大型放射光施設 SPring-8

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世界オンリーワン・世界最高性能の燃料電池解析ビームラインを用いて固体高分子形燃料電池触媒のナノ空間分布解析に成功 -燃料電池触媒層中の白金化学種の空間分布をナノXAFS構造解析法で捉えた:燃料電池触媒劣化抑制にはずみ- (プレスリリース)

公開日
2014年10月22日
  • BL36XU(先端触媒構造反応リアルタイム計測)

2014年10月17日
国立大学法人 電気通信大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター

   大型放射光施設SPring-8*1に電通大/NEDOが新たに建設した、世界オンリーワン・世界最高性能である燃料電池計測用のX線吸収微細構造(XAFS)*2ビームラインBL36XU*3に開発整備した、2次元走査型顕微XAFSシステムを用いて、固体高分子形燃料電池*4触媒層のナノXAFS測定・解析に成功した。電極触媒の耐久性の大幅向上は、燃料電池自動車の本格普及にとって最大の問題の一つであるため、劣化の原因とメカニズムの解明が強く求められていた。新ビームラインを用いたナノXAFS計測によって、実用固体高分子形燃料電池の活性部位である膜/電極接合体(MEA)の白金(Pt)化学種の2次元マッピングに初めて成功した。燃料電池電極触媒であるカーボン担体上のPtナノ粒子の酸化・溶出が、MEA中の空間的に不均一に進行することが直接観察され、さらに、カソード触媒層の境界やクラック境界の2-3マイクロメータ(µm)領域のPtナノ粒子がPt2+-O4として選択的に酸化・溶出されていることが初めてイメージング(画像可視化)された。実用燃料電池発電下の電極触媒は環境が複雑なため直接観察する手段に乏しく、劣化の因子やメカニズムは依然不明で、耐久性の向上について、これまで主に経験を頼りに議論・対応が図られてきたが、開発したナノXAFS法と得られたPt化学種のマッピング情報は、燃料電池触媒の劣化機構解明と劣化抑制の解決に繫がり、今後の燃料電池車本格普及のための次世代燃料電池電極触媒の開発に弾みがつき、サイエンスベースの新たな開発設計指針を提供するものといえる。


成果1.燃料電池カソード触媒層のPt分布と酸化状態分布のマッピング
成果1.燃料電池カソード触媒層のPt分布と酸化状態分布のマッピング。

A:劣化前のPtマッピング
B:劣化前のPt価数マッピング(どこも金属状Pt)
C:Bの矢印に沿ったラインプロフィル(Pt量とPt価数)
a:劣化後のPtマッピング(不均一状)
b:劣化後のPt価数マッピング(黄色の部分にPtイオン局在)
c:bの矢印に沿ったラインプロフィル(Pt量とPt価数)



成果2.燃料電池カソード触媒層のクラック領域のPt分布と酸化状態分布のマッピング
成果2.燃料電池カソード触媒層のクラック領域のPt分布と酸化状態分布のマッピング

A:劣化後のPtマッピング
B:劣化後のXANESスペクトルのホワイトラインピーク強度マッピング
C:Pt価数マッピング(黄色の部分にPt2+イオンが溶出)
D:Bの矢印に沿ったラインプロフィル(Pt量とPt価数)
E:Bのクラック領域の各番号の部位のXAFS解析から求めたPt価数、Pt-O結合数、Pt-Pt結合数



成果3.ナノビームを用いたナノXAFS実験セットアップ図
成果3.ナノビームを用いたナノXAFS実験セットアップ図。

A:ビームラインBL36XUでの空間分解ナノXAFS測定概略図;
B:ナノXAFS測定システムの写真
C:Bのうち試料付近の写真。



論文発表の概要:
掲載誌:ドイツ化学会誌 Angewandte Chemie International Edition(Angew. Chem. Int. Ed.)
DOI: 10.1002/anie.201408845
掲載日:10月下旬にオンライン版、誌面は12月の予定

(内容)

