ダークマグマ:マントルの底のマグマは「暗かった」 ー巨大高温マントル上昇流発生機構解明に大きな手掛かりー(プレスリリース)
- 公開日
- 2014年11月13日
- BL11XU(JAEA 量子ダイナミクス)
2014年11月12日
国立大学法人 東北大学大学院理学研究科
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
東北大学大学院理学研究科の村上元彦准教授は、米国カーネギー研究所のアレキサンダー・ゴンチャロフ主任研究員、高輝度光科学研究センターの平尾直久研究員、日本原子力研究開発機構の増田亮博士研究員(現、京大原子炉実験所)、三井隆也主任研究員、米国ネバダ大学のシルビアモニク・トーマス博士研究員、米国ノースウェスタン大学のクレイグ・ビーナ教授との共同研究で、地球内部のマグマが深くなればなるほどその色は「暗く」なり、従来予想されていたよりもずっと熱を伝えにくくなることを世界で初めて明らかにし、マントルの底にごくわずかに存在するとされる重いマグマが、マントル底部に根っこを持つ巨大な高温マントル上昇流(スーパーホットプルーム)の発生メカニズムに極めて重要な役割を果たしていることを突き止めました。この結果は、これまで地球科学の大きな謎であった、核からマントルへの熱輸送特性の解明、スーパーホットプルームの発生機構解明、ひいてはマントル対流の様式と要因に迫るもので、四十六億年の地球の進化史を理解するうえで非常に重要な成果であるといえます。 論文情報: |
研究背景
地球のマントルの底には、地震の波の伝わる速さが異常に遅くなる領域がわずかにあるとされ、主に南太平洋とアフリカ大陸の真下に多く観測されることが知られています(図1)。この地震波超低速度域の原因として、マントルの底に重いマグマが存在している可能性が指摘されています。また、この重いマグマは、高温のマントルの底に現在に至るまで固化せずにわずかに残っている四十数億年前の地球誕生時に地球を覆っていたマグマの海(マグマオーシャン)の名残とも考えられています。
一方で、近年の地震学的な観測によると、南太平洋とアフリカ大陸の下には、核からの熱を受けて高温になったマントル成分が「スーパーホットプルーム」と呼ばれる巨大な上昇流として存在していることが知られています(図2)。このスーパーホットプルームは、地表での火山活動へ非常に大きな影響を与えており、アフリカ大陸の大地溝帯(グレート・リフト・バレー)の形成や、南太平洋に点在する、ハワイ・タヒチ・サモア諸島等の火山活動の源であると考えられています。
マントルの底は、ドロドロに溶けた鉄を主成分とする外核と接しており、高温の核から低温の岩石相へ熱が伝わる地球最大の熱の境界面でもあります。したがって、核―マントル境界での熱の伝わり方を明らかにすることは、地球のマントル対流、ひいては地表の火山活動の根源を理解するうえで大変重要です。しかし、マントル底部にごくわずかに存在するとされる、重いマグマの熱の伝わり方に注目した研究はこれまで無く、またマントル深部に相当する極限的超高圧力条件における実験は技術的に極めて難しいため、これまで世界のどの研究グループも成功していませんでした。
研究内容と成果
本研究では、マントル底部に存在するとされる重いマグマと同じ成分(ケイ素、マグネシウム、鉄等の酸化物)を持つガラス物質をマグマの模擬試料として、「ダイヤモンドアンビルセル」という超高圧力発生装置を用いて(図3)、マントル深部に相当する80万気圧までの超高圧力条件における再現実験を行いました。その結果、圧力を上げるにしたがって試料の色が著しく「暗く」なることを発見しました(図4)。
さらに、大型放射光施設SPring-8*1の日本原子力研究開発機構ビームライン(BL11XU)における放射光メスバウアー分光法*2の結果に基づき、試料中に含まれる鉄の電子状態が圧力の増加にしたがって緩やかに変化することが、深さとともに徐々に試料が「暗く」なっていく原因であることを突き止めました。
物質が持つ色は、物質の熱の伝わり方(放射熱伝導率)を反映する指標であり、一般に、物質の色が暗くなればなるほど、熱は伝わりにくくなると考えられます。そして、本実験結果から予想されるマントル底部における重いマグマの放射熱伝導率は、周囲を取り囲むマントルの鉱物よりも5倍から25倍程度も小さく、熱が伝わりにくくなることが明らかになりました。
周囲よりも熱を伝えにくい重くて「暗い」マグマは、核からマントルへの熱の輸送を妨げ、たとえその存在がごくわずかであっても、核―マントル境界での熱流量に著しい不均質構造をもたらすものと予想されます。その結果、このマントルに生ずる大きな熱流量の差によって、マントル底部に根っこを持つスーパーホットプルームが生み出されるものと考えられます(図5)。
この結果は、マントル底部での地震波観測異常とスーパーホットプルームの発生という地球科学の二つの大きな謎に対して整合的な説明を与えるものであり、四十六億年の地球の進化史を理解するうえで、非常に重要な成果であるといえます。
なお、この研究は日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)(#25247087)、若手研究(A)(#22684028)、挑戦的萌芽研究 (#21654075)、及び東北大学学際科学フロンティア研究所のプログラム研究(研究代表者:村上元彦)の支援を受けました。
《参考図》
(T.Lay, Q.Williams & E.J.Garnero et al.Nature (1998)より引用)
金属板の中心に極微小の穴(100ミクロン程度)をあけて、先端を平ら(300ミクロン程度)にした対向する一対の単結晶ダイヤモンドの間に試料を封じ込め、押し込むことで試料室に超高圧力を発生させることができる。
《用語説明》
※1 大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す施設で、その運転管理と利用促進は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring 8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※2 放射光メスバウアー分光法
多様な原子核に放射光を共鳴吸収させて物質の性質を調べる方法で、電子状態や化学状態を局所的に調べることが出来ます。細く強力な放射光はダイヤモンドアンビルセル中の高圧力下の極微小試料測定を容易に実現します。
《問い合わせ先》 (SPring-8に関すること) |
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