大型放射光施設 SPring-8

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SACLA産学連携プログラムで、自動車排ガス浄化用触媒材料を 放射線損傷なくナノレベル観察することに成功 -X線自由電子レーザーを利用した世界初の産学連携研究論文を発表-(プレスリリース)

公開日
2015年11月10日
  • SACLA

2015年11月10日
国立大学法人北海道大学
トヨタ自動車株式会社
公益財団法人高輝度光科学研究センター
国立研究開発法人理化学研究所

   北海道大学、トヨタ自動車株式会社、高輝度光科学研究センター(JASRI)、理化学研究所(理研)は、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」*1を用いた世界初の産学連携研究の成果として、自動車排ガス浄化用触媒材料を、放射線損傷なくナノレベルで観察することに成功しました。これは、北海道大学電子科学研究所の吉田力矢助教、西野吉則教授、トヨタ自動車株式会社材料技術開発部の山重寿夫主任、理化学研究所放射光科学総合研究センターの矢橋牧名グループディレクターらの成果です。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Journal of Physics B: Atomic, Molecular and Optical Physics」(2015年11月3日付)にオンライン掲載されました※。

論文情報
研究論文名:Extending the potential of x-ray free-electron lasers to industrial applications - an initiatory attempt at coherent diffractive imaging on car-related nanomaterials
(X線自由電子レーザーの潜在能力を産業利用に押し広げる -自動車関連ナノ材料をコヒーレント回折イメージングする初めての試み)
著者:吉田力矢1,山重寿夫2,三浦真秀2,木村隆志1,城地保昌3,別所義隆4,5,倉本真弓1,于健1,Krishna Khakurel1,登野健介3,矢橋牧名3,5,石川哲也5,西野吉則1
(1北海道大学,2トヨタ自動車株式会社,3公益財団法人高輝度光科学研究センター,4 Academia Sinica,5 国立研究開発法人理化学研究所)
公表雑誌:Journal of Physics B: Atomic, Molecular and Optical Physics(英国物理学会の雑誌)
公表日:英国時間 2015年11月3日(火) (オンライン掲載)

経緯:
 X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAは、第3期科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして理研とJASRIが建設した、X線科学における世界最先端の研究施設です。理研はJASRIと連携し、SACLAの産業利用振興に必要な調査研究を目的として、平成26年度よりSACLA産学連携プログラム*2を開始しました。先端的研究施設の共用の初期段階から、産業利用を積極的に推し進めることは、世界的に見てもこれまでほとんど例のない、斬新な試みです。北海道大学電子科学研究所の西野吉則教授は、トヨタ自動車株式会社と共同で「XFELを用いた自動車用ナノマテリアルの形態や状態の把握」という課題を提出し、平成26年度より2年連続でSACLA産学連携プログラムに採択されました。

内容・対象・意義:
 電子顕微鏡やX線顕微鏡では、電子線やX線といった観察に用いる放射線の照射によって試料が壊れてしまうことがあり、問題となってきました。XFELの発光時間は10フェムト秒*3以下と、放射線損傷が起こる時間スケールよりも短いため、XFELで試料を照らすと、試料が放射線損傷を受ける前の一瞬の姿を捉えることができます。研究グループは、このXFELの特徴を活かして、コヒーレント回折イメージング*4という手法により、自動車排ガス浄化用触媒材料を放射線損傷なくナノレベルで観察することに成功しました(図1)。
XFELを用いたイメージングでは、研究グループが独自開発した技術により、従来手法では困難であった溶液中でのみ構造を保つことのできるナノ材料の評価も行うことができます。今後、触媒や電池材料など産業応用上重要な物質の実使用環境やプロセス過程でのナノレベル解析において、この新規技術が威力を発揮すると期待されます。
本成果は、XFELという世界最先端研究施設を産業利用する世界初の試みです。今後XFEL施設SACLAでの、さらなる産官学連携研究の広がりが期待されます。


〔参考図〕
図1 自動車の排ガスの浄化に用いられる三元触媒サンプルに、SACLAが発生したXFELを1発照射して得られたコヒーレント回折パターン。
図1 自動車の排ガスの浄化に用いられる三元触媒サンプルに、
SACLAが発生したXFELを1発照射して得られたコヒーレント回折パターン。

データ解析の結果、母材であるアルミナの表面に、触媒であるロジウムのナノ粒子が担持されていることが示唆された。


 

〔用語解説〕
*1 X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。第3期科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で建設・整備が進められた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。

*2 SACLA 産学連携プログラム
SACLAの本格的な産業利用を加速するために、理化学研究所が、大学・研究機関・企業及び公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)と連携しながら、調査研究を行うプログラム。平成26年度より継続して実施中。 (http://xfel.riken.jp/topics/20150316-1.html

*3 フェムト秒
1,000兆分の1秒が1フェムト秒。1フェムト秒は、光の速さ(秒速約30万キロメートル)でも0.3マイクロメートルしか進むことができないほどの極めて短い時間。

*4 コヒーレント回折イメージング
波面が揃っている光のことをコヒーレントな光といい、レーザー光の持つ特徴の1つである。コヒーレントな光を試料に照射した際に起こる散乱現象が、コヒーレント回折である。コヒーレント回折パターンは、試料の僅かな構造の違いにも敏感である。このため、コヒーレント回折パターンを計算機で解析すると、試料の画像を得ることができる。

 

<<問い合わせ先>>
(研究内容について)
北海道大学電子科学研究所 教授 / 附属グリーンナノテクノロジー研究センター長
西野 吉則(にしの よしのり)
E-mail:mail1
TEL: 011-706-9354 FAX:011-706-9355

(SACLAビームラインについて)
理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ
グループディレクター 矢橋 牧名(やばし まきな)
E-mail:mail2
TEL: 0791-58-0802 (内線:3811) FAX:0791-58-1523

(SPring-8に関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及啓発課 
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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