてレアメタルを必要としない新規鉄系層状酸化物の合成に成功し、その研究成果に関して英国科学雑誌『Nature Materials』(http://www.nature.com/nmat/)において発表されます。

 これまで駒場准教授らの研究グループは、現在高性能電池に広く用いられているリチウムの代わりとして、資源が豊富なナトリウムを電気エネルギー貯蔵に利用するという基礎研究を2005年から進めており、これまでに炭素材料と層状酸化物を用いることにより、リチウムを全く用いずに常温で作動する新しいエネルギーデバイス「ナトリウムイオン電池」の立証に成功しています。その成果に関しては2011年8月に独国科学雑誌『Advanced Energy Materials』に掲載され、ナトリウムイオン電池は将来的にはスマートグリッド用の定置用大型電池や電気自動車の電源として応用が可能な技術として世界中から大きな注目を集めました。
 今回の研究成果は、東京理科大学・総合研究機構 藪内 直明 講師、同・理学部第一部応用化学科 駒場 慎一 准教授、理学部第二部化学科 山田 康洋 教授らと株式会社GSユアサ(本社:京都市南区、代表取締役社長 依田 誠)が共同で、新規鉄系層状酸化物の合成に成功し、鉄、マンガン、ナトリウムという資源が豊富な元素を組み合わせることでレアメタルフリー構成を実現し、さらに、これまでの材料と比較して電池のエネルギー密度を向上させることが可能であることを見出しました。これらの研究成果はリチウムやコバルト、ニッケルといったレアメタルを一切必要としない、高エネルギー密度の蓄電デバイスの可能性について世界に先駆けて示すものです。研究成果の詳細につきましては、添付の参考資料をご参照ください。
 また本研究の一部は、総合科学技術会議により制度設計された最先端・次世代研究開発支援プログラム※1(研究代表者:駒場慎一)により、日本学術振興会を通して助成されたものです。また、実験の一部は大型放射光施設SPring-8 (ビームライン: BL02B2) 、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所のフォトンファクトリー (ビームライン: BL-7C) の設備を用いて行いました。

(論文)
"P2-type Nax[Fe1/2Mn1/2]O2 made from earth-abundant elements for rechargeable Na batteries"
Naoaki Yabuuchi1, Masataka Kajiyama1, Junichi Iwatate1, Heisuke Nishikawa2, Shuji Hitomi2, Ryoichi Okuyama2, Ryo Usui3, Yasuhiro Yamada3 and Shinichi Komaba1
Nature Materials 11, 512–517 Published online 29 April 2012
1 Department of Applied Chemistry, Tokyo University of Science, 1-3 Kagurazaka, Shinjuku, Tokyo 162-8601, Japan,
2 R & D Center, GS Yuasa International, 1 Inobanba-cho, Nishinocho, Kisshoin, Minami-ku, Kyoto 601-8520, Japan,
3 Department of Chemistry, Tokyo University of Science, 1-3 Kagurazaka, Shinjuku, Tokyo 162-8601, Japan.

研究背景
 限られたエネルギー資源を効率良く利用するために、電気自動車や余剰電力を有効的に使うことを目的とした電力スマートグリッドシステムなどの技術開発に期待が集まっています。また、太陽光、風力など自然エネルギーの有効利用に、高度な蓄電技術が求められています。電気自動車や自然エネルギーの積極利用に際し、共通した根幹技術となるのが電気エネルギーを蓄える「蓄電池」です。現在、蓄電池としてリチウムイオン蓄電池が日常生活において広く利用されています。近年では電子機器用の小型電源 (~10 Wh) だけではなく、電気自動車用の大型電源 (~20,000 Wh) として利用されるまでになっています。リチウムイオン蓄電池はエネルギー密度の観点では、非常に魅力的ですが、リチウムイオン電池の基本構成要素であるリチウムに目を向けてみると、リチウムそのものが地球の地殻中にわずか 20 ppm (0.002 %) 程度しか存在しない元素、いわゆるレアメタルであり我が国はリチウム資源を輸入に依存しているという問題を抱えています。またコバルト、ニッケル、銅などのレアメタル無くしては作ることができません。結果として、余剰電力や自然エネルギーの蓄電目的 (~1,000 kWh クラス) にはリチウムイオン蓄電池を用いることはコスト的にも資源的にも制約を受けると考えられています。
 これまでに、本研究グループはレアメタルの一種であるリチウムの代わりとして、日本においても無尽蔵な資源である「ナトリウム」に着目して研究を進めてきました。これまでに炭素材料とニッケル・マンガン層状酸化物を用いることにより、リチウムを全く用いずに常温で作動する新しいエネルギーデバイス、「ナトリウムイオン電池」の立証に成功しています。その成果に関しては2011年8月に独国科学雑誌『Advanced Functional Materials』に掲載され、ナトリウムイオン電池は将来的には定置用大型電池や電気自動車用途へと応用が可能な技術として世界中から大きな注目を集めました。このようにレアメタルであるリチウムのナトリウムへの置き換えには成功しましたが、その一方で、ニッケルという別のレアメタルが必要であり、高エネルギー密度なレアメタルフリーの電極材料は知られておらず、大きな課題と考えられていました。

