マグマの複雑な泡の構造が火山の爆発的噴火を促すことを解明(プレスリリース)
- 公開日
- 2017年12月01日
- BL20B2(医学・イメージングI)
2017年12月1日
国立大学法人 東京農工大学
国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院の亀田正治教授は、東京大学、東北大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究者と共同で、マグマ中に自然に発生する複雑な泡の構造が、火山の爆発的噴火を促すことを明らかにしました。この知見は、火山噴火の物理的モデリングに有用であり、特に、大規模爆発的噴火の発生要因の理解を進展させるものです。将来的には、災害軽減につながる噴火の予測に役立つことが期待されます。 本研究成果は、Scientific Reports(12月1日付:日本時間12月1日19時)に掲載されました。 発表雑誌: |
現状
マグマは流体ですが、形の変わり方や力のかかり具合に応じては固体的にも振る舞います。噴火の際、軽石などの粒子として放出されるマグマ噴出物は、岩石が壊れるのと似た現象によって作られます。この現象はマグマの固体的な破砕と呼ばれ、マグマ中のガスの急激な放出をともなう爆発的噴火のきっかけになると考えられています。この破砕は急速な減圧によって引き起こされるというモデルが提唱されており、このモデルは、火口を覆う溶岩ドームの崩壊をきっかけとする爆発的噴火の発生過程をよく説明しています。しかし、理論や実験から必要とされる急減圧の時間スケールと現実の火山現象の間には乖離があり、また、何時間も連続する大規模な爆発的噴火において、深部から流れてくるマグマの中でなぜそのような破砕が起こるか、という点が未解決の問題となっていました。
研究体制
本研究は、機械工学を専門とする東京農工大学の亀田正治(工学研究院・教授)と火山物理学を専門とする東京大学の市原美恵(地震研究所・准教授)がチームを組み、東京農工大学大学院生の丸山祥吾、黒川紀章、青木ヤマト、東北大学の奥村聡(理学研究科・准教授)、JASRIの上杉健太朗(利用研究促進部門・主席研究員)と共同して進めました。また、本研究の実施にあたり、JSPS科研費(挑戦的萌芽研究26630047、基盤研究16H04039)の助成を受けています。
研究成果
研究グループでは、3次元X線マイクロトモグラフィーを使って発泡状態を詳しく調べたマグマ模擬材料が減圧により壊れる過程を高速度カメラ撮影によってとらえました(図1参照)。さらに、実験と同じ発泡状態を模擬した試料の内部に働く力を数値シミュレーションにより調べました。その結果、気泡が不均質に存在すること、またそのサイズが不均一であることが、流体であるマグマが脆性的に破砕される本質的な原因であることを示しました(図2参照)。特に、大きな気泡の近くに小さな気泡が存在すると、小さな気泡の周りに力が集中し、そのことがきっかけで、き裂が進展しやすくなる、という点が重要なポイントです。このような気泡構造は、大量の軽石・火山灰を放出する大規模な爆発的噴火の噴出物に特徴的に見られるもので、発生条件の理論予測が進んでいます。気泡構造と破砕の起こりやすさを関連付けた今回の発見は、連続的な爆発的噴火を説明する新しい噴火のシナリオを導きます。
今後の展開
実際の噴火による噴出物(火砕堆積物)から測定可能な情報との関連付けが進めば、本研究での提案する破砕シナリオの正当性が確かめられ、災害の低減につながる噴火の予測に役立つことが期待されます。また、この現象は、「粘弾性流体の破壊」という連続体物理学で最近注目を集めている現象(注1)と密接に関連しており、適切な数理モデルの構築や、それに基づく数値シミュレーション手法の確立などの波及効果も期待されます。
注1)アメリカ物理学会(American Physical Society)発行のPhysics誌(第9巻, 2016年8月)の”Viewpoint: How to Fracture a Fluid”として取り上げられている.
図1 発泡マグマ模擬材料の破砕(上図:試料内気泡分布の3次元構造、下図:破砕する試料(左が初期状態)) 発泡状態を詳細に観察できる3次元X線マイクロトモグラフィーを用いて、マグマ模擬材料である発泡水あめが減圧により壊れる過程を高速度カメラ撮影によってとらえました。
図2 試料内部の応力場(数値計算結果) 右図の黄三角:き裂が生じた線、大きな気泡と小さな気泡との間に高い力(赤)が生じていること、別の大きな力(赤矢印)が生じている部分からはき裂が生じていないことから、不均一な気泡構造がき裂発生を促すことがわかります。
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