放射光・中性子・理論計算の協奏研究が英国物理学会の2012年のハイライト論文に選出 -DVD、Blu-rayとして動作しないアモルファス構造の全貌を明らかに-(プレスリリース)
- 公開日
- 2013年03月11日
- BL04B2(高エネルギーX線回折)
2013年3月11日
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
国立大学法人 山形大学
高輝度光科学研究センター(JASRI)と山形大学が、ユバスキュラ大学(フィンランド)、ユーリッヒ総合研究機構(ドイツ)と共同で行った研究成果が、英国物理学会(The Institute of Physics : IOP)の凝縮系物質関連雑誌「Journal of Physics: Condensed Matter」における年間の傑出した成果として、2012年のハイライトに選ばれました。 (論文) |
研究の背景と経緯
私達の身の周りには、太陽電池、ガラス、DVD、BD等、いたるところでアモルファス物質が用いられ、アモルファス物質の存在なしに日常生活は成り立たないと言えます。アモルファス物質は、結晶と異なり、規則正しく原子が並んでいませんが、その不規則な原子の並び方がどういうものか、またその並び方をつかさどる原子の中の電子状態がどうなっているかは分かっていませんでした。このような構造情報の不足により、アモルファスのもつ機能の起源を調べることができず、新たな材料開発は試行錯誤に頼るしかありませんでした。
研究の内容
本研究グループは、これまでDVD、BD材料の研究を精力的に行ってきましたが、今回、Ge-Te合金の中でも、実用材料と組成が異なるためにDVD、BDとして動作せず、よりアモルファスになりやすいGe15Te85を研究対象としました。Te原子の位置情報を得るために大型放射光施設SPring-8の高エネルギーX線回折(※3)ビームライン(BL04B2)でX線回折実験を行い、Ge原子の位置情報を得るためにKEKのパルス中性子施設KENSのHIT-IIを用いて中性子回折(※3)実験を行いました。さらに、ユーリッヒ総合研究機構のスーパーコンピュータを用いて大規模第一原理分子動力学計算と逆モンテカルロシミュレーション(※4)を併用することにより、X線及び中性子の回折実験データを忠実に再現し、アモルファスの乱れた原子配列及びそれを安定化させる電子状態を決定することに成功しました。そして、このアモルファスになりやすい物質には多くの空隙が存在し(図1)、ほとんど空隙が存在しないDVD、BD材料と大きく異なっていることを明らかにしました。
今後の展開
これまで、アモルファスの構造を一意的に求めることは困難とされてきましたが、今回の研究成果は放射光X線回折実験、中性子回折実験、大規模理論計算という3つの大型研究施設を用いた実験・理論計算の組み合わせにより、アモルファスの構造物性研究を飛躍的に進化させたと言え、その功績が学術雑誌のハイライトとして評価されました。アモルファス材料の研究には、今回の様な協奏的研究が必須であるため、今後、日本が有する世界最先端研究施設SPring-8、J-PARC、「京」の連携利用により、日本主導によるアモルファスの構造物性研究が更に加速され、大きなブレークスルーにつながることが期待されます。
《参考図》
(a)全体図、(b)上面図、(c)下面図、(d)側面図
赤色:Ge、黄色:Te、水色:空隙、マゼンタ:空隙の中心(aのみ)
《用語解説》
※1 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用促進はJASRIが行っている。SPring-8の名前は、Super Photon ring-8 GeVに由来する。ほぼ光速で進む電子が、磁石などによってその進行方向を変えられると接線方向に電磁波が発生する。これが「放射光(シンクロトロン放射)」と呼ばれるものであり、電子のエネルギーが高く進む方向の変化が大きいほど、X線などの短い波長の光を含むようになる。放射光施設の中でも特に第三世代の大型放射光施設と呼ばれるものには、世界にSPring-8、アメリカのAPS、フランスのESRFの3つがある。SPring-8での電子の加速エネルギー(80億電子ボルト)の場合、遠赤外から可視光線、真空紫外、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができ、国内外の研究者の共同利用施設として、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野で利用されている。
※2 アモルファス
結晶のように三次元的に規則正しい原子配列を持たない固体物質のことを指し、ガラス材料もその一種である。非晶質とも呼ばれる。
※3 X線回折と中性子回折
物質にX線(中性子)が入射したとき、入射した方向とは違ったいくつかの特定の方向に強いX線(中性子)が進む現象。ある規則に従って原子が配列した集合体、すなわち物質にX線(中性子)を入射すると、それぞれの原子からの散乱波が互いに干渉しあい、特定の方向にだけ強い回折波が進行する。X線は原子内の電子で散乱され、中性子は原子核で散乱されることから、その散乱能が両者で異なることが多い。今回の場合は、X線回折はTeに、中性子回折はGeに敏感であることから、両者の併用は乱れた構造の決定において非常に有効である。
※4 逆モンテカルロシミュレーション
対象とする物質の密度を持つ立方体セルの中に存在する原子を乱数を用いて動かし、ガラス・液体・アモルファスの回折実験データを再現する構造モデルを求めるシミュレーション法。
《問い合わせ先》 国立大学法人山形大学 理学部物質生命化学科
(SPring-8に関すること)
(山形大学に関すること) |
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