ウランを含む原発事故由来のガラス状の大気粉塵がつくばにまで飛来 -放射光マイクロビームX線を用いた複合X線分析- (プレスリリース)
- 公開日
- 2014年08月08日
- BL37XU(分光分析)
2014年8月8日
東京理科大学
東京理科大学(中根滋理事長)の中井 泉教授および阿部 善也助教の研究グループは、気象庁気象研究所の五十嵐 康人氏ならびに足立 光司氏、JASRIの寺田 靖子氏との共同研究として、福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質がどのような性状を持つのかを解明するために、事故直後につくば市の気象研究所で採取された放射性大気粉塵(通称「セシウム(Cs)ボール」)に対して、SPring-8において複合的なX線分析研究を行いました。その結果Csボールはセシウム以外にウランやその核分裂生成物を含み、高酸化数のガラス状態であることが分かりました。この結果は、メルトダウンした核燃料が容器の底を抜けて落下したとする事故当時の炉内状況を化学的に裏付けるものです。本研究の成果はアメリカ化学会(ACS)発行の論文誌「Analytical Chemistry」に掲載予定です。 発表雑誌: |
研究の内容
Csボールは粒径2ミクロン前後の球形粒子で、その名前の通り放射性Csを含み、事故により放出された粒子であることが指摘されていました。このCsボールの詳細な化学組成、化学状態、結晶構造に関する情報を1粒子レベルで、かつ非破壊で調べるために、BL37XUにおいて縦横1 µm以下に集光したX線を用いたX線分析を行いました。
まずCs以外にどのような元素が含まれているのかを調べるため、37.5 keVの高エネルギーX線を用いた蛍光X線分析を行ったところ、Csの他にバリウム(Ba)やルビジウム(Rb)、モリブデン(Mo)など燃料の核分裂生成物と思われる元素と共に、一部の粒子には燃料であるウラン(U)が含まれることが明らかとなりました(下図)。この分析結果は、揮発性の高いCsのみが炉から大気中に放出されたのではなく、燃料であるUそのものを外部に放出しうる程度に、事故当時に炉が破損していた可能性を示しています。
さらにこの粒子には、核燃料由来の元素だけでなく、ケイ素(Si)や鉄(Fe),亜鉛(Zn)など炉自体の構成物に由来する元素も多く含まれていました。そしてXANESと、X線回折分析によって、Csボールがガラス状態で、かつ高酸化状態(Feは+3価、Moは+6価、Snは+4価で存在)で生成したことを突き止めました。これらの分析結果から、事故当時の炉内では核燃料だけでなく容器や構成物も熔融し混合された状態にあり、それが大気中に放出され急冷されたことでガラス状態になったというCsボールの生成・放出シナリオを推定することができます。本研究で示されたCsボールの生成シナリオは、メルトダウンした核燃料が容器の底を抜けて落下したとする事故当時の炉内状況に関する指摘を化学的に裏付ける研究と言えます。
また、事故により放出されたUが関東近辺にまで到来していた可能性はこれまでも指摘されてきましたが、重いUがどのような形で飛散していたのかは明らかではありませんでした。本研究により、微小なガラス粒子がその担体の一つであったことが明らかとなった形です。
このように、非破壊のX線分析によって、大きさわずか2ミクロンの微粒子から、事故当時の炉の状況や放射性物質の大気放出に関する多くの情報を得ることができました。SPring-8の放射光マイクロビームを用いる複合X線分析によって初めて可能になった成果です。本研究の成果はアメリカ化学会(ACS)発行の論文誌「Analytical Chemistry」に掲載予定です。
《参考図》
図1 セシウムボール(右下:電顕写真)における、ウラン、セシウム、バリウムの分布
図2 ウランの確実な存在を示す、ウランのX線吸収スペクトル
《お問い合わせ先》 (研究に関する問い合わせ先) 東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 (SPring-8に関すること) |
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