病原菌が赤血球を破壊する仕組みを解明 (プレスリリース)
- 公開日
- 2014年09月29日
- BL41XU(構造生物学I)
2014年10月2日
国立大学法人北海道大学
発表のポイント
• 病原菌は膜孔(まくこう)形成毒素蛋白質を分泌し,膜孔と呼ばれる孔(あな)をあけてヒトの赤血球を破壊する。
• 膜孔をつくる直前の状態の構造を決定し,膜孔がどのようにして形成されるのかを解明した。
• 膜孔は分子デバイス1)として応用されているが,今後は動くデバイスとして利用されると期待される。
病原性微生物が分泌する膜孔形成毒素は,赤血球と接すると膜孔と呼ばれる孔をあけて破壊します。膜孔形成毒素は可溶性の単量体として分泌されますが,赤血球上で円状に会合した後,大きく形を変化させて膜孔を形成します。本研究では,X線結晶構造解析という手法を用い,黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用メカニズムを解明しました。これまでは,膜孔が一気に形成されると思われてきましたが,今回,膜孔は上下半分ずつ別々に形成されることが明らかになりました。膜孔は,孔の内部を物質が通過する性質を利用して分子デバイスとして応用されていますが,その動きが分かったことで,今後は動きを利用した装置が開発されるものと期待されます。 論文発表の概要: |
(背景)
病原性微生物は様々な毒素を分泌して病原性を発揮します。毒素の一つである膜孔形成毒素は,細胞膜に膜孔と呼ばれる孔をあけて,相手の細胞を殺傷します。膜孔形成毒素は可溶性の単量体の蛋白質として分泌されますが,攻撃対象の細胞を見つけると,その細胞膜上で円状に会合した後,大きく形を変えて膜孔を形成し,ターゲット細胞を破壊します。面白いことに,膜に孔をあけて相手の細胞を殺傷するのは病原性微生物に限った話ではなく,ヒトをはじめとした高等生物も免疫機能の一環としてこのような方法で敵を攻撃しており,膜孔形成は普遍的な細胞攻撃の機構であると言えます。
北海道大学大学院先端生命科学研究院の田中良和准教授らの研究グループは,北海道大学総長室事業推進経費(公募型プロジェクト研究等支援経費)及び,日本学術振興会科学研究費補助金 新学術領域研究(生命分子システムにおける動的秩序形成と高次機能発現)の一環として,黄色ブドウ球菌が赤血球を破壊するために分泌する毒素の作用メカニズムを解明しました。
(研究手法)
黄色ブドウ球菌の分泌する膜孔形成毒素の膜孔を形成する直前の状態の結晶を作製しました。そして,その詳細な構造を,X線結晶構造解析という手法を用いて決定しました。解析には大型放射光施設(Photon Factory,SPring-8)の強いX線を利用しました。
(研究成果)
これまで,単量体の構造(最初の形)と,膜孔の構造(最終的な形)が分かっており,孔の部分は円筒状の形をしていることが分かっていました。今回,明らかになったのは,それらの間の状態の構造ですが,円筒状の孔の上半分だけが形成されていました。これまでは,円筒形の孔が一気に形成されると思われてきたのですが,本研究により,孔は一気に作られるのではなく,初めに上半分だけが形成され,その後,下半分が形成されるという,2段階の過程を経て作られることが明らかになりました。
(今後への期待)
膜孔は,孔の内部を物質が通過する性質を利用して,DNAシーケンサー2)や分子センサーとして応用されていますが,孔を形成する過程がわかったことにより,今後は,孔を形成する際の動きを利用した分子デバイスへと応用されると期待されます。
《参考図》
《用語解説》
1) 分子デバイス
蛋白質やDNAなどが持つ,特定の相手だけを正確に識別して結合する特性や,特定の形へと会合する性質を利用して作られた,特定の機能を持った分子のこと。ウィルスの粒子を利用して薬剤を特定の場所へと運ぶ分子デバイスなどが開発されている。
2) DNAシーケンサー
DNAはアデノシン(A),グアノシン(G),シチジン(C),チミジン(T)の4種類の塩基が数珠状につながった生体分子であるが,DNAシーケンサーはこれらの4つの塩基がどの順序で並んでいるのかを決める機械である。
《お問い合わせ先》 北海道大学大学院先端生命科学研究院 (SPring-8に関すること) |
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