次世代金属・空気二次電池のための高性能可逆酸化物電極触媒の開発に初めて成功(プレスリリース)
- 公開日
- 2013年07月24日
- BL01B1(XAFS)
2013年7月24日
北海道大学
物質・材料研究機構
研究成果のポイント
• 次世代金属・空気二次電池のための高性能空気極触媒として新規層状酸化物の開発に成功。
• 従来不可能とされてきた可逆空気極の実現により、充電・放電効率の飛躍的な向上が期待。
• 次世代二次電池は自然エネルギーの利用に不可欠な技術で、今後の環境問題への貢献に期待。
北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授の研究グループは、次世代二次電池(充電することにより、繰り返し使用することができる電池)と期待されている金属・空気二次電池のための空気極触媒として、新規層状酸化物の開発に成功しました。従来、不可能とされてきた可逆空気極の実現により充電・放電効率を飛躍的に向上させました。大型放射光施設 SPring-8でのX-ray Absorption Fine Structure(XAFS)測定により開発した層状酸化物は、酸化還元が起こりやすく、これが空気極の活性の向上に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。本触媒は酸化物であり、白金等の貴金属を使う必要がなく、低コスト化と貴金属資源の保全に貢献します。以上のことから、本触媒により、自然エネルギーの利用に不可欠な技術である次世代二次電池の実用化と、環境問題の解決に大きく貢献することが期待されます。 (論文) |
背景
プラグインハイブリッド電気自動車1)、電気自動車用電源として、リチウムイオン電池2)が使われていますが、本格的普及に向けて航続距離を延長させるためにはエネルギー密度の高い次世代二次電池の開発が望まれています。有望な次世代二次電池の一つである金属・空気電池3)の理論エネルギー密度は、現在実用化されているリチウムイオン電池の200 Wh/kgをはるかに凌ぎ、リチウム・空気電池では11,140 Wh/kg、アルミニウム・空気電池では8,100 Wh/kgで、ほぼガソリンのエネルギー密度に匹敵します。従って、金属・空気電池の二次電池化が実現できれば、環境負荷の少ない電気自動車の本格的な普及に貢献するだけでなく、変動の激しい風力や太陽光発電などで得られる再生可能エネルギーの平準化にも利用でき、エネルギーの安定供給が可能となります。この電池の空気極では、下の図の通り充電反応・放電反応が起こりますが、既存の空気極では反応効率が低く、新しい空気極触媒の開発が望まれています。
研究手法
北海道大学触媒化学研究センターの竹口竜弥准教授は、金属・空気二次電池の空気極触媒として、充電・放電にほとんどエネルギーロスを生じない、高い触媒活性を示す層状ペロブスカイト酸化物4)電極触媒を開発し、物質・材料研究機構の魚崎浩平フェロー(国際ナノアーキテクトニクス拠点)らと共同で、可逆触媒機能実現の機構と、その理由を明らかにしました。本触媒を金属・空気二次電池の開発へ適用することにより、充電・放電時のエネルギーロスの少ない次世代二次電池の実現が加速されます。また、電気自動車の本格的な普及だけでなく、変動の激しい風力や太陽光発電などで得られる再生可能エネルギーの平準化も可能となることから、エネルギーの安定供給が可能になります。
研究成果
従来技術による金属・空気電池では、空気極の放電・充電の反応速度が遅く、放電・充電時に大きなエネルギーロスが生じてしまいます。本研究では、層状ペロブスカイト酸化物、LaSr3Fe3O10(上図の右)を開発して、空気極触媒として用いました。放電・充電反応の性能を、従来の触媒A、触媒Bと比較すると(参考図参照)、明らかに、他の触媒系とは異なり、放電・充電時にエネルギーロスがほとんどない有望な触媒であることがわかります。このような高活性な可逆空気極5)の報告例は国内外になく、また、十分に電気伝導性があるために、従来のようにカーボンを用いる必要がなく(カーボン燃焼の問題があるため。)、安全で高性能、かつ耐久性が高い二次電池の実用化への期待が高まりました。
