肺線維症治療に向けた核酸医薬を開発(プレスリリース)
- 公開日
- 2016年04月05日
- BL32XU(理研 ターゲットタンパク)
平成28年4月5日
東京大学大学院 理学系研究科・理学部
発表のポイント:
• 肺線維症(注1)の原因であるタンパク質オートタキシン(ATX)を阻害する核酸アプタマー(注2)を開発した。
• ATX-核酸アプタマー複合体の立体構造をもとに核酸アプタマーを改良し、肺線維症モデルマウスにおいて治療効果を示す抗ATXアプタマーを開発した。
• 肺線維症は未だ有効な治療法が確立されておらず、本研究で開発した抗ATXアプタマーは肺線維症に対する新規の治療薬の開発基盤となることが期待される。
肺線維症は呼吸器系の重篤な疾患のひとつであり、未だ有効な治療法が確立されていません。東京大学理学系研究科の加藤 一希大学院生、西増 弘志助教、石谷 隆一郎准教授、濡木 理教授の研究グループは、株式会社リボミックの池田 寿子、中村 義一の研究グループと東北大学の青木淳賢教授の研究グループとの共同研究により、肺線維症の原因タンパク質であるATXを阻害するDNAアプタマーを取得しました。次に、ATX-DNAアプタマー複合体の結晶構造を決定し、アプタマーがATXの働きを抑えるメカニズムを解明しました。さらに、立体構造に基づき、ATXの働きをより強力に抑えるアプタマーを作製し、肺線維症のモデルマウスにおいて治療効果を確認することに成功しました。本研究結果で得られた抗ATXアプタマーは、肺線維症の新規な治療薬の開発につながることが期待されます。 発表雑誌 |
発表者:
加藤 一希(東京大学理学系研究科生物科学専攻 博士課程3年(当時))
池田 寿子(株式会社リボミック)
西増 弘志(東京大学理学系研究科生物科学専攻 助教)
石谷 隆一郎(東京大学理学系研究科生物科学専攻 准教授)
中村 義一(株式会社リボミック)
青木 淳賢(東北大学大学院薬学研究科分子細胞生化学分野 教授)
濡木 理(東京大学理学系研究科生物科学専攻 教授)
発表内容:
ATXは血中に存在するタンパク質であり、リゾホスファチジルコリン(注3)という脂質を分解しリゾホスファチジン酸を産生します。ATXが過剰に働き、リゾホスファチジン酸が大量につくられると臓器の線維化を引き起こすことが知られています。中でも肺線維症は呼吸器系の重篤な疾患であり未だ有効な治療法が確立されていません。
本研究グループは、肺線維症の治療を目的としてATX阻害剤の開発研究を行ないました。まず本研究グループは、核酸分子が塩基配列によって様々な形をとる性質(可塑性)に着目し、SELEX法を発展させたリボミック社の基盤技術RiboARTシステム(注4)を用いて、ATXに選択的に結合し、その働きを抑える核酸アプタマーを取得しました(図1)。
次に、ATXと抗ATXアプタマーの複合体を結晶化し、大型放射光施設SPring-8の理研ターゲットタンパクビームライン(BL32XU)にてX線回折データを収集し、その結晶構造を決定しました(図2、3)。その結果、抗ATXアプタマーはATXにぴったりと結合し、その活性部位を塞ぐことによりATXの働きを阻害していることが明らかになりました(図3)。
さらに、構造情報を利用してアプタマーの分子構造を改良し、ATXの働きをより強力に阻害するアプタマーを作製しました。最終的に、改良した抗ATXアプタマーが肺線維症のモデルマウスにおいて治療効果を示すことを確認しました(図4)。
肺の線維化に伴って気管支肺胞洗浄液にコラーゲンが顕著に蓄積するが、抗ATXアプタマーの投与によってその蓄積を抑制することができる。この時、気管支肺胞洗浄液中のATXの酵素活性も顕著に抑制されていることがわかった。
本研究結果で得られた抗ATXアプタマーは、未だ有効な治療法の確立されていない肺線維症の治療に役立つことが期待されます。
本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」(研究代表者:濡木 理)、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「難治性炎症疾患に対するRNAアプタマー新薬の開発」(研究代表者:中村義一)の支援を受けて行われました。
【用語説明】
注1. 肺線維症:
肺組織の線維化によって引き起こされる重篤な疾患。発症すると呼吸困難などをともなう。
注2. 核酸アプタマー:
特定の分子に結合する核酸分子。本研究で開発したアプタマーはデオキシリボ核酸(DNA)から構成される。
注3. リゾホスファチジルコリン:
脂質の一種。1本のアシル基、グリセロール骨格、および、コリン部位から構成される。
注4. RiboARTシステム:
リボミック社の核酸アプタマー創製の基盤技術。RiboARTシステムのコア技術は、目標とする創薬ターゲット(タンパク質)に結合するポテンシーの高いアプタマーを取得する技術(SELEX法を拡張した技術)と、取得したアプタマーを臨床開発品として最適化する技術である。1本鎖の核酸には多様な「かたち」を創る造形力があり、1015種類の膨大な配列ライブラリーの中から、SELEX法によって標的タンパク質にジャストフィットする核酸分子(アプタマー)を釣り上げ、医薬候補品に仕上げる。
【問い合わせ先】 (報道に関すること) (RiboARTシステムに関すること) (SPring-8に関すること) |
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