  1.    固体高分子形燃料電池(PEFC)はゼロエミッション可能なクリーンエネルギー発電装置としてわが国の持続社会発展に期待されている。PEFCは低温で高電流密度が得られ、エネルギー変換効率が高いという利点を併せ持つ。 わが国は2009年に世界に先駆けて定置用燃料電池の市場投入(エネファーム)に成功し、2015年には燃料電池自動車の市場投入が予定されている。
  2.    その実用化はまだ初期段階であり、2020-2030年の本格普及のためには、燃料電池カソード触媒のさらなる活性向上、業務車両向けに長期耐久性の大幅改善、および格段の低コスト化が不可欠である。これらの課題解決には、PEFCの活性因子、酸素還元反応(ORR)機構、および失活因子と劣化メカニズムを明らかにする必要があった。
  3.    しかし、実燃料電池系では、電極、高分子電解質膜、水分、アイオノマー、炭素担体、Ptナノ粒子、反応ガスなどからなる不均一混合分散系であるため、測定条件に制限のある電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡、振動分光法、レーザー分光法などの各種計測法は使用が困難であり、そのため、上記課題については依然として明らかでない部分が多かった。
  4.    放射光X線を用いるXAFS法はウエット・不均一・複雑多相系のPEFCにおいても触媒自身を直接観察できる強力な手法である。発表者らは1982年以来、XAFSを用いた触媒研究で世界を先導してきている。燃料電池触媒の表面化学反応・劣化過程の解明には、燃料電池作動下(発電時)における様々な時系列反応を100マイクロ秒から秒オーダーの時間分解能で追跡すること、触媒層内の触媒Pt粒子の酸化状態変化や凝集・溶出などがどのような場所・界面で起こるのかを100ナノメータ(nm)から数マイクロメータ(µm)の空間分解能で解析することが必要となる。
  5.    しかしながら、既存のXAFSビームラインは、ビーム光学系や技術的な制約等から、上記性能で時間空間分解測定を行うことはできず、複雑混合系である燃料電池触媒系の計測のために特化した新規ビームラインの建設が望まれていた。
  6.    そのため、電気通信大学は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進めている固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/MEA材料の構造・反応・物質移動解析プロジェクトの研究開発テーマ「時空間分解X線吸収微細構造(XAFS)等による触媒構造反応解明*5」プロジェクト(代表;岩澤康裕 燃料電池イノベーション研究センター長・特任教授 期間H22年度-H26年度)の一環として、大型放射光施設SPring-8に、PEFCの時空間分解XAFS測定に最適化した世界オンリーワン・世界最高性能の新ビームライン「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」を建設し(2012年12月に竣工式)、2013年1月から本格運用に入った。
  7.    今回、新ビームラインBL36XUに開発設置した空間分解ナノXAFS計測システムを用いて世界最高の空間分解能で燃料電池電極触媒膜中のPt化学種の2次元マッピングと溶出化学種の特定に成功した。
  8.    測定には亀裂のほとんどないMEA とマイクロメータサイズの亀裂を含むMEA の2種類のMEAを使用した。これらのMEAについて、電気化学的に活性な表面積(ECSA)が25%減少するまで耐久試験を行った。各試験後のMEAを空気に曝すことなくN2雰囲気下でスライスし、我々が設計製作したXAFSセルにセットした。
  9.    走査型ナノXAFS マッピング測定においては、570 nm × 540 nmまたは228 nm × 225 nm のビームサイズを使用した。このビームサイズはMEA 内のマイクロサイズの亀裂やMEA のスタッキング構造に比べて十分に小さい。ナノビームを走査し、カソード触媒層の45 µm × 45 µm 或いは125 µm × 95 µm の領域の走査型ナノXAFS マッピングに成功した。
  10.    走査型ナノXAFS 測定から得られたX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトルのPt LIII 端のエッジジャンプ(Pt量に対応)マッピングとホワイトラインピーク面積(Pt 酸化状態に対応)マッピングのナノ計測に成功した。耐久試験前のMEA においてはカソード触媒層中のPt が金属状で均一に分布しているのに対し、耐久試験後の劣化MEAにおいては、Pt量の分布が不均一になり、電解質領域にPtバンドが見られ、触媒層端から約3 nm領域に存在するPtが酸化され、電解質膜に向けて移動し、Ptバンドとの間に酸化されたPtが一番多く存在している様子が捉えられた。
  11.    マイクロクラック領域では、マイクロクラックに接しているカソード触媒層の約1-2 µm領域のPtナノ粒子が酸化されマイクロクラックに移動し、4配位Pt2+-O4 構造を持つモノマー種として存在することが初めてマッピングされた。
  12.    以上の結果は、酸化Pt 種空間分布と溶出Pt 化学種構造を初めて提示した重要な成果である。
  13.    本研究結果は、カソード触媒の劣化過程において、Ptナノ粒子の酸化と溶解が生じる環境場所(空間サイト)を画像可視化することに成功したもので、PEFC電極触媒の劣化機構解明と劣化抑制の解決に貢献し、今後の燃料電池車本格普及のための次世代燃料電池電極触媒の開発に弾みがつき、サイエンスベースの新たな開発設計指針を提供するものである。 

