SACLAのX線自由電子レーザーを用いた新規タンパク質立体構造決定に世界で初めて成功(プレスリリース)
- 公開日
- 2015年09月11日
- SACLA
2015年9月11日
京都大学
理化学研究所
高輝度光科学研究センター
京都大学大学院薬学研究科中津亨准教授・潘東青元研究員・村井智洋大学院生・加藤博章教授、理化学研究所放射光科学総合研究センタービームライン基盤研究部山下恵太郎基礎科学特別研究員・吾郷日出夫専任研究員・山本雅貴部長、理化学研究所放射光科学総合研究センターSACLA利用技術開拓グループ岩田想グループディレクター(京都大学大学院医学研究科教授)、理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室登野健介チームリーダー等による合同研究チームは、非常に強力なX線を発するX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAにおいて、世界で初めて立体構造がわかっていないタンパク質の立体構造を、μmサイズの微結晶を用いて決定することに成功しました。 |
1.背景
XFEL光はX線の輝度が既存の放射光施設に比べ非常に強いことから、これまで解析できなかった創薬ターゲットとなっている膜タンパク質の立体構造解析の実現が期待されています。日本のXFEL施設であるSACLAではすでに数μmのタンパク質微結晶を使い、連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)によって測定ができるようになってきています。SFXを用いることで通常SPring-8でデータ収集が困難だったそのような微結晶からデータ収集することができ、結晶の最適化に必要だった数ヶ月から数年単位の時間を短縮することができるようになります。しかしながら、SFXで収集したデータを用いたタンパク質の立体構造決定を行うにはすでによく似た立体構造が明らかになっているタンパク質を使って構造決定する分子置換法にかぎられてきました。そこでSACLAのXFEL光を用いて、構造未知のタンパク質の微結晶から新規立体構造を決定する手法の開発が求められていました。
XFELを用いた新規タンパク質構造解析に向けた取り組みとして、2014年にBarendsらはアメリカのXFEL施設であるLCLSでリゾチーム結晶にガドリニウムを結合させて単波長異常分散(SAD)法による構造決定を行いました。LCLSでは9.5keVまでのX線エネルギーしか使えなかったことから、通常タンパク質の構造決定では利用しないガドリニウムが使用されました。この構造決定では60,000枚ものX線回折イメージが必要となり、データ収集に非常に時間がかかることが示されていました。
そこで、本研究ではSACLAでしか使用できない高エネルギーXFEL光を用いて、新規タンパク質の立体構造決定を行う方法の開発に加え、効率よく行う方法の開発を試みました。
2.研究内容と成果
SACLAでのSFX実験を行うために、まずルシフェリン再生酵素の大量の微結晶を沈殿剤としてPEG3350を用いて作成しました。その際、構造決定を行うために水銀をタンパク質に結合させた結晶もあわせて作成しました。SACLAでデータ測定する際には、水銀の異常分散効果を測定できるようにSACLAのX線エネルギーは12.6 keVに設定し、2015年に理研の菅原らにより開発されたグリースマトリックス法を用いてSFXデータ測定を行いました。その結果、結晶化によって得られたそのままの微結晶であるNative結晶のX線回折像を約10,000枚、得られた微結晶を酸化水銀の溶液に浸けて水銀を結合させた水銀誘導体結晶について約85,000枚を撮影することができました。まず水銀誘導体結晶のみを用いた単波長異常分散(SAD)法での構造決定を試みましたが、現状の解析方法では精度が不十分なため成功しませんでした。しかしながら、Native結晶と水銀誘導体結晶の両方を用いる水銀の異常分散効果を利用した重原子同型置換(SIRAS)法によって、それぞれ10,000枚のイメージから1.7 Å分解能で、構造未知の新規タンパク質の立体構造を決定できることが判明しました。このようにわずか20,000枚のデータ収集で構造決定できるということは、SACLAにおいて約2時間で新規構造決定のための測定が可能であるということを示しています。今のところ世界に2つしかないXFEL施設で測定時間を短縮できるということは、実験を行う上で非常に重要なことです。
3.今後の期待と展望
今回、本研究チームが成功した手法はすべてのタンパク質に適用できる汎用性の高い手法です。したがって、大きな結晶になりにくく、生命の維持に関わっており、創薬のターゲットとなっている膜タンパク質の解明にも適用できます。今回の実験からわずかながら水銀の異常分散効果も測定できていることから、今後はより簡便な単波長異常分散(SAD)法での構造解析の確立もめざします。さら水銀よりもより汎用性が高いセレンを使ったSAD法による解析も行っていく予定です。これにより、これまでは困難であった創薬ターゲット膜タンパク質の構造解析がより簡便に行えるようになり、創薬への応用が期待されます。
<問い合わせ先> 登野 健介 (との けんすけ) 【広報に関すること】 国立研究開発法人理化学研究所 広報室 報道担当 (SPring-8に関すること) |
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