新たな発光材料の可能性を拓く「ナノコンポジット蛍光体」を開発 ~蛍光体探索の新たな道筋を示す~(プレスリリース)
- 公開日
- 2017年11月22日
- BL02B2(粉末結晶構造解析)
2017年11月22日
株式会社 小糸製作所
国立大学法人 東京工業大学
国立大学法人 名古屋大学
株式会社小糸製作所(社長:三原 弘志)は、東京工業大学(学長:三島 良直)の細野秀雄教授の研究グループ、名古屋大学(総長:松尾 清一)の澤 博教授の研究グループとの共同研究の結果、空気中ですぐに潮解してしまうヨウ化カルシウムを用い、優れた耐久性と高い発光性能を持つ「ナノコンポジット※1蛍光体」の開発に成功しました。 ナノコンポジット蛍光体の特長 今回成功したヨウ化カルシウムを用いたナノコンポジット蛍光体は、耐久性不足で機能材料への適用検討の対象から外れていたハロゲン化物、カルコゲン化物に対し、実用化の道筋を示しました。この手法は、蛍光体だけに留まらず、さまざまな機能材料探索へも応用が期待できます。 掲載情報 |
研究の背景
ハロゲン化物、カルコゲン化物に発光元素をして希土類を微量含有(ドープ)させると、その緩やかな原子結合(結合の熱振動が小さい)から、内部損失の少ない蛍光体が作製できます。しかし、これらの化合物は耐湿性が低く、実際に使用できるケースは稀でした。
本研究は、最も耐湿性が低い化合物のひとつであるヨウ化カルシウムに希土類のユーロピウムイオンをドープした蛍光体に対し、実用耐久の付与を目的にナノコンポジット化を試みました。
研究の内容と成果
ユーロピウムをドープした直径約50 nmのヨウ化カルシウムのナノ単結晶を、結晶性シリカ(クリストバライト)内に埋め込んだナノコンポジット蛍光体の合成に成功しました。図1は、合成した直径50 μmほどのナノコンポジット蛍光体粒子断面の電子線照射による発光を示します。クリストバライトに埋め込まれたナノ単結晶(図1左 白色部)のみが発光している様子がわかります。
得られたナノコンポジット蛍光体を85 ℃85%の高温高湿下に2000時間曝した後の発光強度の低下は、僅か2%でした。ナノコンポジット蛍光体の400 nm励起での内部量子効率は98%に達し、最高レベルの効率を示します。その結果、青色発光の代表的な蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+ ※7と比較し、2.7倍の強い青色発光が得られます。ナノコンポジット蛍光体の合成は、固相反応中でヨウ化カルシウムがフラックス※8としてガラス質のシリカ粒子を結晶化させたとき、結晶化したシリカ(クリストバライト)中に取り込まれたフラックスが固化・結晶化する自己組織化を活用しています。
図1.ナノコンポジット蛍光体断面SEM像(左)と電子線発光像(右)
今後の展開
ハロゲン化物、カルコゲン化物は、本来、優れた発光性能を示しますが、耐久性の懸念から、これまで、機能材料としては検討されていませんでした。しかし、今回の研究成果から、本技術を用い新たな発光材料の開発に展開していきます。
用語解説
※1:ナノコンポジット
ある素材を1~100 nmの大きさに粒子化したものを、別の素材に練りこんで拡散させた複合材料。
※2:希土類
周期表3(ⅢA)族であるスカンジウム・イットリウム・ランタノイド15元素を合わせた17元素の総称。
※3:クリストバライト
シリカ(SiO2)は、多くの結晶形体を持ち、クリストバライトは高温で結晶化したときの構造を持つシリカ。
※4:ユーロピウムイオン
原子番号63の希土類元素の1つで、ランタノイドに属する。蛍光体の発光元素として活用される。
※5:固相法
異なる原料粉末を混ぜ合わせ加熱。高温での粉末間のイオン拡散により反応させる方法。
※6:大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その運転と利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
※7:BaMgAl10O17:Eu2+
蛍光灯、プラズマディスプレイに用いられている代表的な青色蛍光体。
※8:フラックス
融剤ともいう。固相反応やセラミックの焼結反応を促進させるため添加される薬剤。フラックスは溶融しながら、固体原料間のイオン移動を活発化させる。
問い合わせ先: 国立大学法人東京工業大学 国立大学法人名古屋大学大学院工学研究科 (SPring-8 / SACLAに関すること) |
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