グラフェン素子の性能劣化原因とされる高抵抗領域の形成メカニズム解明 –デバイスの高速化に道(プレスリリース)
- 公開日
- 2013年05月31日
- BL07LSU(東京大学放射光アウトステーション物質科学)
2013年5月31日
国立大学法人東京大学
東京大学放射光連携研究機構尾嶋正治特任教授のグループは、同グループの永村直佳博士研究員(現東北大学多元物質科学研究所助教)、堀場弘司特任准教授(KEK)と共同で開発した三次元ナノESCA装置(SPring-8の東京大学放射光アウトステーションBL07LSUに設置)を用いて、吹留博一准教授(東北大学電気通信研究所)、長汐晃輔准教授(東京大学工学系研究科)らと共同で、グラフェンFET(電界効果トランジスタ)の電子状態を70nm空間分解能で測定し、電極・グラフェン界面でp型領域が形成していることを初めて実証しました。 (論文) |
背景
グラフェンは2010年ノーベル物理学賞受賞の対象になっており、その高い移動度や理想的な低次元性、特異な電子状態などから、現存のSiトランジスタを凌ぐ超高速次世代デバイスへの応用が期待され、盛んに研究が行われています。しかし、そのデバイス特性の挙動には未知の部分が多く、例えばグラフェンFETに関しては、グラフェンチャネルと電極の接合界面に高抵抗領域が形成されており、期待されるデバイス特性は得られていません。
この特性劣化は、グラフェン/電極界面のp型電荷移動領域形成によるものと考えられていますが、直接実証されていませんでした。このようなデバイス内部の状態を理解するためには、電子状態の空間分布をナノオーダーで解析する技術が必要であり、微細化複雑化するデバイス開発には今後不可欠であると考えられます。
成果の内容
本研究では、東北大通研と東大工学部のグループと共同で「三次元ナノESCA」という走査型光電子顕微分光装置(図1)を用いて、グラフェン単層膜/電極界面の結合状態およびグラフェンと基板の相互作用を詳細に調べました。X線源に大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることで、高い空間分解能(~70nm)での観測が実現できました。
グラフェンFET構造(図2)において、グラフェンの炭素由来の光電子ピークシフトの空間分布を測定することにより、単層グラフェンチャネルからニッケル電極への電荷移動、p型化を裏付ける結果が初めて得られました。電荷移動領域はわずか500nmでポテンシャル変化は60meVでしたが、明瞭に検出されました(図3)。この電荷移動挙動を解析したところ、誘電率が約16と大きな値を示しました。単層グラフェンチャネル上でのピンポイント深さ分解解析により、グラフェンと下地のSiO2膜の間でシラノール基が検出され、これが誘電率増加のに原因と同定されました。
この結果は、ナノデバイスの特性向上にはナノ界面の電子状態を正確に解析することが重要であることを示しています。
今後の展望
東大グループはこの分析システムをLSIのゲート電極パターンや数100nm幅の抵抗変化不揮発メモリーなどのピンポイント光電子分光測定にも既に適用しており、多くのナノデバイスのピンポイント故障解析や新規デバイスの状態分析に応用することが期待されています。
《参考図》
《問い合わせ先》
(SPring-8に関すること) |
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