《参考図》

図1.固体高分子形燃料電池の原理
図1.固体高分子形燃料電池の原理



図2. 燃料電池電極の白金ナノ粒子からの光電子スペクトル
図2. XAFSスペクトルと得られる情報



図3.大型放射光施設SPring-8の全体写真と電通大BL36XUビームライン
図3.大型放射光施設SPring-8の全体写真と電通大BL36XUビームライン



図4.ビームラインBL36XUの概要と実験ハッチ内の機器類配置
図4.ビームラインBL36XUの概要と実験ハッチ内の機器類配置

[1] 関澤, 宇留賀, 唯, 横山, 岩澤ら, Journal of Physics: Conf. series, 430, (2013) 012019.
[2] 宇留賀, 関澤, 唯, 横山, 岩澤、SPring-8利用者情報誌2月号、pp.14-17 (2013).
[3] 唯, 宇留賀, 岩澤, 燃料電池, 13, 74-82 (2014).



図5.燃料電池触媒のブラックボックスに迫るXAFS計測・解析
図5.燃料電池触媒のブラックボックスに迫るXAFS計測・解析



図6.新ビームラインを用いて科学に基づいた次世代燃料電池触媒開発に貢献
図6.新ビームラインを用いて科学に基づいた次世代燃料電池触媒開発に貢献



《用語解説》

*1 大型放射光施設SPring-8
SPring-8とは、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設(図3)であり、その名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来しています。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、明るく指向性が高くX線から赤外線までの広い波長領域を含んだ強力な電磁波のことで、1947年に電子シンクロトロン(電子加速器)で初めて観測されました。放射光の発生装置は、電子ビームを発生させ光速近くまで加速するための加速器(入射系加速器)と、その電子ビームを円形の軌道に貯めておくための加速器(蓄積リング)で構成されています。大型放射光施設とは、電子ビームの加速エネルギーがおよそ50億電子ボルト(5 GeV)以上の加速器を有する施設のことを言います。また、第3世代と呼ばれる放射光施設は、専用の加速器にアンジュレータ主体の挿入光源を多数設置できるように設計された施設のことで、大型のものは世界に SPring-8(日本)、APS(米国)、ESRF(フランス) の3つがあります。
 SPring-8の施設者は独立行政法人理化学研究所(理研)であり、SPring-8の運転・維持管理、並びに利用促進業務を高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。
現在、SPring-8を利用して国内外の多くの研究者が物質科学・化学・地球科学・生命科学・医学・環境科学・産業利用などの分野で優れた研究成果をあげています。

