リチウムイオン電池正極材料の非平衡な相変化挙動を世界で初めて観察 ~高速充放電可能な蓄電池の実現へ~(プレスリリース)
- 公開日
- 2013年04月10日
- BL28XU(革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発)
2013年4月10日
国立大学法人 京都大学
京都大学 折笠有基 助教*、小山幸典 特定准教授**、福田勝利 特定准教授**、荒井創 特定教授**、内本喜晴 教授*らの研究グループは、京都大学と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が共同で推進している革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト:PL 小久見善八特任教授**)の一環で、リチウムイオン電池に用いられる電極材料の相変化過渡状態を明らかにし、高速充放電可能な蓄電池材料のメカニズムを解明しました。 (論文) |
背 景
リチウムイオン電池はエネルギー密度やエネルギー変換効率の高さから、高性能蓄電池としてモバイル機器の電源などに広く用いられ、社会の発展に貢献してきました。近年では、環境・エネルギー問題の観点から、電気自動車用電源、電力貯蔵用蓄電池等への適用が求められておりますが、さらなる性能向上は必須であります。特に自動車用電源としては高速充放電特性が重要であり、十分な加速性能や、ガソリン給油並みの短時間充電を実現するには、大幅な特性向上が必要です。
リチウムイオン電池の正極材料であるLiFePO4は安価な鉄を原料としており、安定性も高く、一部実用化されています。興味深いのは、充放電前後での物質の体積変化が大きく、反応進行中の歪が大きいと想定されるにも関わらず、優れた高速充放電反応が可能である点であり、これまで種々の検討がなされてきましたが、高速反応を実現するメカニズムは不明でした。これはリチウムイオン電池中における電極材料の変化を充放電反応時にリアルタイムで観測することが難しかったことに起因します。高速反応を実現するメカニズムを明らかにできれば、今後の電極材料開発が飛躍的に進展すると考えられます。
今回の成果
本研究では、電極材料の結晶構造・電子構造変化をリアルタイムで観測可能な、「時間分解X線回折法」、「時間分解X線吸収分光法」を、リチウムイオン電池動作環境で測定可能な実験系へ組み込み、高速充放電時における電極材料の相変化挙動解明に挑みました(図1)。X線源には大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることで、充放電反応中の構造情報を連続的に取得しました。
高速充放電可能な正極材料であるLiFePO4は充放電反応中には熱力学的に安定な二つの相の間で反応することが知られています。高速充放電中の結晶構造を時間分解X線回折測定により解析した結果、安定な二相に加え、中間の格子定数を有する固溶相LixFePO4相が生成していることを初めて発見しました(図2)。LixFePO4相の出現量は充放電速度が速いほど多く、定常状態では消滅することから、準安定な相であることがわかりました。準安定なLixFePO4相は、高速反応時に生成し、二相の歪みを緩和することで、LiFePO4の高速充放電特性を発現していると考えられます(図3)。
今後の展望
リチウムイオン電池の作動条件下における動的挙動の解析は、今まで計算や定常状態の測定からの推測でしか議論されてこなかった非平衡状態での相転移現象解析を可能にします。今回得られた、高速反応を実現させるメカニズムを新規活物質の設計に反映させ、さらなるリチウムイオン電池の高速反応化を目指します。開発された手法は2012年4月から運用を開始したSPring-8のRISINGビームライン BL28XUにて実用電池材料に対して広く適用されています。さらに、この知見を活かして、リチウムイオン電池に代わる高性能な革新型蓄電池の開発を進めて行きます。
《参考図》
(四角で囲んだ回折は定常状態では観測されず、高速反応中にのみ観測される)
《用語解説》
革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)事業
京都大学及び産業技術総合研究所関西センターを拠点として、12大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して推進している、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の共同研究事業。RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略。
リチウムイオン電池
高いエネルギー密度と繰り返し特性が特徴的である二次電池で、携帯電話やノートパソコンなどの携帯型電子機器用の中心的な電源として広く普及している。正極・負極の電極と有機電解液が主な構成要素であり、リチウムイオンが動くことで充放電反応が進行する。最近では電気自動車、大型蓄電池への利用が進められており、世界中で研究開発競争が激化している。
相変化
リチウムイオン電池は充放電反応中に正極・負極中にリチウムイオンが出入りする。この際に正極・負極の結晶構造が変化する。今回取り上げた正極材料LiFePO4は充放電反応中にLiFePO4とFePO4に相分離し、その割合が変化することで反応が進行することがわかっている。本研究ではLiFePO4相とFePO4相の相変化についての解析をおこなった。
時間分解X線回折法
結晶性材料にX線を入射すると、特定の角度で強度の強いX線が検出される。この現象を利用し、結晶の面間隔・対称性を解析する手法をX線回折と呼ぶ。大強度、高エネルギーの放射光X線と、二次元検出器を組み合わせることで、これまで困難であったサブ秒以下での測定時間でX線回折パターンを連続的に取得できる。これが時間分解X線回折法であり、本手法の活用により、物質の反応過程をリアルタイムで解析することが可能である。
RISINGビームラインBL28XU
SPring-8に設置された蓄電池研究開発に特化したビームライン。これまで、ブラックボックス化していた、電池内部の反応メカニズムを明らかにするために2012年4月に運用を開始した。SPring-8固有の高輝度X線を最大限活用し、電池反応解析に必要な「空間分解能」および「時間分解能」を確保している。利用目的を蓄電池に特化し、電池サンプル準備から測定までの連続的な実験を連続的に行えるユーティリティスペースを備え、非平衡状態・界面被覆状態・反応分布状態等の蓄電池現象をリアルタイム測定する為の解析系を実現している。
《問い合わせ先》
(SPring-8に関すること) |
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