グラフェンのナノパターン成長技術を確立 ~シリコンとグラフェンが融合した多機能集積回路へ道~(プレスリリース)
- 公開日
- 2013年06月14日
- BL17SU(理研 物理科学III)
2013年6月14日
東北大学
高輝度光科学研究センター
東北大学電気通信研究所(宮城県仙台市、総長:里見進、以下東北大通研)の吹留博一准教授らは、東北大学工学研究科、及び(公財)高輝度光科学研究センター(兵庫県佐用郡佐用町、理事長:白川哲久、以下JASRI)と共同で、次世代材料として有望視されているグラフェンとシリコン(Si)テクノロジーとの融合デバイスの実現に向けた、微細加工Si基板上へのグラフェンの位置選択的な結晶成長技術の確立に初めて成功しました。本研究成果は、立体的なグラフェンによる多機能集積回路の基盤技術になることが期待されます。 (論文) |
背景
炭素の二次元物質であるグラフェン注1)は、Siの100倍以上のキャリア移動度注2)を有し、かつ、熱的・化学的にも安定な物質です。ゆえに、 2020年頃に終焉を迎えるSi集積回路に代替となる次世代デバイス材料の一つとして、全世界で開発競争が行われています。
東北大通研の研究グループでは、既存のシリコンデバイスとの融合を企図した、Si基板上へのグラフェン(Graphene-on-Silicon、以下GOSと略)の作製及びそのデバイス化の研究を行ってきました。GOS技術は、Si基板上に単結晶炭化ケイ素(SiC)薄膜を成長させ、この薄膜表面にグラフェンを形成するという技術です。このGOS技術は成熟したSi技術の利用可能である為、グラフェンの実用化を可能にする重要な技術です。加えて、Si基板の面方位を適切に選択することにより、グラフェンの物性の作り分けが可能であることが明らかにされています。この技術とSi微細加工技術の融合により、グラフェンの物性をナノスケールで作り分けすることが可能となることが期待されます。
このように、GOS技術とSi微細加工技術との融合は、グラフェンの集積回路応用にとって重要であるだけでなく、グラフェンの物性及び機能の多機能化をナノスケールで可能にする点で重要です。
成果の内容
次に、図1に模式的に示すプロセスにより、Si基板の微細加工を利用したグラフェンのナノ・パターニングを試みました。この試料の表面の状態がどのようになっているかを調べる為に、NTT物性科学基礎研究所注3)に設置されている低速電子顕微鏡注4)を用いた顕微低速電子回折、及び、光電子顕微鏡注5)(SPring-8注6)設置)を用いた顕微X線吸収分光によりナノスケールで解析しました(図2)。
それらの解析の結果から、SiC膜中の欠陥密度の小さい領域Aの表面にグラフェンが形成されるのに対して、SiC膜中の欠陥密度の大きい領域Bの表面にはグラフェンが形成されないことが明らかとなりました。このふるまいは、領域BにおいてSi/SiC界面の荒れが大きいことに起因したSiC薄膜の欠陥密度の増加によるものと考えられます。このように、今回の我々の結果は、欠陥密度の微視的な制御によって、狙った場所にのみグラフェンを成長させること(ナノパターニング)に成功した初めての研究例です。
SiCの欠陥密度が大きくなると、青点線矢印で示したピークが小さくなる。
技術のポイント
グラフェンを用いた集積回路を作製する際には、例えば、素子分離プロセス注7)等において、必要な箇所だけにグラフェンをナノパターニングさせる必要があります。この技術は、将来的なグラフェン集積回路の基盤技術となることが期待されます。
今後の展開
今回の研究成果を発展させ、例えば、Si集積回路の主要技術であるイオン注入法で欠陥の導入を図るなど、よりスマートな方法によりSiC薄膜の欠陥密度を制御し、素子分離プロセスをナノスケールまで精密化することを検討しています。
更には、MEMS(微小電気機械デバイス)技術注8)との融合によるグラフェン機能のナノスケール多機能化の技術を融合し、多機能集積デバイスの実現を目指して研究を進めています(図3)。
本研究の一部は、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)、JSPS科研費(基盤研究(C)23560003)、及び村田学術振興財団研究助成から助成を受けました。本研究におけるグラフェンの低速電子顕微鏡観察は、東北大学通研とNTT物性科学基礎研究所との共同研究の一環として行われました。また、本研究は、大型放射光施設SPring-8を用いた研究として、高輝度光科学研究センターと重点ナノテクノロジー支援課題(課題番号:2009B1735/BL17SU,2010A1674/BL17SU, 2010B1712/BL17SU)として行った光電子顕微鏡を用いた共同研究の成果です。また、GOSの作製は、東北大通研のprojected clean room(PCR)、デバイスの作製は、東北大通研ナノスピン実験施設のクリーンルーム、及び、基板の微細加工は東北大MNCセンターを用いて行いました。
《用語解説》
注1) グラフェン
グラファイト(黒鉛)結晶の単層分。炭素原子が蜂の巣状に6角形ネットワークを組んで2次元シートを形成している(下図参照)。半導体と金属の両要素をあわせ持つ物質で、ポストシリコン材料として期待されている。グラフェンを円筒状に巻くとカーボンナノチューブになる。
注2) キャリア移動度
物質中での電子の移動のしやすさを示す特性。半導体デバイスの高速化を実現するためにはキャリア移動度の向上が必要不可欠である。
注3) NTT物性科学基礎研究所
10~20年後を見据えた速度・容量・サイズ・エネルギーなどネットワーク技術の壁を越える新原理・新コンセプトを創出し、未来のイノベーションにつながる基礎研究を行うNTT研究所の1つ。
注4) 低速電子顕微鏡
試料表面に低加速電圧(数~数十V)の電子線を照射し、後方に散乱した電子線をレンズによって拡大投影する顕微鏡。この低速電子顕微鏡をもちいることにより、ナノスケール領域からの低速電子回折(顕微電子回折)が可能となり、表面原子配列の詳細が明らかとなる。また、NTT物性科学基礎研究所の日比野博士が初めて開発したグラフェン層数のデジタル計測法は、グラフェン研究の基盤技術となっています。
注5) 光電子顕微鏡
光電子分光法及び低速電子回折と顕微観察手法を融合させた空間分解能を有する分光手法。
固体表面の電子の振る舞いを数十ナノメートルの分解能で可視化することができ、現在はナノデバイスから惑星科学まで幅広い分野で利用されている。
注6) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設。その運転管理と利用者支援を高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8ではこの放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っている。
注7) 素子分離プロセス
各素子間の不要な電気的な干渉を防ぐ集積回路製造プロセスの一つ。
注8) MEMS
MEMS(微小電気機械デバイス)とは、センサー、アクチュエータ、電子回路を一つの基板(例:シリコン)の上に集積化したデバイスのことを指す。
《問い合わせ先》
(解析装置に関すること)
(SPring-8に関すること) |
- 現在の記事
- グラフェンのナノパターン成長技術を確立 ~シリコンとグラフェンが融合した多機能集積回路へ道~(プレスリリース)