大型放射光施設 SPring-8

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導電性高分子の配向膜を簡単に作製する世界初の手法を開発!曲がるタブレットや体に貼る端末への応用も(プレスリリース)

公開日
2017年07月11日
  • BL19B2(産業利用I)

2017年7月11日
国立大学法人広島大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター

本研究成果のポイント
• 基板(例えばガラス板)を布や紙でブラッシングし、電気を流すプラスチック分子(導電性高分子)の溶液を滴下・乾燥すると、導電性高分子が並んだ膜(配向膜)が完成(図1)。
• 極薄(厚さ30 nm)の配向膜は基板からはがせ、好きな場所で利用できる(図2)。
• 配向膜に電気を流すと発光(図3)。しかも発光は偏光を示した。

 広島大学自然科学研究支援開発センターの齋藤健一教授、加治屋大介助教、理学研究科・大学院生の今西正義氏、高輝度光科学研究センターの小金澤智之主幹研究員の研究グループは、導電性高分子の配向膜を簡単に作製する世界初の手法を開発しました。この手法は極めて簡単であり、特に熱に弱い物質での配向膜作製に大変適しています。更に、環境にやさしくコスト削減にもつながる手法です。なお、なお、大型放射光施設SPring-8(※1)BL19B2においてX線回折測定を行うことにより、通常の実験室では困難である極薄の膜について、構造解析が可能となりました。

【発表論文】
論文タイトル
 Uniaxial orientation of P3HT film prepared by soft friction transfer method.
著者と所属
 Masayoshi Imanishi1, Daisuke Kajiya2, Tomoyuki Koganezawa3, and Ken-ichi Saitow1, 2
 1. 広島大学大学院理学研究科(化学専攻)
 2. 広島大学自然科学研究支援開発センター(低温・機器分析部門)
 3. 公益財団法人 高輝度光科学研究センター
掲載雑誌
 Scientific Reports
DOI番号
 DOI : 10.1038/s41598-017-05396-9

【背景】
 2000年に白川英樹教授らは、「導電性高分子の発見と開発」によりノーベル化学賞を授与されました。2017年の現在、導電性高分子をはじめ電気を流す有機物は、タブレットやスマートフォンなどの有機EL、次世代のスマートデバイス(体に貼れるセンサーや端末など)の基幹材料として、大変重要になっています。これらデバイスの性能向上には、導電性高分子の配向が極めて重要です。その理由は、導電性高分子の配向が、センサーの応答速度、画面の明るさ、省電力化に、数100倍の性能向上として寄与するからです。

【研究成果の内容】
 本研究グループでは、基板(例えばガラス板)を綿の布でブラッシング後、導電性高分子溶液をスピンコート(※2)するだけで、一軸配向(※3)した導電性高分子の配向膜(厚さ30ナノメートル)を得る手法を開発しました。主な特長は、以下の3つです。1)極めて簡単な手法です。常温で行うため、高温で分解しやすい有機物を、配向膜ならびに基板の材料として利用できます。また、常温・空気中で行うため、高温、真空、グローブボックスのすべてが不要で、コスト削減につながります。更にロール・ツー・ロール法(※4)による配向膜製造も期待されます。2)水につけると配向膜は基板から簡単にはがれます(図2)。はがした配向膜は好きな場所に移して利用できます。3)配向膜に電気を流すとEL発光(※5)し、更に偏光(※6)しています。その他、配向のメカニズムは基板に付着したセルロース(綿や紙を構成している高分子)のテンプレート効果(※7)であること、既存の手法(摩擦転写法※8)と比べ配向度が17倍高くなることもわかりました。なお、導電性高分子の配向膜作製の新しい手法のため、「ソフト摩擦転写法」と命名されました。

【今後の展開】
 本研究では、主に有機太陽電池と有機ELでよく用いられる導電性高分子であるP3HTとMEH-PPV(※9)で実験を行いました。それ以外の分子や複数の基板でも行ったところ、それぞれについて配向膜が得られました。今後は、更に多くの導電性高分子や基板で、配向膜の作製と構造解析の研究を、発展させる予定です