図1
図1

(左) ナトリウムイオン電池の動作原理模式図、(右) ラミネート型リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池(試作)の写真

研究成果の概要
 これまで、鉄系の層状酸化物としてアルファ型のナトリウム含有鉄酸化物(NaFeO2)が知られていました。しかし、エネルギー密度は高く無く、一般的なリチウム電池用の正極材料と比較して6割程度のエネルギー密度しか得られず、また、電池としてその繰り返し特性も十分であるとは言えませんでした。今回の研究では、鉄を50%ほどマンガンで置換することにより、これまでの層状構造とは異なるP2型として分類可能な層状材料の合成に成功しました(図2)。

図2
図2

(左) 従来型層状酸化物と(右) 今回発見された新規Fe系層状材料の比較、ナトリウムイオンに対する酸素の配位環境が異なっていることがわかる。

 この新規鉄系材料(Naz2/3[Fe1/2Mn1/2]O2)のナトリウム電池のエネルギー密度(正極重量ベース)を評価したところ、電気自動車用のリチウム電池で広く用いられているスピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)やリン酸鉄リチウム(LiFePO4)に匹敵するか、それ以上のエネルギー密度である500 mWh/gのエネルギー密度が得られることがわかりました(図3)。

図3
図3

各種ナトリウム含有正極材料のエネルギー密度の比較

 これは、これまでに報告されているナトリウムイオン電池用の正極材料として最も高い値であり、さらに、電池に求められる繰り返し特性にも優れることがわかっています。これらの研究成果は将来的にはリチウムやコバルト、ニッケルといったレアメタルを一切用いることなく、現状のリチウム電池に匹敵する高エネルギー密度の蓄電池が実現可能であることを示しました。レアメタルフリーと高エネルギー密度が両立可能なナトリウムイオン蓄電池は、将来的には自然エネルギーの有効利用、スマートグリッド用の定置用大型電池、さらには電気自動車用の電源としての実用化が期待されます。


《用語解説》
*1 最先端・次世代研究開発支援プログラムについて

本プログラムは、将来、世界をリードすることが期待される潜在的可能性を持った研究者に対する研究支援制度であり、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)において掲げられた政策的・社会的意義が特に高い先端的研究開発を支援することにより、中長期的な我が国の科学・技術の発展を図るとともに、我が国の持続的な成長と政策的・社会的課題の解決に貢献することを目的とします(日本学術振興会の公募要項より抜粋)。


本成果に関わる研究課題
「サステイナブルエネルギー社会を実現するナトリウムイオン二次電池の創製」平成22–25年度
研究代表者 駒場 慎一



《問い合わせ先》
 東京理科大学 駒場研究室
  准教授 駒場 慎一
    TEL:03-5228-8749

 東京理科大学 駒場研究室
  講師 藪内 直明
    TEL:03-3260-4272(内線5783)
     E-mail:mail1

(当プレスリリースの担当事務局)
 東京理科大学 科学技術交流センター(承認TLO)
  企画管理部門 担当:松下
    TEL:03-5228-8090 FAX:03-5228-8091

(SPring-8に関すること)
  公益財団法人 高輝度光科学研究センター 広報室
    TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
     E-mail:kouhou@spring8.or.jp