新しい蛋白質の構造が細菌の薬剤耐性のカギを解く(プレスリリース)
- 公開日
- 2015年12月30日
- BL12B2(NSRRC BM)
- BL44XU(生体超分子複合体構造解析)
2015年12月30日
研究概要:チフス菌に関する新発見 論文情報 |
腸チフスは感染力の強い病気で、長引く高熱、空咳、頭痛、腹痛に始まり、腸穿孔、激しい出血などの症状を起こし死に至ることもある病気です。世界中で、年間4100万人以上が発症しおよそ20万人が命を落とすと報告されています。アジア地域では、インドネシア、中国、ベトナム、フィリピンなどで主に流行していています。年間9百万人の台湾人が中国、南アジアに旅行しており、旅行中にこの病気に感染する人もいます。
研究チームは、ST50蛋白質が細菌の表面の外膜に多数存在し、抗生物質を内部から外へ排出する排出ポンプとして働くための興味深い構造を備えていることを見つけました。このポンプの入り口で、6つのアスパラギン酸からなる“D-cage”(アスパラギン酸のかご)が抗生物質や他の有毒な代謝産物や生体異物を認識・捕獲し、蛋白質内部のチャンネルを通して外側に輸送することが出来ます。このような物質の捕獲と輸送が細菌の薬剤耐性のメカニズムになっています。
抗生物質は細菌を殺すためによく使われていますが、最近では、この薬剤耐性のために抗生物質が効かなくなってきています。Chen博士は「2.98Å(0.298ナノメートル)の分解能で排出ポンプの構造が判ったので、薬剤耐性に対抗する手立てを開発する道が開けました。」と述べています。
Chen博士はさらに「これまでの新薬開発は10億ドル単位のギャンブルでした。研究者は5千から1万種類の化合物のスクリーニングから始めて、それを250種類に絞って動物実験を行い、最終的には、たった10以下の化合物を選び出して臨床試験に入ります。新薬の開発には通常8億から20億米ドルと15年の年月がかかり、コストが高く非効率的ですが、放射光で解明された病原菌のカギとなる蛋白質の詳細な構造を用いることによって、構造ベースで標的薬剤をデザインでき、開発にかかる費用と期間を大幅に少なくできます。」と述べています。
放射光の役割:生命の源である蛋白質の構造解析
蛋白質はすべての生物の最も重要な構成物質であり、細胞の中で機械のように働いています。それぞれの蛋白質は、それぞれ固有の機能を反映した形を持っています。蛋白質は細胞膜上でシグナルを受け取り、細胞間や細胞内での情報伝達を行うことによって、シグナル伝達やエネルギー伝達、細胞機能の調節などの役割を担っています。
台湾の放射光施設NSRRCのビームライン研究者Yuch-Chen Jean氏は、「蛋白質の3次元構造は生命機能を理解するカギとなります。これまでおよそ10万個の蛋白質の構造が世界中で解明されていますが、そのうち86%が放射光と蛋白質結晶化技術によるものです。最近では、6つのノーベル賞がこの研究手法を用いた研究者に与えられています。」とコメントしています。
70億台湾ドルかけて建設されたTaiwan Photon Source(TPS)は、2015年1月25日に運転を開始し、NSRRCは最初のビームラインの一つとして蛋白質マイクロ結晶用ビームライン(Protein Microcrystallography beamline)のコミッショニングを2015年11月から行っており、2016年9月に国内および海外のユーザへの共用を開始する予定です。
図1 腸チフス患者数の分布
(Centers for Disease Control and Prevention, USAより)
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図2 チフス菌の外膜蛋白質ST50の構造。
入口にあるD-cageにより抗生物質が認識、捕獲されて、病原菌の外へとST50の管を通って排出される。
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図3 薬剤排出ポンプのメカニズム。
蛋白質ST50がチフス菌の細胞膜表面で排出ポンプとして働き、これがチフス菌の薬剤耐性となる。
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図4 SPring-8 BL12B2の蛋白質結晶構造解析ステーション
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図5 SPring-8 BL44XUの超分子構造解析ビームライン
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【お問い合わせ先】 (SPring-8に関すること) |
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