リチウムイオン蓄電池の高容量化実現につながる研究成果を発表 ~ 次世代の蓄電池の実現により、電気自動車の高性能化などに期待 ~(プレスリリース)
- 公開日
- 2015年06月09日
- BL02B2(粉末結晶構造解析)
2015年6月9日
学校法人東京電機大学
東京電機大学(学長 古田勝久)、工学部環境化学科の藪内直明(やぶうち なおあき)准教授らの研究グループは、このほどリチウムイオン電池用電極材料として酸素の酸化還元を充放電反応に用いる新規岩塩型酸化物の合成に成功し、その研究成果に関して米国科学雑誌『米国科学アカデミー紀要』(略称:PNAS※)のWebサイトにて発表・公開します。(公開ダウンロード:現地時間6月8日15:00、日本時間6月9日4:00) |
【研究の背景】
限られたエネルギー資源を効率良く利用するために、電気自動車や余剰電力を有効的に使うことを目的とした電力スマートグリッドシステムなどの技術開発に期待が集まっています。電気自動車の根幹技術となるのが電気エネルギーを蓄える「蓄電池」です。現在、蓄電池としてリチウムイオン蓄電池が日常生活において広く利用されています。近年では電子機器用の小型電源(~10 Wh)だけではなく、電気自動車用の大型電源(~20,000 Wh)として利用されるまでになっています。しかし、その走行距離は既存の内燃機関を利用した自動車と比較して短いなど電気自動車の本格普及にはリチウム
イオン蓄電池の高性能化が必要不可欠とされています。
これまでに、本研究グループはリチウムイオン電池の高性能化を目指して特に電池の高容量化の足かせとなっている正極材料に着目して研究を行ってきました。リチウムイオン電池は図1に示すように正極材料と負極材料から構成されておりその選択により電池のエネルギー密度が決定します。次世代リチウムイオン電池用の負極材料としてはシリコン負極など従来技術を大きく上回るような負極材料が研究されていますが、リチウムイオン電池用の高エネルギー密度正極材料は知られておらず、大きな課題と考えられていました。
【研究成果の概要】
近年、次世代の正極材料として「酸素分子」が注目されています。しかし、空気中の酸素分子を利用するリチウム・空気電池の理論エネルギー密度は高いものの、一般的なリチウムイオン電池と比較して構造が大きく異なり、実用化へ向けて解決すべき多くの課題があります。一方、同じ酸素ですが、固体である「酸化物イオン」として用いることで従来のリチウムイオン電池と構造を全く変えることなく、空気電池に匹敵するエネルギー密度実現ができないか?との観点から研究に取り組んできました。その結果、これまでは電池材料として注目されていなかったニオブとリチウムから構成された新規材料の合成に取り組み、また、一部のニオブをマンガンなどの他の遷移金属イオンと置き換えることで材料の電気伝導度が向上し、酸化物イオンから電子とリチウムを可逆的に脱挿入できることを発見しました。
この新規鉄ニオブ系材料(Li1.3Nb0.3Mn0.4O2)のエネルギー密度(正極重量ベース)を評価したところ、既存の電気自動車用のリチウム電池で広く用いられているスピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)やリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を大きく上回る950 mWh/gのエネルギー密度が得られることがわかりました。また、これらの反応は電気化学的に不活性なニオブの存在により特異的に安定化されると考えられています。
このエネルギー密度は、これまでに報告されているトポタクティック(充放電時に結晶構造の破壊を伴うことなく進行する反応)な反応様式で進行するリチウムインサーション材料としては非常に高い値です。また、これらの研究成果は将来的には酸化物イオンの酸化還元反応を利用することで現状以上の高エネルギー密度な電極材料の開発の実現につながる可能性も秘めています。高性能電池材料の実現はノートパソコンやタブレット端末のさらなる軽量化、将来的な電気自動車用の走行距離の増加などの可能性だけでなく、リチウムイオン電池の新たな市場の開拓につながることが期待されます。
【藪内准教授・共同研究グループについて】
藪内准教授は携帯型電子機器や電気自動車など広く利用されているリチウムイオン電池だけではなく、次世代電池として期待されているナトリウムイオン電池の基礎研究が世界中から大きな注目を集めており、2012年には独フォルクスワーゲン・BASFより第1回「Science Award Electrochemistry (サイエンス アワード エレクトロケミストリー)」賞や平成26年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞など、これまでに国内外の多くの賞を受賞しています。
今回の研究成果は、東京電機大学・工学部環境化学科・藪内直明准教授、東京理科大学・理学部第一部応用化学科・駒場慎一教授、名古屋工業大学・物質工学専攻、JSTさきがけ・中山将伸准教授、立命館大学 SRセンター・太田俊明教授らと、株式会社GSユアサ(本社:京都市南区、代表取締役社長
依田誠)が共同で、新規岩塩型酸化物の合成に成功し、これまで電池材料として着目されていなかった元素であるニオブを用いることで、電池のエネルギー密度を向上させることが可能であることを見出しました。また、新材料の高容量発現機構が従来の電池材料とは異なり遷移金属イオンの酸化還元反応ではなく酸素(酸化物イオン)が関与するというユニークな現象によるものであることも解明しています。これらの研究成果は今後、高性能な電気自動車の実現の可能性について世界に先駆けて示すものです。
※PNAS:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
年間3,800以上の研究論文を公開、世界で最も引用された総合的、学際的な科学雑誌のひとつで、1914年に設立され、PNASは全米科学アカデミーの最先端の研究、科学ニュース、論評、クチコミ、展望、コロキウムの論文、およびアクションを公開しています。
※
本研究の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構により制定された戦略的創造研究推進事業の一環である先端的低炭素化技術開発 (ALCA) の特別重点技術領域「次世代蓄電池分野」により助成されたものです。(領域代表:首都大学東京 金村 聖志 教授、研究代表者:東京電機大学 藪内直明)また、実験の一部は大型放射光施設SPring-8 (ビームライン: BL02B2)、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所のフォトンファクトリー (ビームライン: BL-10) の設備を用いて行いました。
<本件に関するお問い合わせ先> <取材に関するお問い合わせ先> (SPring-8に関すること) |
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