 本成果は、国際科学誌Natureの姉妹誌である「Scientific Reports」に、2017年7月11日(火)午前10時(英国夏時間)に公開されました。オープンアクセスのため、論文はご自由にご覧になれます。


【参考図】

図1 
図1

基板を綿の布でブラッシング、導電性高分子の溶液を滴下・乾燥、厚さ30 nmの導電性分子の配向膜が完成。この手法は、柔らかい布で常温での摩擦転写法に相当する。従って、本研究において、ソフト摩擦転写法と命名された(従来の摩擦転写法は、硬いテフロンの棒を120-200℃ほどに加熱した基板に擦りつける)。

図2 ソフト摩擦転写法で作製した厚さ30-40 nmの導電性高分子(P3HT)の配向膜を基板よりはがす方法。
図2 ソフト摩擦転写法で作製した厚さ30-40 nmの導電性高分子(P3HT)の配向膜を基板よりはがす方法。

(a)基板上の導電性高分子の配向膜、
(b)(a)を温度60℃の水に浸す。
(c)はがれた配向膜、
(d)他の基板に移した配向膜。

図3 配向した導電性高分子(MEH-PPV)の配向膜のEL。
図3 配向した導電性高分子(MEH-PPV)の配向膜のEL。

電気を流すことで、赤く発光している(偏光もしている)。


《用語解説》

(※1)SPring-8兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、高輝度光科学研究センターが運転と利用者支援等を行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。

(※2)スピンコート高速で回転している基板上に溶液を滴下し薄膜を作る手法。滴下された溶液は遠心力で拡がって薄くなり、それが乾燥すると薄膜が生成する。

(※3)一軸配向: 一方向への配向。

(※4)ロール・ツー・ロール法電子デバイスを高効率で量産する手法。例えば、ロール状に巻いたプラスチック基板に導電性高分子の回路を印刷し、ロール状に巻き取ることで、デバイス作製の工程とコストを大きく省き、大きなコストダウンをはかる。

(※5)ELエレクトロルミネッセンスの略(有機ELはエレクトロルミネッセンスである)。発光体に電界をかけ発光する現象。具体的には、電子と正孔を電界注入し、それらが再結合することにより、エネルギーギャップに相当する発光を与える。

(※6)偏光光は振動している電場と磁場から構成される。この電場と磁場の成分が一方向に振動している光を指す。偏光は、液晶ディスプレーや3Dの立体映像でも利用されている。

(※7)テンプレート効果物質が型として働き、その型の上に存在する物質の構造・性質に影響を及ぼすこと。

(※8)摩擦転写法配向膜作製法の名称。高温(120-200℃)に加熱した基板にテフロン棒を擦りつけ、その上に溶液を滴下して配向膜を作製する。

(※9)P3HTとMEH-PPV前者はPoly(3-hexylthiophene-2, 5-diyl)、後者はPoly[2-methoxy-5-(2-ethylhexyloxy)-1, 4-phenylenevinylene]の略。

【研究支援】
・科学研究費補助金 基盤研究(A)
・最先端・次世代研究開発支援プログラム(グリーン・イノベーション)



【お問い合わせ先】
<研究に関すること>

広島大学 自然科学研究支援開発センター 低温・機器分析部門
広島大学 大学院理学研究科 化学専攻(併任)
教授 齋藤 健一
 Tel:082-424-7487 FAX:082-424-7486
 E-mail:saitowathiroshima-u.ac.jp
 URL: http://home.hiroshima-u.ac.jp/saitow/ (または「光機能化学」で検索)

<報道(広報)に関すること>
広島大学 財務・総務室広報部 広報グループ
 Tel:082-424-6762 FAX : 082-424-6040
 E-mail:kohoatoffice.hiroshima-u.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課 
 TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
 E-mail:kouhou@spring8.or.jp

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