*2 X線吸収微細構造(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)
燃料電池触媒等の固体触媒の多くが、結晶のような周期的構造を持たない微小ナノ粒子であり、それらが炭素のような担体の表面に分散した状態にあり、結晶構造解析法であるX線回折(XRD)が適用できません。また、電子顕微鏡では高真空下での測定であり、化学結合など分子構造が不明です。このような物質の局所構造解析に極めて有効な手法がXAFS法です。X線を物質に照射するとX線の吸収に伴い測定対象原子の電子が飛び出し、周辺に位置する原子によって散乱・干渉が起こります。この時、X線吸収スペクトルに微細構造が観察され、X線吸収微細構造(XAFS)と呼ばれます。
物質のX線吸収スペクトルは、図2に示すようにX線吸収端近傍構造(XANES:X-ray Absorption Near-Edge Structure)と広域X線吸収微細構造(EXAFS: Extended X-ray Absorption Fine Structure)から成ります。XANESから対象原子の酸化数、対称性、および混合物の場合その割合が分かり、EXAFSからは、対象原子の近傍に存在する原子の種類や数、距離に関する局所構造情報が得られます。
XAFSでは透過力の強い硬X線を用いるため、(1) 試料の形態、種類にはほとんど影響されない(結晶、非晶質、デバイス、液体、ガス、生体内物質など)、(2) in-situ 環境・反応条件下で計測可能など、測定雰囲気に制限されない、(3) 複数の元素が混じっていても測定に支障ない、(4) 感度が高い(ppm濃度、0.1 nm薄膜)という特長があります。一方、(1) XAFSから得られる情報は平均構造情報である、(2) XRDほど構造解析が精密でないという欠点もあります。これら欠点はありますが、担体表面に不均一に分散担持されているナノ金属粒子からなる化学プロセス触媒、自動車触媒、燃料電池触媒、環境触媒など多くの触媒の構造解析にはXRDなどが適用できず、XAFSが唯一の分子レベルの構造解析手法です。特に他の分析法がほとんど適用できない燃料電池電極触媒の作動下でのin-situ解析には極めて強力なツールとなります。放射光を用いたXAFS計測は、今や多くの固体触媒の構造解析に必須の手法として定着しています。

*3 燃料電池XAFS計測用新ビームラインBL36XU
ビームラインBL36XUの概要と実験ハッチ内の機器類配置の主なものを図4に示す。また、本ビームラインの性能を表にまとめた。

*4 固体高分子形燃料電池(PEFC: polymer electrolyte fuel cell)
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)を電解質として用いる燃料電池です。初期はプロトン交換膜燃料電池(PEMFC:proton exchange membrane fuel cell)と呼ばれていましたが、1992年に当時の通商産業省がニューサンシャイン計画を導入する際、米国における学術的呼称である "polymer electrolyte fuel cell" の和訳として「固体高分子型燃料電池」という語を用いるようになってから固体高分子型という呼称が定着するようになり、さらに、JISにおける標準用語を燃料電池に対して制定された際、タイプをしめす言葉として形が用いられ、このタイプの燃料電池のことを「固体高分子形燃料電池」と定められ、この用語が定着しました。しかし、ナフィオンなどのプロトン交換膜を用いた場合は、今日でもPEMFCと呼ばれることもあります。
PEFCの基本構造は、燃料極(アノード)、固体高分子電解質膜、空気極(カソード)を貼り合わせて一体化した膜/電極接合体 (MEA :Membrane Electrode Assembly,)を、反応ガスの供給流路が彫り込まれた導電板で挟みこんだスタック構造をしているものです(図1)。アノード触媒とカソード触媒は、一般に、カーボン担体上に白金ナノ粒子を担持したものです。

