地球内核の組成制約に成功 ―世界最高の高温高圧条件下で鉄の音速・密度同時測定―(プレスリリース)
- 公開日
- 2016年02月27日
- BL35XU(高分解能非弾性散乱)
2016年2月26日
国立大学法人 東北大学大学院 理学研究科
国立研究開発法人 理化学研究所
公立大学法人 兵庫県立大学理学部・大学院 物質理学研究科
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
国立大学法人東北大学の坂巻竜也助教・大谷栄治教授、公立大学法人兵庫県立大学の福井宏之助教、公益財団法人高輝度光科学研究センターの筒井智嗣主幹研究員、および国立研究開発法人理化学研究所のアルフレッド・バロン准主任研究員らの研究グループは、地球の内核に含まれる軽元素として水素・珪素・硫黄がその有力な候補であることを突き止めました。 掲載論文 |
背景
地球外の天体からサンプルを持ち帰ることが可能となった現在においても、地球の内部から試料を取得することは未だに実現できないため、地球内部は人類にとってのフロンティアとなっています。弾性波である地震波の観測によって、地球内部が層構造を持つことは既によく知られています(図1)。しかしながら、地球の最深部である内核については、多くの不明な点があります。その1つが内核の化学組成です。様々な研究により、地球の内核は鉄を主成分としたニッケルとの合金であり、それに加えて密度を下げるための水素・炭素・酸素・珪素・硫黄といった軽い元素が含まれていると考えられています。
弾性波の伝播速度は物質の性質を知る良い指標であり、物質の化学組成などの違いによってその速度も異なった値を示します。つまり、2つの物質間(本研究では、純鉄と地球の内核)での弾性波の伝播速度の違いは、それらの物質の化学組成の違いを反映しており、それを利用して地球最深部の化学組成を推定しようとしたのが本研究になります。弾性波には縦波と横波がありますが、本研究では縦波速度に着目し、地球内部と同じ環境下、すなわち超高圧高温状態を作り出した中に純鉄をおき、実験的に密度と縦波弾性波速度を同時に測定し、地震波観測によって得られている内核の密度・弾性波速度と比較することで、手元に取り出せない地球の内核の化学組成の推定を行いました。
研究手法と成果
本研究グループでは、地球上で最も硬いダイアモンドをピストンとして利用して、ダイアモンドの先端にある非常に小さな空間に地球内部と同じ超高圧を発生させました。そして、その超高圧下に置かれた純鉄をレーザーで加熱して超高温状態にすることに成功しました。この方法で達成した圧力温度条件は163万気圧・2727℃です。
また、X線は厚さの薄い鉄であれば透過することが可能であり、散乱されたX線を調べることで物質の状態を知ることもできます。この点に着目した本研究グループは兵庫県にある大型放射光施設SPring-8においてバロン准主任研究員らが建設したビームラインBL35XUでX線を活用した実験に取り組みました。実験は、X線回折(実験試料で散乱されたX線の角度から原子の距離を決める手法)とX線非弾性散乱(注1)(入射するX線と散乱されたX線のエネルギー差の測定により弾性波を測定する手法)の2つの測定技術を組み合わせることで行われ、その結果世界最高の圧力と温度条件下における純鉄の縦波速度と密度を同時に決定することに成功しました。
実験で得られた結果を地震波観測データと直接比較すると、密度だけではなく地球内核条件での鉄の縦波速度も、実際の地球内核より高い値を示すことが明らかになりました(図2)。つまり、内核中に含まれている鉄以外の元素は、鉄の縦波速度と密度を共に減少させなければなりません。これは地球内核の組成に制約を与える上で極めて重要な研究成果です。地球化学的な知見と組み合わせることで、地球内核に含まれる軽元素としては、水素・珪素・硫黄である可能性が高いことを突き止めました。
今後の展開
本研究によって、地球の内核を構成する化学組成の推定に必要な構成元素の候補を絞り込むことができました(図3)。構成元素が変われば、実測で得られた研究結果の解釈も再考が必要です。地球の内核を理解することは地球の成り立ちを考える上で必要不可欠です。本研究では、弾性波が測定可能な実験条件を大きく拡大することができ、世界最高の圧力と温度条件下での測定に成功しましたが、達成された圧力・温度は地球内核の条件には達しておりません。内核の組成決定を行うためには更なる研究が必要であり、目的を達成するためには更にSPring-8での実験を進める必要があります。
地球は地表から「地殻」、「マントル」、「核」の3層構造をしています。 地殻とマントルは主に珪酸塩鉱物、すなわち岩石から成ります。一方、核は鉄合金で作られており、液体の外核と固体の内核に分けることができます。地球内部の環境は極限状態(高圧力かつ高温度)であり、深くなるほど圧力は増加していきます。
地球の内核に相当する330万気圧から365万気圧までの圧力条件下かつ、5227℃の温度条件下での純鉄の密度-縦波速度の関係を本研究に基づき赤線で示しています。
また、地震波観測によって調べられている地球の内核における密度-縦波速度の関係を黒線で示しています。
この図から純鉄は地球の内核より縦波速度も密度も大きいことが分かります。
つまり、観測された実際の内核を再現するためには、純鉄の縦波速度と密度を共に減少される成分が必要になります。
そのような効果を期待できる元素として、水素や硫黄・珪素が候補として挙げられます。反対に炭素や酸素は主要な元素としては期待できないことになります。
地球の内核条件では、鉄は六方最密充填構造をもつことが知られています。本研究によって、その構造中に水素や硫黄・珪素が含まれていることが分かりました。
《用語解説》
X線非弾性散乱
物質に入射されたX線が散乱される際には、散乱されたX線のエネルギーは入射されたX線のそれと必ずしも同じではありません。散乱によって変化したエネルギーは物質とX線とのやりとりで生じたものであり、このエネルギー差とX線が散乱される角度の関係を調べることで物質中の原子がどのように振動しているかを知ることができます。その中には、物質が音を伝える振動も含まれます。音の波である音波は弾性波であることから、X線非弾性散乱を行うことで弾性波の伝播速度に関する知見を得ることができます。
《問い合わせ先》 東北大学大学院 理学研究科地学専攻 理化学研究所 兵庫県立大学大学院物質理学研究科・理学部 高輝度光科学研究センター <報道に関すること> 理化学研究所 兵庫県立大学大学院物質理学研究科・理学部 総務課 (SPring-8に関すること) |
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