この触媒の高い活性が発現するメカニズムを明らかにするために、大型放射光施設SPring-8にて、XAFS6)測定により触媒の還元のしやすさを調べました。その結果、開発した層状ペロブスカイト酸化物は、同じような組成の単純ペロブスカイトよりも還元しやすいことが明らかになりました。従って、層状ペロブスカイト酸化物内に酸素が存在し、その酸素が容易に出入りできるため、下記の充電・放電反応を促進していることが分かりました。
充電反応 2H2O + O2 + 4e- → 4OH- 平衡電位 1.2 V
放電反応 4OH- → 2H2O + O2 + 4e- 平衡電位 1.2 V
今後への期待
開発した層状ペロブスカイト酸化物触媒は、充電・放電時にエネルギーロスがほとんどない有望な触媒であることが分かりました。また、電気伝導性があるために、カーボンを用いないディスク型の電極が作成でき、二次電池化で問題になっていたカーボン燃焼の懸念がなく、安全性の高い二次電池の実現を促進するものと考えられます。さらに、本触媒は酸化物であり、貴金属を使う必要がなく、低コスト化と貴金属資源の保全に貢献します。電気自動車の本格的な普及に貢献するだけでなく、変動の激しい風力や太陽光発電などで得られる再生可能エネルギーの平準化により、エネルギーの安定供給が期待されます。このように本研究結果は国家戦略の重要な柱である蓄電池戦略への貢献が期待されます。
なお、本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構および、科学技術振興機構の事業の一環として行われました。
《参考図》
《用語解説》
1)プラグインハイブリッド電気自動車
エンジンと二次電池や回生ブレーキを組みわせたハイブリッドカーのうち、直接コンセントから充電できるタイプのもので、電気で走行すると、エネルギー効率が非常に高くなります。しかし、走行距離が短いので、エネルギー密度の高い次世代二次電池の開発が課題です。
2)リチウムイオン電池
正極(+)にリチウム金属酸化物を用い、負極(―)にグラファイトなどの炭素材を用いて、電解質中のリチウムイオンが伝導するタイプの二次電池(充電することにより、繰り返し使用することができる電池)です。
3)金属・空気電池
正極(+)に空気中の酸素を用い(空気極)、負極(―)に金属を用いる(金属極)電池で、理論エネルギー密度が非常に高いことに特徴があります。たとえば、リチウム・空気電池では11,140 Wh/kg、アルミニウム・空気電池では8,100 Wh/kgになります。今後の二次電池化が課題となっています。
4)層状ペロブスカイト酸化物
ペロブスカイト酸化物とは、灰チタン石と同じ結晶構造をもつ酸化物ですが、ここで使用している層状ペロブスカイト酸化物は、3層をユニットとして構成される酸化物で、LaSr3Fe3O10の化学式で表すことができます。
5)可逆空気極
電極電位を平衡電極電位(1.2 V)よりわずかに高くすると電極反応が酸化方向に移動し、逆にわずかに低くすると還元方向に移動して、最初の放電前の状態に復帰する性質を示す空気極。
6)XAFS(ザフス)
X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure)分光法。試料にX線を照射すると、試料に含まれる元素に固有なエネルギーのX線が吸収されます。照射するX線のエネルギーを変えながら物質による吸光度を測定する実験方法で、注目した原子周辺の局所的な構造や化学状態を知ることができます。分析する試料は結晶になっていなくてもよく、軽元素以外は大気中でも測定可能なため、測定できる試料の自由度が高く、電池材料や触媒はもちろん、最近では土壌や植物など、環境物質の分析にも広く使われている手法です。
《問い合わせ先》
物質・材料研究機構
(SPring-8に関すること) |
- 現在の記事
- 次世代金属・空気二次電池のための高性能可逆酸化物電極触媒の開発に初めて成功(プレスリリース)