*5 先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインの建設とそれを用いた「時空間分解X線吸収微細構造(XAFS)等による触媒構造反応解明」について
•背景と経緯
   燃料電池実用化・本格普及はわが国の政策的課題として、資源・エネルギーの乏しい、環境問題と自然災害多発を抱えるわが国の将来の持続的発展と社会生活を支える先進技術として大いに期待されています。
   燃料電池の中でも、固体高分子形燃料電池は、高出力密度、低音作動等の特徴をいかした燃料電池自動車、定置コージェネレーションシステム、可搬電源、情報機器用電源等としての本格普及が期待されています。わが国は、家庭用燃料電池を世界に先駆けて商用化する等、着実に固体高分子形燃料電池に関する研究成果をあげてはいますが、2020-2030年の燃料電池自動車の本格的商用化に向けて、あるいは、わが国の国際競争力強化の観点から、耐久性・信頼性の向上に加え、低コスト化など、燃料電池技術開発はわが国が解決すべき喫緊の社会的最重要課題の一つと位置づけられています。燃料電池次世代技術開発のブレークスルーのためには、これまでの方法論の単なる延長ではない燃料電池触媒システムの根本原理に立ち返って理解する必要性が認識されています。資源・エネルギーに乏しく、環境問題や自然災害多発への迅速な対応を迫られているわが国の社会的要請と背景に基づき、電気通信大学は、社会的最重要課題の一つである燃料電池次世代技術開発とそれによるわが国の産業の活性化を今後の重要な使命と位置づけ、NEDO「エネルギーイノベーションプログラム」の一環として固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発を推進するため、本学での燃料電池研究教育の拠点として、H22年5月に燃料電池イノベーション研究センターを設置いたしました。
   次世代燃料電池触媒開発のための基盤情報として、燃料電池系を直接観察可能なXAFS解析技術の必要性が高まっていましたが、既存のビームラインでは、その設計当初のビーム光学系の制約、放射光測定技術から、時間分解能、空間分解能、及び深さ分解能を同時に満足することはこれまでできませんでした。そこで、SPring-8に放射光を用いた世界最先端・最高性能の「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」を新たに建設しました。
•なぜXAFS(X線吸収微細構造)法なのか
   燃料電池電極触媒の表面で起こる現象(吸着・反応)は周囲の環境条件(温度、ガス、水、電位、炭素など)に影響を受けており、実態はよくわかっていません。これらを理解することにより、それぞれの材料の機能が明確になり的確な材料改良につなげることが可能になるとともに、環境条件(時間空間)を適切にコントロールすることが可能となります。さらには、従来の運転条件の限界を超えることを可能にすることで、低コスト化に有効な技術開発に貢献することが期待されます。
   この触媒表面での現象を的確に理解する手法は従来、電気化学的測定、各種解析法などにより理解が進められているものの、劣化現象、特に白金(Pt)の溶解現象や酸素還元反応、活性起電力改善因子などについてはいまだ解明できていません。燃料電池触媒の反応・劣化過程の解明には、燃料電池作動下(発電時)における様々な時系列反応を100マイクロ秒から秒オーダーの時間分解能で追跡すること、劣化過程の解明には、触媒層内の触媒粒子の化学状態変化や凝集・溶解などが、どのような深さ界面で起こるのかを100 nm~数マイクロメータの空間分解能で解明することが必要となります。
   不均質、不均一空間分布、界面など複雑環境の燃料電池触媒に対し、燃料電池作動下で、活性金属(Pt等)の局所構造解析及び電子状態解析を原子レベルで行える唯一の手法がXAFS法なのです。実燃料電池系では、電極、高分子電解質、アイオノマー、水分、炭素担体、反応ガスなどからなる不均一混合分散系であるため、測定条件に制限のある電子分光法、電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡、振動分光(ラマン、赤外)、超高速レーザー分光法、熱分析などは使用困難だからです。
•プロジェクトの目標
XAFS計測を駆使し、燃料電池触媒のブラックボックスである構造変化と電子状態変化、触媒の溶出・劣化現象、電極触媒表面の電気化学反応機構などの解明を行って、高活性・高耐久性の固体高分子形燃料電池用触媒開発の設計指針を提示することにより、次世代燃料電池自動車の普及・実現を図ることを目指します(図5参照)

♦目標を達成するための方策
   SPring-8に建設する新XAFSビームラインにより、1.時間分解XAFS計測、2.空間分解XAFS計測、3.深さ分解XAFS計測を世界に先駆けて開発します。
♦測定対象
   白金ナノ粒子などの触媒の構造、酸素との結合状態、価数の時間変化、活性、不活性な触媒粒子の分散性・空間分布、触媒金属種の電解質への溶出の様子などです。
♦計測法の測定目的
   燃料電池触媒の構造変化と電子状態変化、触媒の溶出・劣化現象、電極触媒表面の電気化学反応機構、触媒種の分散・空間分布、触媒表面とアイオノマーの結合様式などを解明します(図6参照)。



《お問い合わせ先》

    国立大学法人電気通信大学 燃料電池イノベーション研究センター
    センター長・特任教授 岩澤 康裕
    TEL:042-443-5921
    E-mail:mail1

(報道担当)
    国立大学法人電気通信大学 総務課広報係
    担当:平野、岡村
    TEL: 042-443-5019
    E-mail:mail2

(SPring-8に関すること)
    公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
    TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
    E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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